第14話 ダイヤモンド強奪事件
大事件は唐突に起こった。
「なんだって……!? キャロル、それは本当か!!」
「……はい、ダイヤモンドを全て奪われてしまいました……」
ギルドメンバーの裏切りにあったらしく、数名がダイヤモンドを強奪したらしい。そいつらは、火の大国の方へ逃げて去ったようだ。
全力で追ったけど、見つけられなかった――と。
キャロルは泣き崩れて、土下座した。
「ご、ごめんなさい……ギルドマスターである私の責任です!! この身を煮るなり焼くなり……辱めるなり好きにしてください……」
「そんなこと出来るかってーの。キャロル、顔を上げるんだ」
「ユメ……」
「盗んだ奴から取り戻そう。そいつらの名前は? 特徴は?」
「キルデベルト、キルデリク、キルペリクの三人です」
「ん? 似たような名前だな」
「彼らは、キル三兄弟と呼ばれているんです。元々は、ならず者でして……ですが、心を入れ替えたとかで、どうしても、大手の私のギルドに入りたいとしつこくて」
それでギルドに入れていたらしい。
加入後は大人しすぎて、その存在も薄かったようだ。――が、なるほど、千載一遇の機会をひっそりと待ち続けていたということか。
大量のダイヤモンドが入ったことで、そこを狙ったと。
「なんてヤツなの……許せない。
ユメ、そいつら懲らしめないと気が済まないわ」
湯から勢いよく飛び出し、ネーブルが怒りを爆発させた。
ちなみに、今は自作の温泉にいた。
「……ネーブル、バスタオルが捲れるぞ」
「え…………いやぁぁぁ! こっち見んな、ユメ!!」
腕で胸元を押さえ、顔を真っ赤にしてネーブルは温泉に浸かった。
「あの、ユメ様。お話し中で申し訳ないのですが」
「どうした、ゼファ」
「わたくしもネーブルに賛成です! だって、あのダイヤモンドはみんなで苦労して手に入れたものなのですよ。わたくしたちの血と涙の結晶を奪われれてしまうなんて……とても悲しいです」
そこまで苦労はしていない気もするけど、ゼファの顔は深刻だった。……ていうか、ゼファにそんな悲しい顔はして欲しくない。
さて、そうなると――あとは。
「フォース」
「ん~~~」
ゼファに抱かれて、顔半分が温泉に浸かっているフォースは、湯をブクブクさせていた。倦怠感を丸出しにし、疲労困憊だった。
今日はいっぱい仕事したもんな。
「俺の修行の足りん未熟なソウルフォースじゃ、力が弱すぎて無理だ。ダイヤを奪った奴等を追跡できるのは、この中で唯一、フォースだけだ。力を貸してくれるか」
「……条件がある」
「なんだ、言ってみ」
「抱っこしてくれたらいい」
「なんだ、お安い御用だよ。ほい、こっち」
ゼファからフォースを取り上げて、膝に置いた。
「~~~♡」
疲労でグッタリだったフォースは、すっかり機嫌が良くなった。
「これでいいか」
「うん。特定は任せて~♡」
「これで決まったな。みんな、明日にでも盗人を捕まえに行くか」
「分かったわ。けどさ、国は放っておいて大丈夫?」
「大丈夫だよ、ネーブル。姉ちゃんと謎のモンスター(俺)がしばらくは防衛してくれるみたいだから、安心して大陸へ行ける。なあ、姉ちゃん」
話を振ると、
「そうね、しばらく国のことは任せて」
さっすが姉ちゃん。話が分かる~!
「そか。じゃあ安心ね。じゃ、キャロル……あんまり思いつめないでね」
「ありがとうございます、ネーブル。それと、ユメ」
キャロルは、今にも泣きだしそうな感じだった。
◆
仮邸宅は、各々の部屋があるし、広さも十分。
食堂や娯楽室、温泉、庭園などなど絶賛増築中であった。
庭園(仮)を偶然歩いていた時、ゼファとネーブルが楽しそうに会話していた。
「――――そうそう、ここにさ~」
「そんなことが可能なのですか?」
「いやぁ、ユメのお姉さんの力を借りれば――」
え、姉ちゃん?
なんか気になったので、声を掛けてみた。
「よう、二人とも。どうしてこんな夜に庭園なんかに」
「おっす、ユメ」
「ユメ様♪」
ネーブルが若干困った顔をすると、事情を説明してくれた。
「これ、あくまで案なんだけどさ……この庭園の地下にわたしらだけの『ダンジョン』作らない? なんか自分たちでダンジョン作るって楽しそうじゃん?」
「ダンジョンを? へえ、その発想は無かったなぁ」
「どう? モンスターは、ユメのお姉さんに召喚してもらってさ!」
確かに、魔王である姉ちゃんなら、モンスターをいくらでも召喚できるだろう。それを地下ダンジョンに解き放つってわけだ。
「じゃあ、姉ちゃんに聞いておくよ。たぶん、ひとつ返事だろうけどね、ああ見えて姉ちゃんは面白いことが大好きだからなあ。だから、魔王にもなったんだろうけどね」
「ありがと、ユメ!」
満面の笑みでネーブルは抱きついてきた。
……ヨシャ!
そうしていると、ゼファが顔を近づけてきた。
「ユメ様、わたくしの望みも聞いて戴けますか!?」
「あたりまえじゃないか! 言ってみ!」
「ユメ様が欲しいです!」
「……へ? 俺が欲しい?」
「はい、ユメ様が欲しいのです」
「いや、もうずっとゼファのモノだけど?」
ゼファも抱きついてきた。
え? んぉ?
「ちょ、ちょっとゼファ、ユメはわたしのよ!?」
「いえ、ネーブル。ユメ様はわたくしのものです」
あれ、なんか取り合いになってね!?
でまあ、エスカレートして取っ組み合いになり掛けたので、静止させた。
「やめーい、二人とも! らしくないぞ~」
「う……つい、ごめんゼファ」
ネーブルは申し訳なさそうに謝った。
「いえ、わたくしの方こそ取り乱しました。ですけれど――」
「え?」
なんか腕を組まれ――うあああああああ!?
ゼファがぴょんと跳ねた。すごい高さ!!
ネーブルがあんなに小さく――ああ、なんか怒ってるっぽい。
「ゼファ、ネーブルを置いてよかったのか」
「いいんです。ユメ様、わたくしももっと構って下さらないとイヤです」
「あー…」
そうだな、フォースやネーブルが多かったかも。
ちなみに、ゼファは最近、格闘術――『冥王流』を習い始めたようで……なんかメキメキ上達していた。普段の戦闘こそ派手に戦わずサポートに徹しているが、実は接近戦最強かもしれない。
一見、お淑やかなゼファだが、本当は殴ったり蹴ったりしたいのかも。
「ゼファ、今日は一緒にいよう」
「はい♡」
◆ ◆ ◆
……一方、世界は大きく動き始めていた。
四属性の国々は、パラドックスへの侵攻を決定。
南極大陸――光の天国は沈黙を。
北極大陸――闇の覇国は四属性の要請を拒否し、中立の立場を取った。
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