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逆探知の依頼

自分の病室に戻ってから、ベッドの上に身を投げた。ぼんやりと天井を眺めて、それから机の上で沈黙する黒い剣の方を向く。


「なあ、ミーン」


『なんだね』


「"呪い"って、一体何なんだ?」


 いつか切り出そうとしていた問いかけ。俺の体を生かしている力であり、機械に新しい力を吹き込むエネルギー。時には人の心も狂わせるそれの正体……。


『気になるのか?』


「そりゃあ……そうさ。あの博士が襲われたのも、サーシャが正気を失ったのも、東部戦線で苦戦を強いられたのも、全て呪いが原因だ。そろそろ気になっても不思議じゃないだろう」


『……それほど難しく考える必要はない。人を恨む心、憎む心、妬む心……様々な負の感情が集まって、力を持つようになったものを"呪い"と呼んでいる。お前の体を維持しているのも、主様が植え付けた呪いの集合体にあたるわけだ』


「ボンド博士は、自分が襲われたのは呪いに関する知識を奪うためじゃないかと予想していた。それも、エントリア内部の人間による犯行だと。なぜ呪いの力なんて欲しがる」


『それは……お前自身理解しているんじゃないか』


 ミーンはククク、と嫌らしい笑い声を上げる。


『呪いの力は、人の能力を爆発的に向上させる。今のお前がそうであるように。強さを求める人間が、それを追い求めるのは不自然ではあるまい』


「力を追い求める者……リーベルンではなく、エントリアに?」


『強大な力と言うのは、どんな人間にとっても魅力的なものさ』


 ミーンはそれ以上何も語らずに沈黙に没入した。俺は白い天井を見上げながら、考える。


「……エントリアの内部に、呪いの力を求めている人間がいる。何のために?」


 恐らく回答は簡単なのだろう。強くなるために。……なぜ強くなりたい? リーベルンに対抗するためか?


 ──恐らく違う。俺の直感がそう言っていた。




 軽い火傷は直ぐに完治して、健康診査も終えた俺に退院の許可が出た。病室の化学的な香りが苦手だった俺は喜び勇んで病院を飛び出した。


 俺が病院で寝ている間、事件の調査は殆ど進展していなかったようだった。ボンド博士は何者かの襲撃説を主張していたが、その証拠になるような目撃情報は上がってきておらず、捜査は難航していたようだった。


 特に進展もしないまま一週間がたった頃、俺の部屋の通信機が久しぶりにやかましい音を立てた。


「もしもし、レイル君?」


「……オスロー……様?」


「ええ、お久しぶり。色々と大変だと聞いてますが、大丈夫ですか?」


 声の主はオスローだった。受話器越しだから正確には分からないが、なんだか疲れているような声色だった。


「大丈夫ですよ。多少焦げただけです。……それで、何の用件ですか?」


 俺がそう尋ねると、オスローは躊躇いがちに語り始める。


「今、私はリンゲルという場所にいます。エントリアの南部地区にある、小さな町です」


「はあ……」


 初めて聞く地名だった。俺は未だに、エントリアという国の地名や場所に疎いままだった。


「……ここのところ色々とあって大変な状況だとは思うのですが、一つお願いしたいことがあるのです」


「お願い? 俺にですか?」


「ええ。近いうちにあなたも、リンゲルを訪れてほしいのです」


 俺は猛烈に嫌な予感がした。シュトラにバイネル、俺は新しい場所に赴くたびに、何か厄介な出来事に巻き込まれて命の危機に瀕してきたのだ。


「何か俺に用があるのですか?」


 俺はこみあげてくる拒否感を必死に抑えながら冷静に喋った。


「実は今、私は極秘任務に就いています。リンゲル地区に存在するという秘密結社の討伐命令です」


「秘密結社?」


「ええ。詳細は現状、私にも分かっていないのですが……少なくとも噂では、アメリア様の排除を目論んでいる反政府組織、というところでしょうか」


 アメリアの排除を目論んでいる──俺は直ぐに、俺に黒の剣を渡した女性の影が脳裏にちらついたが、黙っていることにした。


「エントリアがリーベルンと戦争状態にある、こんな大変な時期に国内の反逆者を許しておくわけにはいきません。妙な行動に移る前に、一刻も早くそいつらの居場所を見つけ出して排除しなければなりません」


「なるほど。……しかし、俺を呼ぶ理由はなんでしょう。援護要員というのなら、警備部の強者を招集した方がいいのでは」


「それがですね……」


 オスローはゴホン、と咳ばらいをする。


「なんでもその組織は、"呪い"の力に手を出しているらしいのです。リーベルンが使っているような、忌まわしき呪いの力。ますます存在を許しておいてはいけないと思うのですが」


「ですが?」


「……バイネルでの一件、報告を受けました。人形の呪いを吸収して逆探知を行い、サーシャちゃんの居場所を見つけ出したと聞いています。キエラさんが教えてくれました。それで……」


 何を言われるのかはもはや大体想像できていたが、黙って彼女の言葉を待った。そして、オスローは俺の想像を全く裏切らない内容を話した。


「レイル君。その秘密結社の居場所を探すために、君の力を借りたいのです。あなたの剣の力が、反逆者を探す鍵となるのでは、と」

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