第5話
ローレンツ隊長率いる約50名の騎士団は、ひたすらリブ村へ向かう街道を爆走していた。
そんな中、突然、元気よく疾走し始めた打楽器のマーチングドラムを叩くあたしを乗せたジークヴァルトお兄ちゃんの馬に、眉をひそめながら近づくローレンツ隊長。そして、ジークヴァルトお兄ちゃんは、必死にローレンツ隊長へ状況を説明する。
ローレンツ隊長は、何故にあたしが吟遊詩人のスキルを保有しているのかよりも、その効果と範囲に興味があるらしい。
「吟遊詩人のスキル効果は、パーティーメンバー内だけ」
「パーティーメンバーとは何だい?」
「えっと、2名から6名までで、お互いがパーティーになることを承認した構成? 今なら、ジークヴァルトお兄ちゃんだけ」
「おい、ジークヴァルト。何勝手にパーティーメンバーになってるんだ?」
「し、知りませんよぉ!?」
「レオナちゃん? パーティーメンバーって、どうやれば入れるの?」
うん? どうやるんだろう? ゲームと同じかな?
ローレンツ隊長をターゲットして、視界の中に投影されている『パーティーウィンドウ』の『参加要請』を頭の中で、クリックするイメージを思い浮かべた。
「おぉっ!? し、視界に『パーティー参加の許諾の有無』が!?」
「『はい』を押す? 念じる? 何かしてみて!?」
しばらくすると『パーティーウィンドウ』にローレンツ隊長の名前が表示された。
「ローレンツ隊長、どうやったの?」
「パーティーメンバーになりたいと念じたのだ」
「そうなんだ…。『疾走Lv1』使うね。移動スピードが1.3倍になるよ!?」
スキルを発動すると、打楽器のマーチングドラムがタタタン!と軽快に奏でられ、ローレンツ隊長の馬とジークヴァルトお兄ちゃんの馬だけが、同じ歩調?駆歩?なのに他の馬より、頭一つ飛び出た。
「おお、これは凄い!」とローレンツ隊長は大喜びだ。
「レオナちゃんの馬酔いの心配もなく、そのスキルがあれば、リブ村には明日の夜には到着できますね」とローレンツ隊長の右腕であるハンネス副隊長が言った。
「そうだな。だが、レオナちゃんの心と体は疲れて切っている。早くリブ村に着きたいが。無理をさせたくない。この付近で野営に適した場所はあるか?」
話を聞いていると、どうもローレンツ隊長には、この付近の土地勘がないらしい。もしかして、エリートな騎士様で、たまたまこの付近に来ているだけなのかも知れない。
「はい。もう少し先に、綺麗な湧き水の出る岩があります。そこがよろしいかと」
「うむ。今日の野営は、その場所にする」
この世界のもう少しとは、2時間だった。どこが少しなのだ!! 実を言うと、馬酔いは乗り越えられたのだが、お尻が2つどころか、4つ6つに割れそうな勢いで痛いのです!!
ジークヴァルトお兄ちゃんに、お尻に触って治してとは言えない…。しかし、馬を降りてから、ずっとお尻を押さえているあたしに気が付いて…。
「こっちにおいで、天幕の中で治してあげるよ」と優し誘惑に負けて、嫁入り前の幼女のお尻をジークヴァルトお兄ちゃんに差し出してしまう。
「はぁ〜…生き返る…」と気持ちよさそうに言ったら、「お婆ちゃんみたい」と言ってきたので、思い切りスネを蹴り飛ばしでしまった!!
と、レオナは思っていたが、ジークヴァルトにしてみれば、ぺちっと何かが当たったのか? 程度であった。