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密談、追跡、そして

 エントリア側の反逆者とリーベルンの人間が夜中に接触し、情報交換を行うのだという──オスロ―の持ってきた情報によれば、決行は今夜の夜中だという。また夜の戦いか、と若干辟易もする。とはいえ、悪い奴というのは通常夜を好むものだ。


 オスロ―が突き止めた接触の場所は、ベンチだけが置いてある小さな公園だった。俺とオスロ―は近くの路地に張り込みながら夜を待った。


 やがて夕方になると、一人の男がふらふらとやってきて、空を見上げながら煙草を吹かし始めた──それ自体は特別不思議な行動でもなかったのだけれども、その男の放つ雰囲気に妙な違和を覚えた。


 近くで見ていたオスロ―もその妙な感覚に気が付いたようで、俺の方に視線を送りながら、


「彼を注視していましょう」


と小さな声で言った。


 男はその後も延々と煙草を吸い続け、次第に色が変わっていく空を気の抜けた表情で眺め続けていた。


 空が紺色の夜に染め上げられた頃、閑散とした公園に別の客が訪れた。その一団は全部で四人、皆黒っぽいロングコートを羽織っている。


「あれは……!?」


 俺は新しく来た一団の、先頭に立っている女に見覚えがあった。以前エントリアに入り込んだ直後に切り結んだ、リーベルンのあの女……。


「ルキ・リダラス……」


 オスロ―が今までになく険しい表情で夜の公園を睨みつけていた。


「三大悪の一角が、こんなところに……どうやって侵入したの? 検問所が破られたとかいう話は聞いていないのに……」


 オスロ―は胸ポケットから小型のスピーカーを取り出すと、おもむろに耳に装着した。それからスピーカーの一方を俺の方に突き出して、


「ベンチの近くに収音機を仕掛けてあります。これで彼らの会話を伺いましょう。何か動きがあったら……会話に割って入りましょう」


 スピーカーを装着すると、濁ったノイズに交じって人間の声が聞こえてくる──こののらりくらりとした女の話し方には聞き覚えがある。俺が剣を交えたあの女、ルキである。


「いやー、エントリアはのんびりとしていて羨ましいです。昼間はついつい観光気分でしたよー。ああ、検問所では裏手引き、感謝いたしますね。あれくらいの石の壁なら穴を開けて入ってもよかったんですが、スマートではありませんものね」


「……わざわざご足労頂いたのだから、当然です。しかし、あまり国内で暴れないようお願いいたします。剣聖たちに感づかれては、何かと厄介ですから」


 体の身振りからするに、女と喋っているのが煙草の男であろう。あれがオスロ―の言う、エントリア側の反逆者なのだろうか?


「大丈夫、大丈夫ー。いざとなったら新型の機械を待機させてあるから。このリンゲルごと灰にしてそのどさくさで逃げましょうね。あなたの主人も助からないかもしれませんが。……さてー、そろそろ本題に入りましょうか」


 何やら物騒な単語が耳に入ってきて、俺は思わず身震いをした。


「……リーベルンの連中が襲撃準備をしているという噂、どうやら本当みたいね」


 流石のオスロ―も驚いているのか、公園を見つめるその顔に冷や汗をかいている。俺は連中の会話を聞き逃さぬよう、スピーカーをより強く耳に押し当てた。


「私たちからあなた方に、"呪術機関"に関する情報提供をする。その代わりに、アメリアを排除した後の処遇については一考する……」


「そのつもりです」


 煙草の男はそう言って、プカプカと白煙を浮かべた。


「でも大丈夫ー? アメリアを倒しても次のトップはイスカかウェルなんでしょう? 本当にこの戦争が止まるのかしら」


「……少なくとも現十二剣聖で、リーベルンとの戦いに積極的なのはアメリアただ一人です。あいつさえ排除できれば、その後のことは容易に進むでしょう」


「そう簡単にいくかしらー? まあ、期待しないで待ってるけど」


 ルキはロングコートの中から紫色に輝く箱を取り出し、煙草の男に手渡した。その箱は──大きさこそ明確に異なっていたけれども──バイネルの地下で見た奇妙な箱と同じ色をしていた。


「その中に"呪い"の扱い方についての情報が入っています。あなたの主人によろしく。ただし、むやみに扱わないことです。大抵の場合、呪いは人を選びますから……」


 ルキはそう言ってニコリと笑うと、踵を返してその場を去ろうとする。俺は小声でオスロ―に問いかける。


「……どうする? このままでは逃げられるぞ?」


「今この場所でルキと戦うのは面倒だわ。街の外れとはいえ民家も近い。……まずはあの裏切り者の追跡から始めましょう。連中の巣穴を見つけるのが最優先任務だから」


 俺はオスロ―の指示に従い、同じく公園を去ろうとする煙草の男の追跡を開始した。ルキとその取り巻きは、いつの間にか夜陰に紛れて姿を晦ましていた。


「どこに向かっているんだ?」


 煙草の男はそれからリンゲルの街をフラフラと、かなりの長時間歩きまわっていた。まるで自分の家を見失った酔っ払いのように、特に法則性もなくフラフラと……。


「妙ね」


 十分ほど追跡して流石に違和感を覚えたのか、オスロ―が急に立ち止まった。


「さっきから進行方向が無茶苦茶。一体どこを目指している? まるで時間稼ぎでもしているような……」


「まさか、この尾行がバレているとか?」


「いや、そんなはず……」


 オスロ―が否定したその瞬間──俺の本能が突然の危険を察知した。そして、次に耳に届いたのは……


「そのまさか、だ」


背筋が凍るような冷たい男の声だった。振り返るとそこには、巨大な剣を天高く掲げた大男が立っていた。


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