第59話 闇の覇国<アニュス>
夢幻騎士は『ベテルギウス』、『シリウス』――そして、『プロキオン』が隊長を務めている。この三人こそ、女王が認める最強の騎士たちだ。
――――プロキオン。
白髪ツインテールで、しかも犬耳を持つ少女。
少し変わったフリフリの衣装に身を包み、肌の露出もなかなか。相変わらず、ムチムチのフトモモが特徴的だ。そんな彼女はパァと顔を輝かせ、飛びついてきた。
「プロキオン、元気だったか」
「よぉ、ユメっち! もちろん、元気だったよ~。それより、どうして遊びに来てくれなかったのさ~」
「いやぁ、こっちも忙しくてなぁ」
「そうなの? まあいいや~。じゃ、光の天国行こ! でさでさ、わたしと遊ぼうよ~。最近ずっと魔神の相手ばかりで疲れちゃったし」
ベタベタしてくるのはいつも通りだった。
……ま、俺は悪くないのだが――。
「…………」
ネーブルの針のような視線が痛い。
というか、引きはがしてきた。
「ちょっと、プロキオン! ユメから離れて」
「ネーブル。なんだ、あなたもいたのね!」
ぴょーんと飛び跳ねると、プロキオンはネーブルに抱きついた。
そや、ネーブルの旧知でもあったな。
「ちょ……もう、すぐ人にベタベタする~…」
あーあ、あんなにスリスリされて。
まあ、プロキオンはネーブルに任せてっと。
「じゃ、せっかくお迎えも来たし、ベテル。光の天国への転送をお願いしたい」
「分かりました。それでは、皆さん。外に出入り口を展開してあるので、そこへ飛び込んで下さい」
なるほど、用意がいいな。
俺たちは騎士たちに連れられ、ついに光の天国へ入った。
◆
空間を出ると、そこは光の天国――――のはずだった。
「…………あれ、なんか暗いぞ」
「ねえ、ユメ。ここ真っ暗よ?」
何も見えない。今のところネーブルの声がしただけ。
「ユメ様、あの……とても怖いです」
「ゼファ、手を繋いであげるよ。ほら」
「ありがとうございます♪」
ぎゅっと恋人繋ぎになった。
「ここは光の天国ではない」
フォースがぼそっとつぶやく。
「フォース、それは本当か。てか、夢幻騎士たちはどうした?」
「空間移動中に、我々だけ別の場所へ飛ばされてしまった。何者かによる妨害があったと推察される」
「妨害……」
「そう。ユメ、この感じに覚えがない?」
「……ある。正直、ここには懐かしいニオイがしていた」
俺という闇が生まれた場所。
かつて、覇王・ナイアルラトホテプに拾われ――いや、ヤツによって俺はこの世界に引き込まれた。もともと死んでいた俺を闇として蘇生したとか何とか。詳しいことは教えてもらえなかったけど。
つまり、ここは――
闇の覇国である。
「闇の国か……」
「え、なに、ここが闇の覇国だっていうの……?」
ゾっとしているのか、ネーブルの声が震えている。
「間違いなくな。ただ、以前はここまで闇が深くなかった……」
おかしい。
そもそも、覇王・ナイアルラトホテプは倒したはずだし。
……いや、倒してなかったのか。
そうでなければ、こんな妨害なんて事が起きるはずがないんだ。つまり、ヤツが何らかの方法を使い、俺たちをここへ……闇の覇国へ招き入れたということだ。
迂闊。
そもそも、覇王は『混沌』だ。
俺に全ての闇を与えた王の中の王。そう簡単にくたばるわけねぇよな。
「みんな、俺から離れるな。大丈夫、ここでは俺は無敵だ」
闇属性の濃いこの場所では、俺の本領が限界を突破して発揮される。補正が上乗せされまくるのだ。つまり、最強にして無敵になる。どんな傷を覆うが一瞬で再生。スキルの火力もいつもの10倍……いや、100倍はいくだろう。
とにかく、この闇を振り払わねばと俺はスキルを使おうとした……のだが。
「やべぇ、みんな離れ――――がはっ……!」
突然、俺の胸が貫かれた。
やはり、闇に潜んでいやがったか――。
「ユメ!」
「ネーブル、俺はいい! ゼファとフォースを頼む!」
「わ、分かった」
『…………ようやく会えたな、ユメ』
「ああ? って、その声……あんたか、アザトース……」
その声の主は、覇王・ナイアルラトホテプではなかった。
『そうだ。わざわざ自ら出向いて、お前に会いに来たのだ。覇王もお前に会いたがっていたがな。しかし、今日は私の用事でね』
「……なっ、やっぱり覇王は生きてやがったか。……そうか、つまり前に出現した覇王は……」
『アレは、ヤツの作った幻影にすぎない。本物の覇王は今も玉座だ』
「全部あんたの差し金ってわけか。窮極の闇め」
この世すべての暗澹。虚空。魔王を生み出す者。そして、万物の頂点に立つ神性である。アザトースこそ真の闇の覇者であるが、その地位をナイアルラトホテプに譲っていた。その理由は定かではないが、どうせ何か企んでいるに違いない。
『ユメ、お前は覇王の息子であるが、私の息子でもある。……いや、それ以上だ。お前だけは特別だ。その遥かなる闇、万物を理解する気概。いずれは、あの覇王すらも超える存在となろう。――しかし、お前には渾沌が足りん」
くっくと笑うアザトースは、ゆっくりと歩き出した。俺から視線を決して外さずに。逃げれば『殺す』と言っているようだ。
『覇王には『混沌』をくれてやった。だが、それは窮極ではない。ユメ、お前は『闇』、『万物』、『渾沌』を極めるのだ。その時、お前は全てを手に入れることが出来よう。……そう、お前が夢に見ていたアレさえもな』
「…………なにを企んでやがる」
『なにも。そもそも、今回の魔神騒動は、ナイアルラトホテプが引き起こしたこと。私はなんの関係もない』
いや、あるだろ。
あえて言わないけどな。
「まあいい、アザトース――あんたの口車に乗ってやるさ。けどな、覇王に伝えておけ。今度、俺の国を襲ったら、次は本当に倒すってな」
『いいだろう。それくらいは伝えておいてやる。……さて、旅路を邪魔したな。光の天国へ行くのなら送ってやろう』
「な……。いや、あんたじゃ無理だろ。フォースに頼む」
『そうでもないさ。私くらいになると可能なのだよ』
……うそだろ。あの光の天国の守護すらも突破しちまうのかよ、アザトースの力は。
『ではな、ユメ』
アザトースはチラっとこちらを見るだけで、いきなり転送を開始した。……んな、アホな。それだけで!?
応援ありがとうございます。
もし面白い・続きが読みたいと感じましたら
ぜひブックマーク・評価をお願い致します。
下の【★★★★★】を付けて下さると
大変励みになります。




