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第96話 儀式の間

 テスラは長い呪文を唱え、扉を開けた。


 巨大扉がゆっくりと開いていく。


 そう簡単には開かないと思っていたのだが、案外、あっさりだった。向こうも決着をつけるつもりなのかもしれない。




【 儀式の間・オーソリティー 】




 トラップを警戒しつつ、みんなで中へ入っていく。

 無機質な橋のような道が長く続いていて、下は血のような赤い液体が流れていた。……なんだあれは。


 先は薄暗く、光はない。闇だけがそこにある。


「視界が悪いな……」

「気を付けて。ここは――――」


 テスラが何かを言いかけた瞬間、彼女は激しくノックバックし、壁に叩きつけられていた。


「――――なっ、テスラ!!!」


「…………だ、だいじょうぶ。支援補助スキルのおかげで、ダメージ軽減が出来ています。上手く、受け身も取りましたから……。くっ……」


「ユメ様、ここはわたくしがヒールを致します」

「任せた、ゼファ! くそっ、いきなりか……!」


 ゆっくりと闇から出てくる人物は、ニヤリと不気味に笑った。



『ようこそ。窮極の闇、渾沌、そして万物よ』



 男の低い声。

 かなり高齢のようだ。



『私はアインス。このメタモルフォーゼの創設者だが、他に質問はあるかね?』



 なるほど、あの白髪老体(ジジイ)が親玉か。

 思った以上に巨躯(きょく)であり、筋肉質だった。


「ああ、山ほどある。おい、メタモルフォーゼの親玉! 今のうちに言っておくぞ、やめておけ。お前たちに勝ち目はない」



『――――ほう。面白いことを言うな、少年。勝ち目がない……そうだな、六属性をこれだけの規模で攻めても尚、世界は堕ちぬ。抗っている……。ふん、実に滑稽(こっけい)。どのみち、この愚かな混沌が創造した世界・バテンカイトスは滅ぶのだよ。

 滅び、そして、新世界は平等となる。人類は皆、夢を手にし……至福を得るのだ』



「アホか! そんな得体のしれないモンを勝手に押し付けるな! 誰もそんな世界は望んじゃいねぇんだよ! ……結局、お前たちが神に成り代わりたいだけだろ。ふざけるのも大概(たいがい)にしろッ!!!」


『くだらぬ……神は死んだ。神の時代はとうに終わっているのだ。なぜ、それに気づかん。今の世界は混沌を望んでいるのだよ。過去、現在、未来……どの時代、別世界、並行世界においても『混沌』こそが世界の真の姿であった。これは否定しようのない事実なのだよ。だからこそ、我々は儀式を完成させるため、神ではなく、覇王・ナイアルラトホテプと契約を交わしたのだ』



 ……混沌。

 そこが覇王と一致する意見って事か。


 だが、思えば、あの覇王は世界の終わりは望んでいなかったと思う。

 もし最初からそのつもりなら、俺を闇に染めなかったはず。自ら世界を壊せばいいんだからな。そうしなかったのには理由(わけ)があったんだ。


 ナイアルラトホテプ(あいつ)は、ずっと俺を後継者にしたがっていた。


 言動こそ歪ではあったものの、本意ではなかったのかも。



「最後に聞きたい。あんたの『夢』はなんだ――?」



『私自身の望みはひとつ。力への意志――自己超克(じこちょうこく)だ』



 そう重い口調で言い放つと、アインスは既に目の前に――。



「……はやい。でもな!!!」



 全力の拳が向かってくる。

 アレをまともに受けたら、死ぬ。そう感じた。



『――――――ダーク・ヘルズ・ディメンション!!!!!!!!!』



 俺は咄嗟(とっさ)にそれを放った。

 だが、アインスは俺のスキルを食らっているのにも関わらず、拳を俺の鳩尾(みぞおち)に。



「がはああああああああああああああああッ!!!!」



 なんちゅー威力だ。

 あのクソジジイ、見た目以上のパワーか。



「ユメ!! ――――スーパーノヴァ!!!」



 フォースが大魔法を放つ。続いて、ネーブルも。



『ムジョルニア!!!!!』



 アインスはスキルの気配を先読みし、一気に後退。

 距離を取った。……くそ、なんて動きをしやがる。まるで高齢を感じさせない、若々しい動き。今が全盛期ではないかと思うほどに、動きが鮮烈だった。


「……参ったな。まさか武器も使わず、殴ってくるとは思わなかった」

「す、すみません。私も最高齢であるアインスがあんな動きをするとは……」


 謝るテスラの傷は癒えていた。


「よかった、無事だったか」

「はい……なんとか受け身を取れたので……。あと皆さんから掛けてもらった補助も効いていましたから」


 いやでも凄いな。俺はやられたし。

 テスラの防御力はかなり高いようだな。


「ユメ様、グロリアスヒールを!」

「ありがとう、ゼファ。……よし、回復した」


「ねえ、ユメ。あのアインスっていう爺さん、只者じゃないわ。下手に接近すると殺られると思う……」


 素早く隣にやってくるネーブルは、そう言った。

 ああ、だろうな。


 コソコソ耳打ちしている間にも、アインスは動き出した。

 当たり前だけど、容赦(ようしゃ)なしか。


『――――何を棒立ちしている、少年よ』

「くっ!」


『戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え……! 抗え、抗え、抗え、抗え、抗え、抗え!! この世界を救うのだろう!? それは所詮、口だけか。お前の本当の力を私に見せてみろ。闇を、混沌を、万物を見せてみろォ……!!!』


 危うく掌底を食らうところだった――。


 いいぜ、そんな見せて欲しければ!!!



「っらあああああああああああああああッ!!!」



 俺はソウルフォースを全開にし、敵を突き飛ばした。



「ぐおっ!!! ……これは、ソウルフォースか。面白い、まずは万物だ」



『アビスイグニッション……!!』



「ほう、それが貴様の渾沌か――!!!!!」



 瞬間的に移動するアインスは、ゼファを狙った。恐ろしいスピードの拳が彼女の顔面に向かっていこうとしていた。



「てめええええええええええええええ!!!!!!! ゼファに手を出すんじゃねええええええ!!!!!」



 速攻でダークエンチャントを拳に付与し、

 俺は怒りのまま、クソジジイに飛び掛かった。



『――――――このボケが!!!!!!!!!!!』



 ジジイの頭を掴み、そのまま地面へ引きずった。




『グォォォォオゥググウググググォォオォ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、ヤメ、ヤメ、ヤメロォォォォオォグアアアアアアアアアア…………!!!!!』



 さらに、ジジイをそのまま宙へブン投げ、



『――――――イベントホライゾン!!!!!!!!!』



 闇を放った。




『ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!』



 遠くへ飛んでいく爺の姿は見えなくなった。



「…………ゼファ!」

「だ、大丈夫です。ユメ様が守ってくださったので」

「でも、一応だ。ゼファ、顔を良く見せて」


 俺は、ゼファの顔を両手で優しく包み込んだ。


「…………っ、ぁ……ユメ様、お顔が近いです……。か、かっこいい……」


 良かったぁ……傷ひとつない。


 あのクソジジイ、女性の顔を……ゼファの美しい顔を狙うとか……絶対に許さん。殺す。絶対に殺す……。ぶち殺す。


「あ、あのユメ様。なんだか怖いです」

「あ……ああ、すまない。だってよ、あのジジイ、ゼファの可愛い顔を殴ろうとしたんだぞ……最低すぎるわ、あいつ」


「か、可愛い……嬉しい。ユメ様♡」


 ゼファが飛びついてくるなり、一瞬だけキスをしてきた。

 本当に良かった……。


「アインスの気配が消えました……」

「テスラ、それは本当か」

「はい……。そもそも、彼らは六人(・・)。なぜ、アインスだけ――はっ、まさか……」


 そこで言葉を区切るテスラは何かに気付いたようで、急に走り出した。


「お、おい、テスラ! ひとりで行くな、危険だぞ!」

「……皆さん、早く! 奥へ参りましょう」


 慌てるテスラ。

 奥に何が……?

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