第21話 緊急救出クエスト
クリーチャーの奇襲頻度が更に上がった。
数こそ100~300体程度だが、なかなかにしつこい。だが、どれも撃破あるいは撃退に成功している。今のところ被害はゼロ。
そして、しつこいのは手紙も一緒だった。
風の帝国からの嬉しくないラブコールも続いていた。
くそっ……、帝王め、どんだけ俺に戻って欲しいんだよ。さすがの俺も辟易していた。
「とにかく、ネーブルはどこだ~?」
家中を探したが、見つからない。
どんどん溜まっていく、不幸の手紙を処分して欲しかったんだけどな。
仕方ないで、キッチンで料理をしているゼファの元へ向かった。
◆
「お、いたいた。鼻歌交じりに料理中だな」
しっかし、後姿からでもキレイな肉体だ。
修道服でも分かるあのムチムチ感、官能的なボディライン。あの絶対領域……うーむ、どうしてゼファはいつも芸術的なのだろう。聖女の神秘だね。
なんだか、俺は、つい出来心で背後から抱きついてみたくなってしまい――。
「……ゼファ!」
「ひゃっ……!?」
当然だけど、すっごく驚いていた。
「ユ、ユメ様!?」
「ごめん。驚かしちゃったよな」
「は、はい……びっくりしました。でも、知らない人でなくて安心しました。ユメ様だったので、とっても安心です」
ほっとしたのか、胸を撫でおろすゼファ。
「本当に悪かった」
「いいのですよ、ユメ様」
ぎゅっとしてくれるゼファは、暖かかった。
そうしていると――
「ユメ~、今戻ったわよ! 聞いて聞いて! ……って、ユメ!? ゼファとそんなにくっついて……もうっ!!」
「あ、ネーブル」
「わたしのいない間に、変な事をしてないでしょうね!?」
凄んでくるネーブルの顔が怖い。
「するかっ! で、どうしたんだ慌てて」
「そうそう、それなのよ。侵攻してきていた四属性の国がね、撤退したらしいのよ」
「えぇ!?」
「なんかね、光の天国が盾になってくれたみたいよ。あと、魔王の妹さんも協力に入っちゃって、とんでもないことに――!」
なるほどね、フィ……いや、フィラデルフィア女王が動いてくれたんだな。あと、メイだ。魔王が守護してくれたのだ。なんて面々が動いてくれたんだ、最強すぎるだろう。
「なんだ、これで平和じゃないか」
「そうでもないわ」
再び怖い顔をするネーブル。
「なんだよ、怖いな」
「魔神よ」
「魔神……まさか」
「そう、なんと四体の魔神の降臨が確認されたわ。いきなり空から出現したのよ。ダークウォールに備え付けた魔導望遠鏡でも確認できたから、本当よ」
「よ、四体だって……そんなに現れたのかよ」
こりゃ、なかなかにマズイんじゃなかろうか。
少し……ほんの少し嫌な予感がしてきた。
そもそも、その前にも嫌な気配を感じていた。
あのアトラス戦の後だ。
それに、アトラスの気配も掻き消えている。
いったいどうなっているんだ、世界は。
「とりあえず……」
「うん。どうするの、ユメ」
「もうちょっと、ゼファとイチャイチャしようっと。てか、朝風呂でも一緒に入ろうっか~」
「はい♪」
「わ、わたしも付き合うからねっ!!」
◆
風呂から出ると、キャロルが青い顔で現れた。
「どうした、キャロル。顔色悪すぎだぞ……何があった」
「ユメ……それが、その……」
「落ち着け。なんでも相談に乗ってやるから、ゆっくり話せ」
「はい……あの、ギルドメンバーの家族を移住させる話がありましたよね」
「ああ、そうだな。今、黒船号で向かって来ている最中って話だろう」
「それが……反応がないんです……」
「……え」
「反応が途絶えてしまったのですよ!!」
それは、つまり……。
「行方不明ってことか……」
「そうなのですよ……このままでは、メンバーたちに合わせる顔がありません。私は死んで詫びるしか……!!」
そうキャロルは苦無を首筋に――ちょ、いきなりかいッ!!
「やめろキャロル!!」
苦無を取り上げて、事なきを得た。
「…………いっそ、死なせて下さい」
「馬鹿。まだ家族が死んだと決まったわけじゃない。どこかに遭難している可能性もあるだろう。それに、黒船号はそう簡単には沈まない設計になっているんだよ。なあ、フォース」
紅茶を啜っていたフォースは、静かにカップを置き――キャロルを見た。
「大丈夫。その人たちの気配を黒船号から辿った。場所は……水の聖国の方角。ただし……」
「ただし?」
「魔神ではなく、未知の生命体――おそらく、エクストラボスが出現した」
「なんですと!?」「本当ですか!!」
ていうか、未知の生命体って……モンスターか。
まてよ、モンスターで、しかもエクストラボスなら超レアアイテムをドロップしやすい。つまり、助けて儲けられるってことだ。
一石二鳥か!!
「よし、みんなを助けに行こう。ゼファとネーブルもいいか」
「――ん。ちょっとまって。今いいところなの」
「ネーブル、でも、わたくしの勝ちですよ。王手です」
ネーブルとゼファは『チェス』をしていた。
てか、王手ではなく、チェックメイトでは。まあ、似たようなもんか。
「かぁぁ~~…またゼファの連勝かあ」
「勝ちました♪ では約束通り、今晩はわたくしとユメ様の二人きりで寝ますからね」
「へ……」
「くぅ~~~! 悔しい!!」
ネーブルはそう発狂していたが……いやまて。
「二人きりで寝る? なんのことだ?」
「わたくしとネーブルで賭けをしていたのです。勝ったので、今晩は一緒に寝れますよ!? それとも、ユメ様はわたくしなんかと寝るのはお嫌ですか……」
ショボンとゼファは顔を曇らせた。
って、どうしてそうなった!?
「いやいや、嫌なワケないだろう。むしろウェルカム!! 大歓迎さ!」
「嬉しいです!!」
「――って、そりゃいいから、みんな、ギルドの家族たちを救出しに行くぞ!」
「分かった」「仕方ないわね」「世の為人の為です」
立ち上がるフォースを中心に、ネーブルは渋々と。続いてゼファも。それから、キャロルもフォースの肩に手を置いた。俺はもちろん特等席で。
緊急救出クエスト開始、ワープ……!
◆ ◆ ◆
……とある場所では、キル三兄弟がある魔神と交渉をしていた。
『……ほう、その情報は確かに有益だ。素晴らしい、貴様ら三兄弟には、我が力を与えてやろう。それで、パラドックスなどという国は簡単に滅ぼせようぞ』
「おぉぉ……すげぇ!!」
「兄貴、なんか力が湧いてきますぜ!!」
「こりゃあすげぇ、これならあのクソ根暗男にも勝てるぜ!!」
『どうだ、我が業気は極上だろう。――だがな、ひとつ言い忘れていた」
「「「へ?」」」
『我が業気は極上であるが故に、一個体での適応が難しいのだ……だから、その肉体の維持は出来まい。――となると、貴様ら三兄弟は融合し、ひとつのクリーチャーになるしかないのだ』
「「「は!? はぁぁぁぁあ、ふざけ――――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」
キル三兄弟は体がくっつき、グニャグニャと融合を始めた。
そして、極悪のクリーチャーとして生まれ変わった。
「「「スゲェ……チカラダ。コレデ、オレタチハ……カテル……!!」」」
水の聖国に脅威が迫りつつあった。
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