目的と齟齬
「うおっ!?」
間一髪のところで剣閃を回避して、地面の上を転げる。直ぐに顔を上げてみると、大剣を持った大男が不敵な笑みを浮かべながら佇んでいる。
「ちぇ、尾行はバレてたか」
オスローは既に抜刀を終えており、橙色の剣先を男の方に向けている。俺も一歩遅れて剣を抜き、戦闘態勢を整える。
「お前、例の秘密結社のメンバーだな? リーベルンとの会話、確かに聞かせてもらったぞ」
「……フン、こんなに早く事が露呈するというのは少々想定外だが、支障はない。ここでお前たちを倒してしまえば何の問題もない」
男は再び大剣を天に掲げた。まず間違いなく、俺たちとここでやり合う腹積もりである。
「お前たち、"呪いの力"をリーベルンから受け取ったな? 何故そんなことをする。アメリア様に対して、反乱でも起こすつもりなのか?」
「流石オスロー様。察しのいいお方だ」
フフフ、と不気味な声を出しながら男は笑う。
「その通りさ。俺たちはアメリアを排除するという目的で組織された秘密組織よ。リーベルンと俺たちは、共通の敵を持ついわば同志ということだ。奴らの持つ技術を利用して、俺たちがアメリアの息の根を止めるのさ」
「……なぜそんなことをする。アメリア様を排除して、エントリアを支配しようとでもいうのか」
「違うね! ただ、俺たちは"不適切な"人間がトップに立っていることが許せないだけさ。……お前たち、なぜあの女がリーベルンとの戦争を強行したのか知っているか?」
「……! そうか、お前たちもあの戯言に踊らされたクチか……」
オスローはますます表情を険しくし、彼女の持つ刀身から小さな火が漏れるように揺れている。
「一体なんだ? その戯言というのは」
俺がオスローに尋ねると、前方の男が代理とばかりに勝手に喋り始めた。
「アメリアがリーベルンと戦争を始めた理由さ。あいつの背後には、『サン・ギアー』っていう兵器産業の企業が付いている。奴らが儲けを出すには、世の中が平和であっては困るのさ。だから、あの企業の傀儡であるアメリアが、リーベルンに適当な言いがかりをつけて戦争を仕掛けたのさ」
「……馬鹿々々しい」
半笑いで喋る男に対し、オスローは呆れたように首を振る。
「アメリア様がリーベルンと敵対したのは、"呪いの力"を振りかざして奴らがエントリアの侵攻に乗り出したからだ。現にお前たちも、"呪いの力"を行使してアメリア様に盾突こうとしているんじゃない」
「フン、それは結果論よ。リーベルンは元々戦争なんて望んではいなかった。エントリアの理不尽な攻撃に対抗するために、過去の技術を引っ張り出してきたにすぎない」
「……いいわ、あなたみたいな末端と話していても埒が明かないから。あなた達のボスの居場所を吐いてもらいましょう」
オスローは徐に剣を動かして、突然叫んだ。
「──炎舞、『一線』!」
ゴオッ、という衝撃音と大気の振動を伴って、赤い炎の玉がオスローの聖剣から飛び出した。赤い火は男の胴体を目掛けて一直線に飛翔したが──やつの着ている黒い布に触れた瞬間、水を掛けたように火の勢いが弱まってしまう。
「なっ?!」
驚き顔のオスローに対し、男はニタリと笑みを向ける。
「……俺たちの所にお前が来ることは予見されていた。お前はアメリアにとって都合のいい駒だからな。だから、俺たちも対策させてもらったよ。お前の持つ炎の聖剣に対抗する、新しい呪いの力……」
闇の中に目を凝らしてみると、その男の羽織っているコートが、僅かに青紫色に発光していることに気が付いた。ただの黒い服ではない──俺もオスローも、今更になってそのことに気が付いた。
「呪いの力……まさかお前たち、既に……」
「そうともさ。俺たちは既に、呪いの力を身に着けることに成功しつつある。まあ、リーベルンの連中程上手くは扱えていないがね」
男は得意げに笑いながら、大剣を振り回し始めた。巨大な鉄の塊が空気を切り裂くブンブンという音が、不愉快な響きを持って俺の鼓膜を揺らしていた。
「呪いの力はお前たち剣聖を超える可能性だ。聖剣の力は確かに絶大だが、呪いの力はそれを凌駕する潜在能力を秘めている。我々の探求が成就すれば、あの無敵のアメリアを地べたに這いつくばらせることも夢ではない。……まずは我々の力の試金石として、試し切りの相手になってもらおうか? 第五剣、オスロー・スカイベル!」
男は突然大地を蹴って、オスローに向かって突進を始めた。
「──炎舞、『禁炎』!」
オスローが再び剣を振ると、前方に炎の壁が瞬く間に出現した。しかし男は関係ないと言わんばかりに炎の壁に頭から突っ込み、顔色一つ変えずに突破してしまう。
「無駄だ! 今の俺に炎の能力は効かん!」
振り下ろされた大剣と、オスローの聖剣が、爆発のような衝突音を上げて交差する。それから目にも止まらぬ速さの剣の打ち合い。剣の大きさに似使わない凄まじい剣の振りに、オスローも僅かに押されているようにも見えた。
俺が何とかするしかない。奴の力の源泉が呪いの力にあるのなら、俺の剣の特性は天敵にあたるはずだ。俺は剣を強く握りしめ、オスローを援護するために男目掛けて飛び出していった。




