第06話 暗黒地帯を手に入れた
魔王との不思議な再会を果たした。
「母さん、姉ちゃん、メイ。元気そうでなにより」
「おかげさまでね」
「こちらは元気にやってるわよー」
「お兄ちゃんは、今日はひとりなの~?」
「んや、船にフォースたちがいるよ。まだこんな時間帯だからね、ぐっすり寝てる。起こすのも悪いからさ、ひとりで散歩中だったんだ」
「そうなんだー。じゃあ、お兄ちゃんを独り占めしてもいいよね!?」
ニコっと健気に笑う妹のメイは、照れつつも俺の方へ向かってきた。
「いいぞ。俺もメイに会いたかったし」
元勇者の俺が、小さな魔王を抱き上げた。
すごい変な状況だけど、これが現実なのだから仕方がない。
一年前、俺は世界の平和を取り戻すため、各地を巡った。魔王の放ったモンスターや最強の大幹部を叩きのめし、最後にはここ『パラドックス』へ乗り込んだ。
もちろん、最初は本気で魔王を倒す気でいた。
だが、乗り込んで魔王と対面したら――どうだ。
相手が『母』と『姉』と『妹』だったんだ。
お互いに驚きまくり、本物かどうか確認しあった。その結果、本当に家族と判明したので、戦う気力はすっかり失せてしまった。
この世界へ来る前は、もともと大の仲良しだったので、身内ではそんな気も起こらず……結果、手を取り合い、あっさりと和解してしまったのである。
そうして、世界に平和が戻り、俺は伝説の勇者として名を馳せた。
一躍、時の人となった俺は、最初こそ気分は良かったが何かが違った。
その違和感を抱きながら俺は毎日を過ごし――ついに、風の帝国を追い出されてしまった。
それで現在――
「姉ちゃん、この世界はどうなっちまったんだ。魔王の次は『魔神』が出たみたいだけど」
俺は、姉のメアに聞いてみた。
「世界のバランスが崩れ始め、魔神が現れたようね。その魔神は、人々の恐怖を欲し、各地を襲い始めているみたいだけど、どの国も【防衛値】が高いからね~。私たちですら攻略は難しかったもの。そう簡単にはいかないはずよ」
「そうだよな」
そう納得していると、母さんが。
「ユメはどうしてここへ?」
「それなんだけど、かくかくしかじかあってね」
「……なるほど。風の帝国を追放されてしまったの。それは可哀想に。でも、世界って理不尽に出来ているものだから、気にしちゃダメよ」
「分かったけど、母さん近いって……」
ずいっと寄ってくる母さん。コスチュームがただでさえ露出度が高いので、あんまり近寄らないで戴きたい。
「もう、親子なんだから気にしなくてもいいのに」
「気にするってーの! で、パラドックスは今どうなってる? この先は?」
「国を作りに来たのよね、ユメ」
「なんだ、分かっていたのか。さすが『心理』の力を持つ魔王だよ。シンリ母さん」
そう、母さんは、人間の心を読んだり、操ったりする凶悪な魔王なのである。対峙することがなくて良かったと、心底思う。
「ええ、この暗黒地帯は、ユメのものよ。だって、魔王はもう倒されたのだからね。好きにしていわ」
「母さん……ありがとう。もちろん、姉ちゃんやメイも一緒に住むよな?」
だが、母さんは首を横に振った。
「残念だけど、母さんたちは魔神の情報収集に向かうわ」
「情報収集に? そんな、せっかく再会できたのに~」
「この新しい国を守るためよ。すべてはユメの為に」
うんうんと姉ちゃんもメイも頷いた。
俺の為に……。
「ありがとう」
「だから、建国がんばってね。……ほら、あなたの仲間がやってきた。私たちは行くわ」
魔王の翼を広げ、母さんは空へ。
姉ちゃんも続いていく。
「メイ……」
「お兄ちゃん。寂しいけど……また逢えるよ」
「そうだな。無事に帰ってくるんだぞ」
「うん」
ぎゅっと妹を抱きしめて、別れた。
「じゃ、ユメ。またね!」
俺は三人に手を振って、見送った。
……三人の魔王は行ってしまった。
入れ替わるようにして、フォース、ゼファ、ネーブルがやって来た。
「おはよう」
「ユメー!」
まず一番に、フォースが飛び込んできた。
「おはようございます。ユメ様」
「おっは、ユメ。あれ、さっきなんか変な気配を感じたけど、気のせいかな」
まぶしい笑顔のゼファは、頭を下げて丁寧に挨拶。ネーブルはキョロキョロと周囲を見渡す。相変わらず気配に敏感だな。
「気のせいじゃね? それより、この場所使っていいってさ。全部、俺たちのもの」
「え~? どういうこと?」
分からんと首を捻るネーブルは置いておき、
「なんだ、ずいぶんとベッタリしてくるな、フォース」
「……」
「寂しかったのか」
「起きたら、ユメの姿がなかった。心配した」
ちょっと拗ねてる。
こういう時は、肩車してやるに限る。
「……ん~~」
フォースを肩に乗せると、機嫌はすぐ良くなった。
「ユメ~~~♡」
単純で助かる。
「あの、ユメ様。さきほど、この場所を使って良いとおっしゃっておりましたけれど……」
「ああ、そのまんまの意味だよ、ゼファ。ただなあ、自然が一切ないから材料集めに苦労しそうだ。けど、俺たちには黒船号があるし、あれで資材を運搬すりゃいいだろう」
てか、たった四人で国作りは骨が折れそうだなー。
ん~…もう少し人間も必要だな。
すると、俺の考えを察したのか、ネーブルが人差し指を向けてきた。
「ユメ、人手が欲しいのよね!?」
「なんだ、ネーブル。アテがあるのか」
「あるわよ。わたしってこれでも、元・大手ギルドに所属していたのよ。そのコネを使って、優良ギルドを移住させてくるわ」
「…………」
「って、ちょっと! ユメ! どうして、そんな目でわたしを見るのよ!?」
「いやー…あの変人ギルドはなぁ。確かに強豪だから、頼り甲斐はあるけどな。どいつもこいつも一癖も二癖もあるヤツ等だったからな」
ある大幹部の攻略時に、人手が必要でギルドの力を借りた。
その時、ネーブルの所属していたギルドを頼ったのだ。だが、そのギルドには個性溢れるヤバイ奴等ばかりで、俺とフォース、ゼファは苦労したものだが――。
まあ、悪い連中ではないし、むしろ人が良すぎるくらいだし……ありっちゃありか。他に頼れる人間もいないしな。
「分かったよ、ネーブル。そっちは任せた」
「うん。じゃ、決定ね」
「それでは、わたくしはネーブルについていきますね」
「ゼファ……そうだな、二手に分かれるか。いいか、フォース」
「うん。いざとなれば、ソウルフォースで精神感応する。ゼファ、ハピネスリングを――」
俺が、ゼファにプレゼントしたリングだ。
それにフォースは人差し指で触れた。
「それだけなのか、フォース」
「これだけ。今後これで精神感応可能になった」
「便利だなぁ。じゃ、黒船号はいったんネーブルに預ける」
「了解! ゼファのことは任せて!」
二人は再び大陸を目指して行った。
「……さて、久しぶりに二人きりだな、フォース」
「えへへ……♡」
フォースのヤツ、すっごく嬉しそうだ。
よーし、少し休憩したらクリーチャーの残党狩りをして、スッキリさせよう。そのあとは、基礎を作って――忙しくなるぞ!
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