第6話
ローレンツ隊長が天幕に入ってきた。
「ジークヴァルト。レオナちゃんの治療は終わったのか?」
「終わるには終わったのですが…」
プンッと明後日の方向を向く。
「おいおい。ジークヴァルト。何をやらかしたんだ?」
「ジークヴァルトお兄ちゃんは、あたしをお婆ちゃん扱いにしたの!!」
「ジークヴァルト…。ちゃんと謝っておけよ」
ガッツリイケメン系のローレンツ隊長が目線を合わせるためにしゃがむ。ほぉーっ! やっぱり、イケメンすげぇーっ! 本物の戦う男って感じだね。
「レオナちゃん。辛いと思うが、レオナちゃんは、アルファンスの唯一の生き残りだ。少し…話を聞いても良いかな?」
「ごめんなさい。覚えてないの。気が付いたら街の外にいて…。お父さんやお母さんの顔も声も思い出せないの…」
ジークヴァルトが、ローレンツ隊長を見る。しかし、ローレンツ隊長は首を横に振った。
「記憶を封じなけらばならない程、恐ろしい目に合ったんだろう。すまなかった。レオナちゃんも無理に思い出す必要はない。さぁ、食事にしよう」
設営された複数の天幕の中心には焚き火があり、その周りで料理当番なのか数人の騎士たちが作業をしていた。特に焚き火に当たらないと寒いという季節ではないが、ローレンツ隊長はあたしの手を握り、焚き火に近付いた。
「ローレンツ隊長、レオナちゃん。もう少しお待ちください」
「慌てることはない。自分たちのペースでかまわない」
上司たるものドンと構えて部下たちに任せる。上司の鑑かっ!
あれ? 上司って…。何だっけ?
焚き火の揺れる火を見ていたら、ローレンツ隊長から「他にどんなスキルが使えるのか?」と聞かれた。
「えっと…。吟遊詩人の初期スキルの5つだけ。空腹や乾きを満たす『飽食Lv1』、周囲の音をかき消す『静寂Lv1』、対象を眠らせる『睡眠Lv1』、移動速度を上げる『疾走Lv1』、暗視効果のある『暗視Lv1』だよ」
ゲームの知識なら、まかせなさい!!
「ほう…。スキルはどうやって増やすんだ?」
「『楽譜』があれば増やせるよ。同一の楽譜だとスキルのレベルが上がるの!!」
ここでのスキルレベルというのは、例えば『疾走Lv1』のLv1のことで、演奏スキルのことではない。ちなみにレオナの演奏スキルは最大のLv10だ。
「それに良い楽器があれば、演奏の範囲も広がるよっ!?」
小さな体を目一杯使って吟遊詩人の凄さを自慢する幼女に、焚き火の近くにいた騎士たちは、思わず微笑んでいた。
ある事を思い出した。
大型アップデートで手に入れた、吟遊詩人専用のフレンドリージェスチャーだ。
弦楽器のリュートを召喚して、吟遊詩人専用のフレンドリージェスチャーから『英雄譚(序章)』を選択する。
静かな導入部分から英雄誕生の瞬間と悲劇の開幕、そして英雄の幼少期…。
完璧なリュートと歌の演奏に、騎士団50名は幼女に釘付けになった。