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強襲の前に

 吹っ飛んでいった男に恐る恐る近づいて、覗き込むように顔を見る。恐怖に引きつったまま気を失っているその表情は、先の攻撃の威力を雄弁に語っていた。


 爆発が直撃した分厚い胸板に視線を移すと、黒のコートは無残に焼け焦げているけれど、その隙間から覗く皮膚には大して損傷が見られない──通常なら疑いたくなる状況だが、俺にはその理由が身をもって分かっている。


「やはり、呪いの力の加護を受けている……」


「そうみたい。あの信じられない腕力も呪いのせいなのでしょう。……まあ、都合がいいわ。これで当初の目的が果たせるかしら」


 オスローは剣を鞘に納めながらそう言った。子気味のいい、チン、という音が静かな通りに響いた。


 俺は抜身の剣を倒れている男の肩に当て、目を閉じた。以前、バイネルで人形の残骸に対してやったように、男の体に残っている呪いの残滓を吸い上げるために──そしてそれは、瞬きするよりも早く終わった。


 俺の脳内に流れ込んできたのは、ひたすらに暗い記憶だった。俺は脳内に流れるモノトーンの映像の中から、連中の隠れ家に関連する情報を探ろうともがいた。


 ……これは、今日の記憶だ。アーチ状の造形物の上に赤い旗がはためくのを男が眺めている──恐らくは駅の風景だろう──それから男は脇目も振らずに歩いて行って、街から遠く離れた場所に立っている小さな民家に辿り着いた。


 その民家の中には、数人の人影がなにやら談笑している。内容は明確に聞き取ることができない。リーダー格と思しき黒い影が家の窓際に佇んでいて、周囲の人間に何かを語り聞かせている……。


「オスロー……多分だけど、大体の位置は分かった」


 俺は剣を鞘の中に収め、オスローの方を見た。


「ここからかなり離れた場所だけど、たぶん男の仲間が集まっている家がある。君の言う、秘密結社の隠れ家だと思う」


「それは吉報。……それで、首謀者は誰か分かった? そいつの顔に見覚えは無い?」


 俺は首を横に振った。男の記憶の中でも、その人物は顔を晒していなかった。ずっと窓の方向を見つめていて、男たちの方を一瞥だにしていなかったのだ。


 俺たちは気絶した男を縛り上げてから、駅の方向へと直ぐに戻った。オスローは今夜中に、この件に関して全ての片を付けたいらしい。それは俺も賛成だった。オスローが刺客を返り討ちにしたことが伝われば、奴らも隠れ場所を変えてしまうかもしれない。あるいはもう既に情報が伝わって、移動を開始しているかもしれない。事態は急を要していた。


 駅前の広場に戻り、男の記憶を辿りながら夜の街を走る。十分ほど疾走すると、脳内で見た通りの風景に辿り着く。空き地に囲まれた小さな民家。空き地からはみ出す雑草のせいで、まるで空家のような雰囲気を醸している怪しい建物。


 道の向かいから建物を眺めて──俺はぎょっとした。その民家の門にもたれ掛かって、煙草を吸っている男がいるのである。元々俺たちが追跡していた男、街はずれでリーベルンの連中と話をしていた男である。夜の暗黒の中に、赤い火が不気味に揺らいでいる。


 俺とオスローは街灯の光の下で互いに顔を見合わせて、何も言わずに頷いた。それから無言を保ったまま、腰の鞘からゆっくりと剣を抜いた──が、


「……そう焦らないでいい。俺はアンタらとやり合うつもりはねえ」


と、突然煙草の男が声を掛けてきたのである。


「アンタら、ここに来たってことは、グズネイをやっつけたんだろう? それなら、俺が敵う相手じゃない。俺は勝算のない戦いは嫌いなんだ」


 門燈の白い光に照らされて、男の不敵に笑う顔が見えた。


「……何者だ、お前たち! 一体ここで何をしている!」


 オスローが剣を構えたまま問いかける。煙草の男はヘラヘラと笑ったままである。


「アンタの……いや、アメリアの想像している通りだよ、オスロー様。何をしているかというと……俺は煙草を吸っているな。この家の中は禁煙なんでね」


「ふざけた口を……。お前たち、例の秘密結社に間違いないな? リーダーはどこだ。この家の中にいるのか?」


「……こんなに早くやって来るとは若干予定外だったが……もう既にあの人は覚悟を決めている。アンタのことを待っているよ。是非とも会いたいってさ」


 男はフウー、と煙を吹き出して、門の前から離れるように歩き出す。どこに行く、とオスローが語気強く問いかけると、


「なあに、避難するのさ。万が一のことがあれば、一目散にこの街を離れろとあの人から言われている。俺はただ、あの人の命令に従うだけさ」


 男はそういうと、別れを告げるように煙草を持った手をひらひらを振った。それから俺の方を向いて、


「なあ少年。悪いことは言わない、お前も逃げた方がいいぜ? この街が更地になっちまう前にさ」


と捨て台詞を吐いてから夜の影の中に消えていった。オスローは男を追わなかった。剣先を家の方に向けて、沈黙を続けていた。


「最悪の予感がする」


 オスロ―は出し抜けに、そんなことを呟いた。神妙な面持ちで固まっている彼女に、俺は尋ねた。


「何が待っているか、心当たりが?」


「……ええ」


 そんな簡素な返答を最後に、オスロ―は再び黙り込んでしまった。

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