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第64話 風帝結界<テンペスト>

風の帝国(キリエ)


 眼下に広がる懐かしい国の景色。俺たちが抜けた以外、なにひとつ変わっていない。それから、独特な自然と風の匂い。頬を撫でる暖かい風。


 戻ってきた、風の帝国(キリエ)に。


「ここは相変わらず見晴らし最高ね~。よくユメと来たっけね」


 ネーブルが(がけ)っぷちギリギリのところで風の帝国(キリエ)を眺めていた。そうだな、よくデートに来ては、イチャイチャしまくったなぁ。


「それ以上行くと落っこちるぞっと」

「へーきへーき…………あっ」


 そう自信満々に言った矢先――足元を(ひね)り、滑らせそうになっていた。俺はネーブルの腕を引っ張って手繰(たぐ)り寄せた。


「言わんこっちゃない」

「…………うぅ、危なかった。ごめん」


 ……まあ、おかげでネーブルの感触を味わえているけどなっ。

 よくこうしていたっけ、少し昔を思い出す。


「いっそ泣きついて来てくれると嬉しいけど」

「ばか」


 とか言いつつも、ネーブルは離れなかった。

 よしよし、(なぐさ)めてやろうと思ったが――


「ユメ、パラドックスとの交信を終えた」


 キャロルとテレパシーを交わしていたフォースが口を開いた。……きたか。


「で、どうだった」

「うん。『火の大国(グロリア)』、『水の聖国(サンク)』と同盟を組んだ。承認完了」

「でかしたっ! これで残るは『風の帝国(キリエ)』だけか」


「あれ、『闇の覇国(アニュス)』は?」


 不思議そうな顔で俺を見るフォース。

 確かに、説明していなかったな。


「ああ、『闇の覇国(アニュス)』へはアザトースに手紙を送っておいた。覇王に言っても、どうせ聞いてくれないからな。だから、アザトースなら何とか『一時的な同盟』くらいにはしてくれるだろう」


「分かった。ユメに任せる」


 さて、そうなると――やって来たはいいが『風の帝国(キリエ)』とどう同盟を組むべきか。少し悩んでいると、ゼファが遠くを見つめていた。あの視線の先は、俺たちがかつて住んでいた場所だろうか。


「…………」

「ゼファ……」

「いえ、悲しんでいるわけではないのです。少し、違和感を感じて……」

「違和感?」

「はい、魔神とは違う気配です。これはまるでモンスターのような……」


 その通り。四方八方から大量のモンスターが突然湧いて現れ、『風の帝国(キリエ)』に襲い掛かっていた。



「――――なっ、なによあれ!!!」



 わらわら現れるモンスターに驚くネーブルは叫んだ。


「分からん。いきなり現れたな……しかし、この規模はおかしい。いくらなんでも多すぎる。一万はいるぞ……」


 通常モンスターがこんな集中することは、まずない。

 それこそ『魔王』の力がなければ――――まさか!!!



 テティスが母さんたちを利用して……!



 これは言うなれば前哨戦(ぜんしょうせん)ってことか。

 向こうは、こっちの行動を読んでおり、遊んできてやがるってことだ。



「…………くそっ。とにかく、『風の帝国(キリエ)』を…………」



 守るべきなのに足が、気が進まない。


 くそ、あの記憶がフラッシュバックする。


 あんな風に裏切られ……追放されたのに、俺たちを捨てた国をどうして助けなければならないのか。でも……分かっている。同盟がなければ、この先に未来はないのだと。


 そうこうしていると、モンスターたちは『風の帝国(キリエ)』に雪崩(なだれ)込み、次々に建物や人々に襲い掛かっていた。



「防壁が突破された……!? 風帝結界(テンペスト)すらないのかよ……!」



 風の帝国(キリエ)を守護する最強の『風帝結界(テンペスト)』が張られていなかった。普段ならば、その結界によってモンスターの侵入は許されなかった。


 だが――、


「ユメ様、あのままでは国の人たちが!」

「ゼファ……そうだな。ここはもう国がどうとか言っている場合じゃない。過去の遺恨はさておき、テティスをぶっ倒す……それだけだ。みんな、まず俺があのモンスターを殲滅(せんめつ)する。後に続いてくれ!」



 決して、帝王ではない。

 俺は『風の帝国(キリエ)』の人々(・・)を守る――!!!

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