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第17話 闇を極めし者

 大きな口のような裂け目を抜け、外へ出た。

 するとそこには……。



「お前が――魔神・アトラスか」



 意外なことに、魔神は俺と同い年くらいの青年(・・)だった。儀式染みた衣装に身を纏い、赤いピアスをつけていた。



 何かの能力(スキル)で宙に浮き、俺を(するど)い眼光で見下ろしている。



「はじめましてだな、人間! オレは『アトラス』様だ!!」



 そう名乗るや、アトラスはこちらへ突っ込んできた。いきなりだな!!



 む? 拳に紫の炎が――。



「だったら、こっちはダークエンチャントの黒い炎拳でいってやらああああああああああああああッ!!!」




 激しく衝突する『黒』と『紫』の拳。


 混ざりあったエネルギーが嵐のように放電し、周囲に散った。




 互角(ごかく)っ……!




「おい、魔神・アトラス……! 各地を襲うのを止めろ。さもないと、お前をギタギタにしてやった上で(ほふ)る」

「屠るぅ!? いいだろう、やってみやがれえええええええッ!!」



 ()り……!

 だったら、俺も蹴りだ!!



「くくくく。軽い、軽すぎる蹴りだ。まるで赤子のようだ……! 勇者と噂に聞いたが、この程度だったとはな。アクビが出るぜぇ……!! たぁぁッ!!」




 アトラスは一気に後退し、距離を取った。

 そして、すぐに武器を取り出した。



「……刀?」

「そうさ、オレたち(・・・・)魔神は全員、刀を持つ!」

「なんだと……!」

「貴様はここで死ね!!」



 その抜刀は神速の域だった。



「……はやいっ!」





『紫電一閃――――――!!!!!』





 そうして、気づけばヤツはもう既に俺の後方に……。なんて速度……なにも見えなかったぞ。



「くっ…………斬られたのか、俺……ごふぉぁっ……」



 クソ……!

 体を斬られてしまうとは……!



「ふん……死んだか。これで一番強い魔神がオレだと証明されたわけだ。……さて、元勇者も殺したし、この火の大国(グロリア)を支配してやろう」



「誰が死んだって?」



「なにッ!? き、貴様……あの深手を負ってまだ息があるのか!!」

「あ?」



 俺は、アトラスの方へ向き直った。



なんのことだ(・・・・・・)?」




「…………き、貴様……刀の傷が…………再生していっているだと!? どうなっている! その薄汚い『闇』はなんだ!! その取り巻く深淵はなんだ!! 貴様は人間ではないのか!!!」




「薄汚いとは随分(ずいぶん)と失礼だな」

「お前は何者なんだ……勇者ではないのか!」



「勇者? そんな時代はとっくに終わったよ。俺は元勇者(・・・)でね。闇を極めただけのしがない人間さ。それより、さっき聞き捨てならない事を聞いた。お前、オレたち(・・・・)魔神は――って言ったろ。他にもお前のようなヤツがいるのか?」




「……そんなことか。

 当たり前だろう。魔神はなにも、一人や二人ではない。数多く存在する。だがな、オレは魔神の中でも上位に入る。貴様が何者であろうと、必ず倒してみせる。この世界も滅ぼしてやる。

 ……ああ、そういえば、あの穴の場所にはお前の仲間もいたな……よし、オレに逆らったらどうなるか、まずは見せしめだ」




 不敵に笑うアトラスは、フォースたちのいる方向にスキルを放った。



「アトラス、てめえええええッ!!!」


「フハハハハハハハハッ!!! お前がいくら強くても仲間はどうかな!!!」



 くそっ、フォースたちが優先だ。

 俺は、アトラスから離れて救出へ向かった。



「そうだ! 精々、足掻(あが)け!! オレはその間にこの国を掌握(しょうあく)してみせる……!!」



 ◆ ◆ ◆



 魔神・アトラスは、火の大国(グロリア)を支配すべく、女王の元へ向かっていた。

 その最中だった。



「…………なんだ、空の向こうからスゲェ気配が接近してきやがる」



 アトラスは、正直焦った。

 相手があまりに禍々しい『業気(ゴウキ)』を放っていたからだ。



「この業気……まさかな」



 そのアトラスの察知は正しかった。

 相手は、魔神の中でも二番目――【Zwei(ツヴァイ)】の位を持つ者だったからだ。




『………………』




「おいおいおい……! まさか、こんなところに『エンケラドゥス』さんがやって来るとはな……驚いたぜ。オレに何の用だよ。つーか、テメェ等は別の世界(マルチバース)を襲っているんじゃなかったのかよ」



『その必要はなくなった。この世界を魔神王様に捧げると決めたのだ』

「決めたァ? ふざけんじゃねぇ!! どこのどいつがだよ!!」



『もちろん、魔神王様のご意思である』



「なんだって……!?」



『そして、アトラス。貴様はこの世界を任されていたにも関わらず、完全な支配には至っていない。それどころか、国ひとつすら落とせていないではないか。それでは、王は大変失望されることだろう』



「だからどうした! オレは、オレのやりたいようにやる! それだけだ!」



「そうか、では、アトラス――お前を消去(デリート)する」



「あぁ? デリート? やれるもんなら――――――」



 アトラスは決して油断はしていなかった。

 だが、エンケラドゥスは、既にアトラスの体の半分を飲み込んでいた。



「…………かはっ……。バ……バカな……いつの間に」

『アトラス、貴様を吸収する。我が一部となり、業力となるのだ』



「く…………そ」



 そのまま、アトラスはバリバリっと()われてしまった。



『……ほう、素晴らしい業気だ。記憶の共有も完了。……なるほど、闇を操る元勇者か。面白い。この我、エンケラドゥスが相手になってやろう……ククククク、フハハハハハハハハハハハハ!!!』



 ◆ ◆ ◆



 背中がゾクゾクとした。

 少し――いや、かなり嫌な予感がした。



 でも、それよりも仲間たちが無事で本当に良かった。



「ユメ様っ」



 ゼファが飛びついてきた。

 みんな、フォースのテレポートのおかげで別の場所に移動していたようだ。



「ユメ、魔神は撃退したの?」

「お、ネーブル。……いや、ヤツはどこかへ去った。あとは分からん」



「そっか。でも、火の大国(グロリア)は無事だし、ダイヤモンドも取り返したし、もういいんじゃない」

「そうだな、途轍(とてつ)もなく嫌な予感がするし、パラドックスへ戻ろう」



 眠ったままのフォースは、キャロルに背負ってもらい、任せた。



 さあ、帰ろう。

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