第18話 防衛値急上昇
自国『パラドックス』は、加速度的な発展を遂げて、ついに高い壁が築き上げられた。しかも、ただの壁ではない。
火の大国を真似て、ファイアウォールならぬ『ダークウォール』に仕立て上げた。そこに何百種類もの迎撃システム。
モンスターあるいはクリーチャーが接近してくれば、固定砲台が勝手に攻撃してくれるし、大量の岩も飛んでいけば、矢も飛んでいく。もちろん、魔法も。
おかげで国の【防衛値】がかなり上昇。
これが高ければ高いほど、国の補正ステータスもプラスされるようだ。あと、『国家スキル』とかも発現するようになってくるらしい。すでにいくつかあるが、今のところ役に立ちそうなのは少ない。というか、ほとんどパッシブスキルなんだよなー。
「ちょっとやりすぎじゃない……」
それを見たネーブルが、呆れた顔でそう言っていたが――。
「いや、国を守るためだし、これくらいはな」
「お金はほぼ使い切った」
肩車されていて、尚且つグッタリしているフォースが高い壁を仰ぎながら、そうつぶやいた。――そう、帰ってきてから、速攻でダイヤモンドを闇ルートで売りさばいたのだ。また、奪われても面倒だったからな。
「見張りは、デイブレイクの方たちが交代で見てくれるみたいです」
「おお、そうかゼファ。ギルドには報酬を弾んでおいてやってくれ」
「はい、分かりました♪」
最近、知ったがギルドは30名ほどいるようだ。
面倒だったので、いちいち把握していなかったけど、そんなにいたとは。
「あ、そうそう、ユメ」
「ん、どうした、ネーブル。フラれたみたいな顔して」
「フ、フラれてなんかないわよ!? 違うって、これこれ」
ドサっと大量の手紙を出してくる。
えーっと……すげぇ数だ。
「なにこれ?」
「風の帝国からの手紙みたいよ」
「これ、全部!?」
「そうみたいね。ほら、見てこれ」
「あー…」
差出人が『エレイソン三世』だった。
つまり、帝王である。
どれどれなんて書いてあるんだと、中身を開封する。まあ大体予想はついていた。
『ユメよ、我が国へ大至急戻ってこい。お前がいないと、このままでは国は滅ぶ。私の為ではない、民の為と思って帰ってくるのだ。もし、風の帝国の防衛を引き受けてくれるのあれば、一生を約束しよう。それと、お前の国も認める』
「へぇ。以前とは、えらい態度の違いだな」
俺は、手紙を破り捨てた。
「あ……ユメ、いいの?」
「帝王は、結局は俺を利用したいだけだ。ヤロー、民を出汁にしてんじゃねーよ……!!」
ないない、ありえない。
あんな『追放』と『邸宅の焼却処分』などという不遇の扱いを受けたのだぞ。戻れ? ありえんだろ。また良いように利用され、捨てられる。
「俺は絶対に戻らんからな。ネーブル、手紙は全部、廃棄しておくんだ」
「分かった」
ネーブルは、積み上げられている手紙に向けて『ライジン』スキルを放ち、雷で全て燃やし尽くした。
「ナイスだ、ネーブル。おかげでスッキリしたわ」
「この方が早いからね。……ん、でも、一枚だけ残ったみたい。なにこの手紙」
「え?」
なぜか燃え尽きずに残った手紙があったようだ。
ネーブルは、腰を下ろしそれを拾う。
「なんでそれだけ……。あ、ネーブル。そのままの態勢でいてくれると助かる」
「そうね、わたしのライジンで燃えないなんて……ん? 態勢? って、バカ!! 見るなアホ!!」
胸チラしていたことに気付いたか。
ネーブルの胸はボリューム満点だからな、あの姿勢なら中々壮観だった。
「チッ、あと少しだったのに」
「なにがあと少しよ! そ、それよりこの手紙よ」
胸元を押さえ、赤面するネーブルから手紙を受け取った。
……どれどれ、差出人は……。
中身を見ようと思ったその時――
「ユメ、手紙は後。敵襲あり」
フォースがそう気配を察知していた。
彼女の言う通り、すぐに奇襲警報が鳴り響き、緊張が走った。
「クリーチャー共が来たか。だけど、今までとは違うぜ」
「ユメ様、わたくしたちは何もしなくていいのですね?」
「ああ、俺たちの作った防衛システムで何とかなるだろう」
◆ ◆ ◆
大量のクリーチャーは、パラドックスへ侵攻を開始した。
それを指揮するは、10番目である【Zehn】の位を持つ魔神『ヤヌス』だった。アトラスが行方不明になったので、変わりとなっていた。
「おのれ、アトラスめ……。この吾輩が、こんな辺境の世界を攻め滅ぼす羽目になるとはな……。
だがまあいい、なにせ、魔神王様直々のご命令だからな……ヌホホ!!」
国を囲むように、おおよそ一万以上のクリーチャーは進軍していく。
「これだけの手勢がいるのだ。あんな国ですらない小国、一分と持つまい」
あと少しで黒い壁に突き当たるところだった――のだが。
赤黒い光が国から放たれると…………
『―――!!!!!!!!!!』
一万のクリーチャーは一瞬にして、消滅した。
「………………は?」
魔神・ヤヌスは、空でただひとり、呆然とするしかなかった。
「バカなバカなバカなバカなバカなあああああああああッ!!! 一万だぞ!! 一万のクリーチャーが一瞬で!? あんな小国ごときに!? ふざけるなああああああああああああァァァ!!!」
怒り狂ったヤヌスは、パラドックスへ猛スピードで向かった。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、全員、八つ裂きにしてくれるわあああァッ!!」
◆ ◆ ◆
「ほらな、ネーブル」
「う、うん。ここまでとは思わなかった。あんな空を埋め尽くすほどクリーチャーがいたのに、一瞬で……これなら、最強ね! ごめん、ユメ。やりすぎと思っていたけど、これくらいの方がいいわね」
ポカンとするネーブルは、認識を改めてくれたようだ。そう、常に安牌を取るのが俺の流儀だった。
「さてさて……魔神っぽい気配がするんだよな~。みんなはここに――」
「やだ」
「そうね、フォースに賛成」
「わたくしもです」
フォースもネーブルもゼファもついてくる気満々だった。
しゃーない、キャロルたちに国を任せて、俺たちは魔神を倒しに行こう。
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