第22話 常闇と悪夢
海の最強エクストラボスが現れた。
その名も『ポセイドゥーン』であった。
いきなりだが、ここは水の聖国付近であり、海上だった。
「ワープの先が黒船号だったとはな……!」
「いきなりエクストラボス登場とか、休む暇もないわね」
ネーブルは、風属性魔法のサンダーボルトを浴びせていた。属性の相性により、効果は抜群だった!!
『ウギョォォォォォ――――――!!!!!!!』
「良い感じにビリビリにしてやったな、ネーブル!」
「どう、わたしのライジンスキルの威力!」
「すげぇよ、褒めてる褒めてやる」
「ユメってば、分かってるじゃない! 出会った頃は初心者だって馬鹿にしていたけど、今じゃ、このわたしにすっかり尊敬の念を抱いているってわけね!?」
「まぁ、そもそもお前は『超初心者』だけどな」
簡単に解説しよう。
『超初心者』とは、初級冒険者――つまり、初心者を極めた超人的存在なのである。なので、特定のスキルを極めた最強職なのであり、ネーブルの場合は『ライジン』なのであった。
「おっと、ネーブル。油断したなっ!!
」
ポセイドゥーンの『ライトニングボルト』が飛んできた。俺は『闇の極解放』で超加速し、飛び跳ね、ネーブルを庇った。おかげで押し倒すような体勢になった。
「……あ」
「…………ちょ」
右手になんだか弾力のある柔らかいものが……なんだろう。確認する前にビリビリにされたので、分からなかった。
「ギャアアア! ネーブル! 味方をビリビリにしてどーする!」
「変なとこ触るからでしょ!?」
「へ、変なとこってどこだよ!?」
「う、うるさいっ……」
ご想像にお任せってことか。
うーん。まあいいや。
煩悩を振り払っていると、フォースが大魔法を軽々発動しつつ移動していた。更に、船の上をピョンピョン動き回り、敵の攻撃を回避しまくっている。すげぇ。
「ユメ、ポセイドゥーンの体力はかなり高い。回避力も。だから、動きを鈍化させる必要がある。そこへ集中攻撃をするしかない」
「なるほどな。じゃあ、俺の出番ってわけだ」
「ただし、敵もネーブル同様の風属性魔法を使ってくる。注意して」
「そうだな」
水属性エクストラボスのくせして、風属性魔法を使ってくる厄介な存在だった。まあ、そういう特殊なタイプも良くいるからな、モンスターは。
「ユメ様、こちら皆さんの手当は完了しました」
「お、ゼファ。よくやった! こっちの支援を頼む」
「分かりました。それでは――グロリアスブレッシング!!」
ステータス補正が上乗せされ、力がアップした。
「オーケー。これだけ力があれば十分!」
あとは、闇スキル『イベントホライゾン』でトドメを――!
そう仕掛けようとしたところ。
『グハハハハハハ!! やはりやはりやはり!! この場所にいたか!! よう、クソ勇者!! いや、元クソ勇者か!? まあ、なんでもいい!! 久しぶりだなァ!!』
なんか飛行してきた。
「あん? 誰だお前……見覚えないぞ」
『だろうな。オレたちは『キル三兄弟』がひとつになった最強存在なのだ……!! ただの人間では授かれない魔神の『業気』を戴いた!!! 素晴らしい力だ……みなぎる……みなぎるぞォ!!!』
やべぇ力を放つ、キル三兄弟と思わしき人物。
てか、あれがあの三兄弟? 嘘だろ……醜すぎるバケモノじゃん。
変な触手がウネウネしてるし、目つきもヤバイ。
まるで、混沌の神話から飛び出してきたかのような、そんな怪物だった。
「ほっと――! まあ、ポセイドゥーンを倒したら相手してやるからよ。そこで見学でもしとれ」
『クククク……見学ぅ!? そうか、今はそこのザコと戦っていたのか。それは面白い。それではそのポセイドゥーンに『業気』を分け与えてみよう」
――そう、ヤツは手を向けると。
ポセイドゥーンに見たこともないエネルギーが伝っていった。
なんだありゃ……!?
すると、ポセイドゥーンの肉体が一気に膨張、禍々しい様相となった。
「うそ……」
俺もみんなもポカーンとなった。
さっきもヤバかったけど、今もかなりヤバくなった。
『フハハハハハハハ!! すごいぞこの力! モンスターにさえ影響を及ぼすのか……これで、そこら中のモンスターも強化できるということだな!! 面白いぞ!!』
「んな、悪趣味なことさせるかああああああああッ!!!」
ゼファに補助スキル『ゴスペル』を指示、これで火力は三倍。更に、フォースとネーブルに一斉攻撃を頼んだ。
『イベントホライゾン!!』
『サンダーボルト!!』
『ベテルギウス!!』
『――――――グギャアアアアボベベベベベドドドドドウォオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアギャアアアアアアアアアア!!!!!』
ポセイドゥーンをぶっ倒した。
『バ……バカな!!! 業気を与えたポセイドゥーンを……倒しただと!! ならば、このオレたちが相手になってやろう!!』
ビュンっと高速で飛んでくるキル三兄弟。
『これが、オレたち魔神の力だ!!!』
「は? 魔神の力?? それがどうした……?」
俺は、キル三兄弟だったものを睨んだ。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………』
自身の『闇の極解放』の更に奥底の闇――【シュヴァルツシルト】をほんの僅かだけ覚醒させた。
『……ヒィ!? な、なんだ今、ゾクっとしたぞ……なんだ、なんなんだ貴様は……!? 本当に人間か!? だが、オレたちの闇の力は魔神のもの!! 最強に変わりはないのだあああああああ!!!』
それでも突っ込んでくるキル三兄弟。
「そんなしけた闇じゃ、俺には勝てねぇよ」
『…………なにッ!?』
『グラヴィテイショナル――――――!!!』
一帯は常闇に染まり――、
愚者には永劫の悪夢を――、
『なななななななな、なんだこれはあああああああァァァ!!!! こんなワケの分からない闇があるとは聞いていない!!! 知らない、オレたちはこんな闇は知らない!! 理解不能! 脳内がグチャグチャにィ!!』
「テメェは、魔神以下の雑魚すぎて、話にならねーよ……!!!」
最後の仕上げを打ち放った。
『――――シンギュラリティ!!!!!!!!!』
断末魔を上げる余裕すら与えず、消滅させた。
「アトラスはこんなもんじゃなかった。キル三兄弟、魔神に騙されたな……」
いや、あれはもうキル三兄弟だったものであり、紛れもない怪物だった。だけど、その力はあまりに半端で、ツギハギだらけだった。
アイツは言っていた。
――『業気』と。
なるほど、俺の知らない魔神のエネルギーがあるらしい。
「ユメ……」
「――ん、フォース。俺が怖いか?」
「ううん。ユメはユメだもん。抱っこしてくれる?」
「なんだ、今日は抱っこしてほしいのか。いいよ」
フォースを拾い上げ、黒船号の無事を確認した。
船の中に避難していたデイブレイクの家族たちが顔を覗かせてきた。
うん、無事のようだ。
緊急救出クエストは完了した。
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