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予兆

「ええ!? また特別任務ですか?」


 俺がオスローからの命令を伝えると、リースは信じられないという顔で俺を見た。


「行ったり来たり行ったり来たり、あなたも落ち着かない人ですね」


「いや、剣聖の方々のご命令ですから……」


 リースは隊長室の壁に貼られたエントリアの地図を睨みながら、大きな溜息を吐く。


「まったく。ちょうどリーベルンに関する新情報が入ってきたばかりだというのに……」


「えっ、リーベルンの連中が?」


「……そう。また国境線の襲撃計画を立てているという報告がきています。場所は南部のリンゲル周辺です。前回の東部戦線よりも大規模な攻撃が予想されています」


 リンゲルという地名が出たことに俺は驚いた。それは、オスローが今極秘任務のために滞在しているという街の名前だったのだ。


「オスロー様に召集を掛けられたのもその場所でした。もしかして極秘任務とは、そのリーベルンの襲撃とも関係が?」


「それは私には分かりません。……十二剣聖からも警備部に人手を出すそうです。前回のチリン様と同じく……」


「助っ人、と言うことですか?」


「ええ。今回は敵の規模の増大が予想されることから、上位の剣聖が派遣される運びとなりました。……エウロ・ヴァレンスタイン様。十二剣聖の第四剣です」


 再び耳にしたエウロと言う名前。俺たちが地下室に誘拐されたときに、助けてくれたあの長身の女性……。


「今回の作戦行動は、エウロ様を中心として行います。前回の戦いで、敵側に呪いの力を利用した強力な新兵器があることが確認されています。今回は手加減することなく、エウロ様を先頭に一瞬で敵を殲滅するという計画です」


「……簡単におっしゃいますが、そんなことが可能なので?」


 甚大な被害をもたらしたチャーミング・マキナ、オスローとの二人がかりでやっと一太刀入れた三大悪の連中──リーベルンの戦力をまじかで見てきた俺からすると若干懐疑的ではあったものの、リースは真剣な顔で肯定する。


「……上位四剣、という言葉を聞いたことはありますか?」


「モラートの奴がそんなことを言っていたような気がします。一体それは……?」


「当たり前のようですが、十二剣聖を構成するのは十二人の剣聖たち。その中でも、圧倒的な実力と権力を持つ四人の剣聖──


 第一剣、アメリア・シェイド


 第二剣、イスカ・ユラウス


 第三剣、ウェル・リーデリング


 第四剣、エウロ・ヴァレンスタイン


 ──この四人は特に、"上位四剣"と呼ばれて特別な扱いを受けています。それより下の剣聖たちとは一線を画す実力。その気になれば、小さな国など単独で攻め落とせる力を持った方々です」


 ウェルという人以外は、既に全員見たことがある。全員奇妙な威圧感を放っており、近寄りがたい印象の剣聖たち……。


「エウロ様は上位四剣の一角。いくらリーベルンが強力な兵器と人間を持ってきたとしても、我々に敗北はないでしょう。オスロー様の命令がどんなものかは知りませんが、あなたも後顧の憂いなく存分に働くことです」

 

 ……大変回りくどかったけれども、要するにリースは「自分たちは大丈夫だから心配するな」と言いたかったのだろう。俺は彼女に一礼して、隊長室から外に出た。


 オスローも俺の状況を鑑みてか、サーシャに連れまわされたときのような強行軍を要請してくるようなことはなかった。問題の街、リンゲルへの出発は一週間後ということに決まり、それまではエントラの街で束の間の安寧の日々を過ごすことが出来た。


 出発が四日前に迫ったころ、俺は特に目的もなく商店街を歩き回っていた。恐らくは身を危険にさらすことになる任務を直前に控えて、楽しくショッピングという気分でもない。俺はただ目的もなく街を歩いて、通りを行く人々の明るい表情を眺めていた。


 と、その人混みの中に、憮然とした表情の顔が肩を怒らせて歩いているのを発見する。それはバイネルで世話になったキエラだった。


 彼女は通りのベンチに腰掛けてボーとしている俺を見つけると、急に明るい表情を作って会釈をした。そういえばろくなお礼も言っていなかったな、と立ち上がった俺は、彼女の元に駆け寄って声を掛けた。


「ああ、キエラさん。お久しぶりです」


「お久しぶり……と言っても、まだ一か月も経ってはいませんけれど」


「どうしたんですか? 随分深刻そうな表情をしてましたけど」


「……ああ、見ていたのですね。まったく、すぐ顔に出る癖は直したいものですが」


 キエラはふう、と息を吐いて、呆れたように首を振った。


「何かと面倒なことが続いていて、大忙しなのです。まあ大半はケイスに関することなのですが……」


「ケイスというと、あの湖畔であなたと喋っていた……」


「ええ、そうです。ちょっと彼女の件で走りまわされていましてね。……彼女、独断行動でバイネルに私設軍を動かしたばかりか、イスカさんの招集命令にも従わずに各地を転々としているらしいのです。何が目的なのか分かりませんが……」


「しかし、十二剣聖と言うのは上の命令は絶対、と聞きましたが。そんなことが許されるので?」


 俺の問いに、キエラは力強く首を横に振る。


「許されませんよ。だからイスカさんもカンカンです。一体どこで何をやっているのかしら。私には彼女を連れ戻せという命令が出ていまして、大忙しなのです。早く見つかればいいのですが……」


 キエラは遠い風景を見るような表情を浮かべてから、再び大きな溜息を吐いた。

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