裏技
「……フン、あの時の少年も一緒か!」
猛然と切りかかっていった俺の剣に合わせて、男は大振りに大剣を薙ぎ払った。ガチィイン、という衝撃音とともに、俺の剣は軽々とはじき返される。その暴力的な圧力に、思わず数歩後方に下がった。
近くで見てはっきりした。この男、森の中でオスローを襲おうとしていた黒装束の男である。しかし以前奴と剣を交えた時とは明らかに様子が違う。剣の振りも、威力も、以前感じたものとは段違いに向上している。一太刀交えただけで、底冷えするような恐怖を感じるほどである。
もし奴が本当に、俺と同じく呪いの力で強化されているのだとしたら。そもそも俺だけが力を得ていた状況でさえ押され気味だったのである。対抗手段など存在するのだろうか?
オスローはかなり柔軟に応戦していたが、それでもやや押されつつあるように見えた。俺も隙を見ては奴に切りかかっていくのだが、素早い大剣の動きでそれも防がれる。二対一をものともせず、不敵な笑みを浮かべながら男は剣を振り続ける。
『接近戦は危険だ。奴め、かなりの手練れだぞ? それにオスローへの対策もばっちりだ。あの女の炎攻撃は、あの黒いコートで厳重に守っている』
「どうすればいい。サーシャの時にやったように、俺の体を囮に使って……」
俺は半ばやけになって提案するが、ミーンは慌てて忠告を入れてくる。
『オイオイ、自分の体をもう少し労わってくれよ。毎回自爆戦法を取られてはこっちだって困るんだ。一応言っておくが、お前の回復能力は無限に続くわけではないんだからな』
「どういうことだ?」
『なに、そんな都合のいい話はないってことさ。お前の体は俺の力を使って強化されているし、その異常な回復能力も、呪いの力の賜物だ。お前の中にストックされている力は有限なんだ。ホイホイと死にかけていれば、そのうち電池切れで元の死体に元通りだぞ?』
「……気を付けよう」
俺は黒の剣を握り直してそう言った。忠告は痛み入るが、この状況を打破しない限り俺に明日はないのだ。自爆は最終手段にしても、奴を打倒す方法を見つけ出さなければいけないのだ。何でもいい、この場をどうにかする方法を……。
『あんまり命を粗末にされても面倒だ。おい、レイル。とっておきの"裏技"を教えてやろうか?』
「裏技!?」
『そうともさ。まあ、ちょいとあの女の力を借りるがね』
俺が肯定も拒否もしないうちに、ミーンは俺に向けてその裏技の説明を始める。俺はオスローと男がやり合っている情景を固唾を飲んで見守りながら、その説明に耳を傾けた。……奴の提案が本当なら、試してみる価値はありそうだ。
「……おい、オスロー、頼みがある」
剣のぶつかり合いが途切れて、オスローが後方に退いた隙を狙って、俺は彼女に囁いた。
「このままでは押されっぱなしだ。東部戦線でやったように、協力プレイといこうじゃないか」
「……でもあいつ、私の炎が通じない。前みたいな目隠しもどきが通用するとは……」
「俺に策がある。俺が奴に突っ込んでいくから、お前はさっきの火の玉を俺の進行方向に打ってくれ」
一瞬驚いたような表情を浮かべたが、オスローは直ぐに真剣な眼差しを取り戻して、
「……分かった」
と素直に後方に退いた。それと同時に、俺は剣を振りかざして男に向かって走り始める。
「フン、剣聖相手ならばともかく、お前程度ではなあ!」
男は威嚇するように大剣を回転させて、俺の攻撃を真正面から叩きつぶす構えである。俺は不安や恐怖心をかなぐり捨てて、獣のように突進する。その内に背後からオスローの声が響く。
「──炎舞、『一線』!」
激しい熱気の塊が、俺の真横を通るような軌道で宙を駆ける。真っ赤に燃える火の玉を横目に見ながら、俺はタイミングを合わせるように黒の剣を振るいかざす。
「ハン! 攻撃の瞬間を合わせたところで、俺の大剣の前では……」
「そいつはどうだろうなあ!」
俺の振った剣は、オスローの放った火の玉を撫で切りにするような軌道を描く。黒の剣先と赤い炎の球が接触したその瞬間──
カッ! という炸裂音と共に、俺の視界は真っ白に染まった。俺自身訳が分からぬままに、手の中の剣を振りぬいた。
再びの爆音。鼓膜が引き裂かれるほどの轟音。突然巻き起こった爆風に、俺の体は走っていた反対方向に紙くずのように投げ出された。剣をしっかりと握ったままゴロゴロと数回体が回転し、頑丈な建物の壁にぶつかって止まった。
「レイル君!」
オスローが直ぐに駆け寄ってきて、俺を助け起こした。俺は煙で傷んだ目を擦りながら、真正面を見つめた。
……男は倒れていた。大剣の柄を握ったまま、大の字になって気絶していた。男の持っていた剣は半分に砕け、剣先が近くの建物の壁に突き刺さっている。
「何をやったの? あの男には炎が通用しない筈なのに」
オスローは路上で伸びている男を注意深く睨みながら尋ねてくる。
「……単純です。押して駄目ならもっと押せ、です。奴の防御を貫通するぐらいに、炎の攻撃を強めたんですよ。ある人曰く、俺の剣には聖剣の能力を強める効果があるらしいんでね。……正直、ここまで威力が出るとは思っていなかったですけど」
完全に沈黙した男の姿を眺めながら、俺はほっと安堵の溜息を吐いた。




