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第58話 極魔法使いとの約束

 いつもの夜を迎え、いつもの朝。

 いや、今日は旅立ちだ。


 光の天国(ベネディ)へ向かう。フィラデルフィアに俺の妹、姉、母さんのことを聞いて……それから、アトリ捜索だ。


 俺の寝室で眠っているフォースの顔を見て、それでしばらくのお別れだ。少し――いや、かなり寂しくなるな。出来ることなら離れたくはない。でも、それでも俺は先へ進まねばならない。

 ……嫌な予感がしていた。これからの未来、よくないことが起きる。そんな気がしてならなかったからだ。


「……フォース、開けるぞ」


 扉をノックし、中へ入ると――


「…………あれ、フォースの姿がない!?」


 いなかった。

 そこにはフォースの影も形もなかった。


「起きたのか……。でも、どこへ?」



 付近をあっちこっち探し回ったが、いなかった。



 ……まさか連れ去られた……?



 いや、それはあり得ない。他人が侵入したのなら、気配で分かる。それに、ネーブルやゼファもいるんだ。まず気づく。


 となると――



「――――ん?」



 キッチンに差し掛かった時だった。

 なんだかゴソゴソと気配が。


「まさか……。そこにいるの、フォースか」

「…………むぎゅ!」

「むぎゅ!?」


 ま、まさかな……。


 そっと覗いてみると、パンやら果物を頬張るフォースがいた。お前は小動物かっ。いや……なるほどね、目覚めて腹ペコだったか。


「……あー…なんだ、フォース。どうせなら、感動的に再会したかったような気もするけど、これはこれでお前らしくていいな。そうだよな、一日、二日ほど寝ていたもんな、腹減るよな」


 コクコクを(うなず)くフォースは、手を休めることなくバクバクと食べ続けていた。こんな食欲旺盛な彼女は見たことがない。いつも小食だし。


 ま……でも、起きてくれて良かった。


「おかえり、フォース」

「…………ユメ、ごめんね」


「いいさ、俺の方こそ修行が足らなかったよ。今度、マスターに改めてソウルフォースの修行をつけてもらおうと思う」


「……うん」


 フォースは食べるのを止め、視線を合わせてきた。

 いつ何時も深緑の瞳が美しい。


 次第にフォースはすっと涙を零した。


「どうした、やっぱり感動の再会の方が良かったってか」

「…………」


 無言のまま抱きついてくる。

 ぎゅっと手に力を籠めて、顔を俺の胸に埋めてきた。俺はもちろん、それに優しく応えた。ああ――ずっとずっとこうしたかった。


「もうユメと会えないと思った……だから、すっごく嬉しい」

「俺もだよ。俺にはフォースがいないとダメなんだよ。勝手に消えるのは許さないからな。だからもう己を犠牲にするような真似は禁止だ。もし無茶したら嫌いになっちゃうからな」


「……分かった。もう無茶しな……いから……。あたし、ユメのこと大好きだもん。言うこと聞くから……お願い、嫌いになっちゃやだ……」


「じゃあ、約束(・・)な」

「うん。約束する、から……」


 フォースは俺から離れ、目蓋(まぶた)を閉じた。

 俺もフォースのことは大好きだし、究極に愛している。だから、ひとりの女性として見ているので、自然の流れとして唇を重ねた。


「…………」


 しばらくして離れた。

 これで何度目だっけな。約束事。それと同じくキスの回数もあるのだが。


 ま、それはいいな。


「よし、フォース。肩車するから、ネーブルとゼファにも話さなきゃな」

「いく。二人にも謝りたい。心配掛けちゃってごめんねって」

「ああ、二人とも心配していたからな。――おし、行くぞ」



 ◆



「フォース……」「フォースちゃん……」


 ネーブルもゼファも目を丸くした。

 予想よりも早く目を覚ましたからだ。


「心配したわ……元気そうでなによりよ」ネーブルは困り顔で、でも安堵(あんど)していた。「フォースちゃん。本当に良かった。もう二度と目を覚まさないかと」そうフォースを優しく抱きしめるゼファは、泣いていた。


「ネーブル、ゼファ……ごめんなさい。あたし、深く反省してる」


「それならいいわ。フォースは自分の過ちを素直に認め、反省する。しかもちゃんとユメと『約束』して改める。そこがあんたの良いところよ。それにもう、ユメと話したんでしょ。わたしが言うことはないわ」


 ネーブルはニカッと笑って、フォースの頭をポンポンした。

 へぇ、よく見てるな、ネーブルのヤツ。


「フォースちゃん。わたくしは、あえてフォースちゃんを怒ります」

「……うん」


 おや、ゼファはお怒りモードかな。


「だって、わたくしはフォースちゃんが大好きだからです。大切な人が消えてしまうのは、とても悲しいこと……。もうネーブルを、わたくしを……なによりもユメ様を悲しませてはいけませんよ。……めっ、です。

 けれど、無事に戻ってきてくれた……それだけで十分です」


 なんだかんだ、ゼファは優しかった。

 フォースをずっと抱きしめ続け、優しく包んでいた。



 ◆



 いよいよ、光の天国(ベネディ)へ旅立ちだ。

 もちろん、フォースを入れて。


 これで無事に四人だ。

 俺、フォース、ゼファ、ネーブル。


 やっぱり、このメンバーが一番落ち着くな。



 ――さて、いよいよフォースの『ワープ』で向かおうとした時だった。



 扉がコンコンと鳴った。誰かがノックしたようだ。……ん、誰かな。キャロルあたりが用事だろうか。なんてあんまり期待しないで出てみれば――。


「ありゃ」


 なんと扉を開けると、そこには天使少女の『ベテルギウス』が立っていた。相変わらず、天使の翼が神々しい。


「なんだ。これから光の天国(ベネディ)へ向かうところだったぞ。わざわざ迎えに来てくれたのか、最強の夢幻騎士が」

「お久しぶりです。ユメさん。……はい、迎えに来ました。女王様直々のご命令でしたので。ですが――」


 ベテルがチラっと背後を見ると、


「よぉ~、ユメ! 息災(そくさい)だったか?」

「なんだ、シリウスもいたのか。ああ、元気にやっとるよ」

「そうか。それは何よりだ。そうそう、今日はもう一人(・・・・)いるぜ」


「もう一人~?」


 まさかな、と、思えばまさかだった。

 冥府の番犬が帰ってきていたか――。

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