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急ぎの退出

「……おい…おい……! 起きろ!」


 鼓膜に響くモラートの声で目を覚ます。起き上がろうとするが……手足が動かない。


「……これは?」


 気が付くと、俺は全身を手術台のような板の上に縛られていた。首を動かしてみると、俺のすぐそばにももう一人、モラートもまた縛り付けにされている。


 薄暗く、じめじめとした部屋──根拠はないが、地下室のような趣がある。路上で突然銃撃されて意識を失った後に、ここに連れてこられたのか。しかし、何のために?


「何があったんだ、モラート」


「分からない。分からないが、ここは凄い部屋だぞ。見たこともない機械だらけだ」


 モラートは部屋中に置かれた機械たちを見ながら、興奮気味に喋っている。


「……脱出する方法はないか? あの男の仕業だ。何が目的なのか分からないが、このままではまずい!」


 俺はガチャガチャと鎖を鳴らしながら抵抗してみるが、鉄の鎖による束縛はビクともしない。何か役立つものはないかと周囲を見回してみるが、工具も機械も、俺の手の届く場所にはない。


 と、突然部屋の扉がギギギ、という音を立てて開いた。俺は全身に汗をかきながら扉の方を見やると、往来で見た白衣の男がゆっくりとした足取りで部屋の中に入ってくる。


「何者だ! 俺たちがエントリア警備部の人間だと分かってのことか? 直ぐに開放しなければ俺たちの仲間が……」


 モラートは勇ましい声を上げるが、白衣の男はヒャアハハハと狂気的な笑い声を返す。


「済まんのう! お前たちを傷つけるつもりはなかったんじゃ。わしはただ、お前さんが持っていた剣に心を奪われてしまってな!」


 男はゆっくりと部屋の中を進み、何やら小さい機械が大量に置かれた作業台の方へと歩いて行った。その作業台の上には、いつの間にか俺の腰から抜き取ったのか、黒い悪魔の剣が静かに横たわっていた。


「あっ、お前、その剣!」


「ヒャアハハ、どこで手に入れたんだい、こんな興味深いもの!」


 男は鼻息荒く剣をむんずと引っ掴み、子供のようにブンブンと振り回した。その光景は、なんとも狂気的である。


「何をするつもりだ、一体」


「なあに、純粋なる好奇心による崇高な研究活動だ。その剣、何やら禍々しい気配を感じるぞ。強大な呪いの力を感じる」


 呪い、という単語が出て俺はどきりとした。男は俺の方を見もせずに、恍惚な表情で演説を続ける


「最近わしは、呪いの力の研究に目がなくてな。街を歩いて怪しげなものを見つけては蒐集しておるのだ」


「呪いの研究だって!?」


 今度はモラートが声を荒げた。


「そんなバカな、呪いの研究は厳しく制限されているはずだ。許可が下りるはずが……」


「だからこんな地下空間を作らなくてはならなかったのだ。これでも苦労しているんだ、わしも」


 ──間違いない。この男は、その剣が呪われた曰くつきの代物であることを見抜いている。剣聖たちですら見抜けなかった事実を、この男はどうやって知ったのだ?


「その剣に興味があるなら、何故俺たちを拘束する。何の意味がある」


「意味はない。その場のノリで運び込んでしまっただけだ。最初にも言ったが、君たちに害をなす気はないのだ」


 路上でいきなり銃撃をかましておいて、傷つけるつもりがなかったとは恐れ入る。しかし、呆れている場合ではない。モラートはともかく、俺にとっては不味い状況だ。あの剣が解体されてしまったら、俺はどうなるのだろうか。


 俺の体はあの剣の力によって動いている。あの剣を喪失したら、俺自身どうなるのか分からないのだ。俺はいよいよ焦りだして身をよじってみるが、一向に事態は好転しなかった。


 男は奇妙な工具を棚から取り出して、見せびらかすように天井に掲げた。


「さて、色々調べさせてもらおうか。ヒャアハハハ……」


 男の上ずった声が部屋の中に響いた、その直後である。


「ボンド博士っ!!!」


 その声を上書きするような絶叫が、俺たちの鼓膜を震え上がらせた。部屋の扉が勢いよく蹴り破られ、もの凄い剣幕の女性がズカズカと踏み入ってくる。


「私のいない間にまた余計なことをしたわね! いい加減懲りたらどうなのかしら?」


 男はその女性の顔を見ると、慌てた表情で工具を手放した。


「エ、エウロじゃないか! 何故このことが……」


「従者たちに手伝わせておいて、どうしてもなにもないでしょう? 皆、困惑してましたわ!」


 その赤髪の女性は、縛られている俺たちの方を一瞥すると、パチンと指を鳴らした。途端、手足を縛り付けていた鉄の鎖が突然切断されたのだ。何が起こったのか分からないが、とにかく俺たちは自由を手に入れた。


「あなたたち、警備部の隊員でしょう? あなたたちも、こんな年寄りに身柄を拘束されるなんて、兵隊として恥ずかしいと思わないのかしら。……この人への折檻は私がやりますから、さっさとあなたたちも出ていきなさい!」


 その女性は一方的に叫ぶと、机の上にあった黒の剣を俺の方に投げてよこした。俺はあわあわとそれをキャッチして、モラートと共に逃げ去るようにその部屋を離れた。


「なんだっていうんだ、あの人……」


 俺が廊下を走りながら尋ねると、モラートも動揺した顔で答えた。


「あの男の方は分からないけど、あの女の人はエウロ様だ、きっと。エウロ・ヴァレンスタイン、十二剣聖のお偉い様だ!」


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