言葉が通じないとしてSランクパーティーを追放された指揮官の猿、文明人として法で裁くことを決意、地位確認訴訟を提起する~今更許してくれと言われてももう遅…くない。仲直りして最強のパーティーに成り上がる~
ここは、とあるギルドの応接室。
歴戦の猛者が集うSランクパーティー『白猿の拳』のメンバーたちが、話し合いを行っていた。
「デュンキー、今日でお前をこのパーティーから追放させてもらう!」
「ウホッ!?」
デュンキーは、勇者タロウ・シルヴァリオンから言い渡された言葉に面食らってしまった。
「ウホッ! ウホウホッ!」
どうしてだ、これまで上手くやってきたじゃないか、と余りにも到頭な追放宣言に、抵抗を見せるデュンキー。
しかし――
「どうしてって、お前はこのパーティーのお荷物だからだよ!!」
タロウは激高していて、デュンキーにはどうしようもなかった。
「正直言って、私たちだけでも充分やっていけると思うの」
大魔法使いハナコ・サンジェルマン・デ・プレも、勇者に賛同の意思を見せている。
「ウホォ……」
彼女に対して、ほのかに思いを寄せていたデュンキーは、深い悲しみに打ちひしがれてしまった。
「私もみんなに賛成だな。確かにデュンキーは優秀だ。だけど、デュンキーのために、常に翻訳魔法をアクティブにしておかなければならないのは効率的とは思えない。言葉が通じないのはデメリットでしかない」
賢者アナ・カシコも、デュンキーの欠点を挙げつつ、そう言った。
「……」
彼女に対しても、ほのかに思いを寄せていたデュンキーは、言葉を失い、何も言い返せなくなってしまった。
「俺が前衛、ハナコが後衛、アナがオールラウンダーとして戦況をコントロールしているが、お前の役職はなんだ!! 言ってみろ!!」
タロウが、デュンキーを問い詰める。
「ウッ、ウホッ!!」
「いや、どうしてお前が指揮官なんだよ!! おかしいだろ!!」
タロウは激怒した。
その表情は、まるで鬼のようである。
「役職としては指揮官だけど、戦闘スタイルは拳一本。タロウと被っているわよね。前衛は二人もいらないわ」
ハナコも、タロウを補足するように、言葉を重ねてくる。
そして、アナもヒートアップして――
「デュンキーの指揮は見事だと思う。だけど、最近は私たちと上手く噛み合っていない気がするんだ」
「ウホッ?」
「ダンジョンを踏破する上では、『押せるときは押す』『押せないときは押さない』ということが重要となってくる。けど、近頃は、『押せるときなのに押さない』ことが多くて、歯がゆい思いをすることが多い」
「ウホッ!」
「そうだな。デュンキーの言う通り、『押せないときなのに押す』というのが一番ダメだ。何よりも命が大切だからね。それにしても最近のデュンキーの指揮は腰が引けている。私たちの腕だったら、今頃ダンジョンを踏破していてもおかしくないはずだ」
「ウホウホッウッホウッホホ!! ウホッ! ウホッ! ホウッ!」
そんなの結果論じゃないか! と、デュンキーは叫ぶが、三人とも冷たい目である。
「ということで、お前はもう用済みだ!! このパーティーから出て行ってもらう!!」
タロウの厳しい一声によって、デュンキーの追放は決定されてしまった。
◇ ◇ ◇
翌日。
「ウウウ……」
デュンキーは部屋で一人、涙を流していた。
突然のパーティーからの追放。
いくら好物であるバナーナの実を食べたとしても、胸の痛みは消えなかった。
夥しい数のバナーナの皮で、部屋は散らかり放題。
もうデュンキーは、何もする気が起きなかった。
そのとき、つけっぱなしになっていたテレビから、報道バラエティー番組が流れてきた。
「なぁ、ケイティ。最近、パーティーから追放される方が後を絶たないだろう?」
「そうね、ジョン。後を絶たないわ」
「昨日だって、Sランクパーティー『閃光の騎士団』とか、『銑鋼の守備隊』とか、『潜行の暗殺衆』とかが、それで崩壊したらしい」
「待って、ジョン。Sランクパーティーって、そんなに頭に『せんこう』が付いているものばかりなの?」
「ウホ……」
いや、それよりも、昨日一日でそれだけのパーティーから追放者が出たことを憂慮しろよ。
デュンキーは、バナーナの皮が散乱した床に寝そべりながら、そんなことを思ったが、自分もその中の一人であることを思い出し、再び深い悲しみに襲われた。
なおもテレビの中では、ジョンとケイティが話を続けている。
「『戦功の武人達』とか?」
「ほら、また『せんこう』が付いているわ!」
「『選考の教授陣』もあるけど?」
「それは、めちゃくちゃ弱そうね」
「えっ? 知略・軍略に長けた、世界一位のパーティーだけど?」
「ウホッ!?」
いや、教授陣、強っ!!
と、思わずデュンキーはテレビ番組にツッコミを入れてしまう。
それに比べて自分は……。
指揮官だったにも関わらず、知略・軍略に長けているとは言い難かったのかもしれない……。
クソッ!! もう自分なんて、この世に不必要な人間なんだ!!
デュンキーは自棄になり、バナーナの実を一度に十本食べるという暴挙に出た。
そして、それらの皮を堆く積み上げて、空虚な悦に浸った。
そのとき、妙なCMが始まった。
「突発的な追放でお困りの方、バビーベ法律事務所へご相談ください」
「ウホーホ?」
「無料のご相談は、お電話番号、『0120-972142-8181』まで」
「ウホゥ……?」
その電話番号、桁多くね?
とも思ったが、聡明なデュンキーは、このCMから天啓のような閃きを得た。
「ホウッ!」
法だ!
「ホウッ! ホウホウッ!」
法で裁くという方法が、あいつらには相応しい!!
「ホホホホホホホホウ!!」
地位確認訴訟だ!!
デュンキーは文明人として、横暴な追放に対して、法で抗うことに決めた。
◇ ◇ ◇
「いやいや、ギルドを通さずにパーティーから追放するのはダメだろ、社会通念上。そんなもん、著しく不合理であることが明白だっつーの。よって、原告デュンキーは、被告タロウたちに対し、パーティー契約上の権利を有する地位にあると解するのが相当」
幼女裁判官チャラ・チャランポランは、気怠そうにそう判示した。
「不当だ! 不当判決だ!」
「そうよ! 不当判決よ!」
「控訴だ! 控訴するぞ!」
タロウ、ハナコ、アナは、声を揃えて、チャラに食って掛かった。
しかし――
「うるせー!! 控訴だと!? そんなもん却下されるだろ、原則として!!」
チャラは幼いながらも激しい口調で、被告の三人を縮み上がらせた。
そして、それに付け加えるように――
「被告は、原告に対し、追放の日から本判決の確定の日までの日当分として、五億本のバナーナの実を支払え」
「そんなぁ! 酷いっ!」
「そんなのってないわっ!」
「有り得ない……。デュンキーの法外な請求が全て認められるなんて……」
厳粛な雰囲気の法廷に、ユニゾンで三人の悲鳴に近い声が上がる。
「ちゃんと遅滞なく支払えよ!! もう二度とデュンキーを泣かせるんじゃない!! 死刑にするぞ!!」
「ウホッ!?」
「みんな、仲良くしろよ? いいな? チャラ、怒っちゃうぞ? 以上、これにて閉廷!!」
デュンキーは、チャラの感情的な口振りから、いよいよこの訴訟が民事なのか刑事なのか分からなくなってきたが、五億本ものバナーナの実が手に入ると聞いて自然と笑顔になった。
「五億本なんて払えるわけがないじゃないか!」
「そうよそうよ!」
「許してくれ、デュンキー!」
先程まで刃向かい散らしていた三人が、しおらしくなってデュンキーに助けを求めてきた。
「ウホ……」
ウホ……。
デュンキーは、そう思って、言葉を詰まらせた。
◇ ◇ ◇
その後、仲直りをしたデュンキーたちは、賢者アナを副指揮官として起用することによって、判断力やパーティーの結束をより強固なものにし、『選考の教授陣』と肩を並べる程の最強のパーティーとして名を馳せるようになりましたとさ。
めでたし、めでたし。
お読みいただき、誠にありがとうございました。
現在流行中のタイトルが長い「追放ざまぁ」系のお話を書いてみようと思い、突発的に書いてみた短編コメディーだったのですが、いかがだったでしょうか。
気に入っていただけていたら嬉しく存じます。
最後になりますが、小説ページ下部に、現在新章準備中の異世界コメディーのリンクを貼っております。
もしよろしければ、そちらもご一読いただけると幸いに存じます。