第4話
「大丈夫かい?」
ぐったりとするあたしの背中に手を当てたジークヴァルトお兄ちゃんは、「世界を支える六柱神が一神、慈愛と慈悲の女神アンネマリーよ。神に心身を捧げし我が願いを聞き入れ、この脆弱なる人の子の肉体を癒やし給え…セイクリッド・ヒール」と長い詠唱を口にした。
すると背中がポカポカと暖かくなり、やがて全身を優しく母親が撫でてくれたかのように、気分が良くなり…馬酔いから解放された。勿論、母親の記憶などありませんが…。
「ジークヴァルトお兄ちゃん、ありがとう!」
幼女の声って、雑味が無く透き通る水のようで、本当に可愛い。自分で言ってても可愛い。
気分が良くなったところで、「システム」と呟く。すると『システムメニュー』が視界に投影された。最初にチェックしたのは『システムメニュー』の最下部にある『終了』だ。予想通り『終了』自体が消えていた。やはり、この世界で行きていくしか無いのだろう。
『システムメニュー』から『オプション』の『画面表示』を選択する。
そして『プレイヤーウィンドウ』、『パーティーウィンドウ』、『ターゲットウィンドウ』、『アシストウィンドウ』、『簡易マップ』、『ショートカットウィンドウ』を全部ONに設定した。
それらは視界の中に全て投影された。
この中でわかり難いのは、『アシストウィンドウ』だろう。これはターゲットした敵が、ターゲットしている相手の情報が表示されるウィンドウだ。仲間をターゲットすれば仲間が攻撃している敵がわかり、敵をターゲットすれば敵が攻撃している仲間がわかるのだ。
また『パーティーウィンドウ』には、ジークヴァルトお兄ちゃんの情報が表示されていた。明確にパーティーを組まなかったのにパーティーメンバー扱いになっていた。
そして『簡易マップ』には、土地や建物の名前、ローレンツ隊長と敵の位置まで表示されていた。これは便利過ぎる。
しかし『ショートカットウィンドウ』には、スキルやマクロが一切登録されていなかった。
どういうことだろう? 調べてみると、取得しているスキルが、初期スキルのみしか登録されていないのだ。他に不思議なのは、職業のレベルは1なのに、スキルのレベルは最大の10である。
つまり、スキルレベルは魂にに依存して、職業のレベルとスキルは肉体に依存するのかな?
まぁ、スキルレベルが最大の10なので、スキル…吟遊詩人の場合は、各楽器に紐付く楽譜を手に入れればスキルは直ぐに発動できる。
それとスキルを発動するための楽器も初期楽器しか持っていなかった。
とりあえず初期スキルと各楽器の召喚&解除を『ショートカットウィンドウ』に登録する。
打楽器のマーチングドラムを召喚する。そして、移動スピードを速くする『疾走Lv1』のスキルを発動して演奏する。実際の楽器の演奏技術に関係なく、スキルを発動すると、勝手に楽器を演奏してくれた。これはゲームと一緒だ。
1回のスキル発動には5秒の演奏が必要で、効果は40秒続く。同型の楽器ならば再使用まで10秒、別の楽器なら再使用まで5秒かかる。つまり最大で4つの効果を同時に発動可能だ。
「うわっ!? な、何だ!? 馬の速度が上がった!?」
ジークヴァルトお兄ちゃんが驚く。
「吟遊詩人のスキルの効果だよ?」と、ジークヴァルトお兄ちゃんに教えてあげた。
「なっ!? レオナちゃんが吟遊詩人?」
うん? そんなに驚くことかな?
ゲームの設定と何か違ってた?