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剣聖たちの井戸端会議

 隊員たちからの質問攻めを適当にあしらって、グラスを持ったまま部屋の外に出る。延々と喋らされたので口の筋肉が攣りそうになったので、一旦静かな場所で休憩したいと思ったのだ。


 夜風に吹かれて微睡んでいると、同じく会場を抜け出してきたらしいチリンが、こちらの方にフラフラと歩いてきた。


「レイル君! 元気そうでなにより。五体満足で帰ってこれるなんて驚きですよ」


「……あなたもですか。物騒なことを言わないでくださいよ」


「いやいや、だってサーシャちゃんと戦ったんでしょう? 生きて帰れただけでも大金星ですよ」


 チリンは俺の手を取って、まるで幽霊ではないことを確認するかのように両手で握った。それからしばらくの間、俺とチリンは互いの持参した物語を交代で喋った。


 話を聞く限り、チリンの方も随分と多忙だったらしい。東部戦線の報告、被害の確認、損傷した兵器類の修理、など。様々な厄介ごとが山のように圧し掛かってきて、彼女もまたかなり疲れていたらしい。


「その内にまた、リーベルンの連中が攻めてくるかもしれません。それまでにパーッと気分転換しておかないと、気が変になってしまいますよ」


「……また、連中が攻めてくる予兆があるのですか?」


 俺は恐る恐る聞いてみた──もしまた襲撃の事前情報が入れば、俺は間違いなく戦場に立たなくてはならない。少なくとももう少しの間は戦闘を離れて休んでいたいというのが正直な感想だった。


「今のところは特には。でも、中々気が抜けませんね。奴らの新兵器、呪いの力を借りた"呪術機関"──東部戦線では運よく対処できましたが、今後はどうなるか……。他の剣聖とも相談して今後の方針を決めなくてはなりません」


「そういえば……」


 俺は改めて会場の内外を見回してから、


「オスローさんはパーティーには参加していないのですか?」


 俺がチリンに尋ねると、彼女はウーン、と小さく唸りながら、


「そうなんですよねー。何でも、極秘任務の遂行中なんですって。多分アメリア様が命じられたのかな? あの人も本当に大変ですね。色々な仕事を押し付けられて……」


「極秘任務」


「ええ。極秘なので、私も内容は知りませんけれど」


 チリンは肩を竦めて首を振った。


「確か今、南部のリンゲルと言う場所に行っているはずです。流石にパーティーやるから戻ってこいとは言えなくて。予定が合えばよかったんですが、あの人もいつも多忙な人ですからね」


「そうなのか……」


 バイネルで剣聖たちに援軍要請を送ってくれた礼を言おう、と意気込んでいた俺は少しだけ落胆して項垂れた。東部戦線でのことも含めて、色々と話をしたかったのだが……。


「……オスローさんが恋しいですか」


「うおっ!?」


 突然背後からボソッと話しかけられて、俺は危うくグラスを取り落とすところだった。


「あれ、サーシャさん!? 何故こんなところに? というか、城に召集されていたはずでは……」


「やることはやってきましたのです。その大半がお説教でしたが。まったく、地獄のようでした。これは飲まずにはいられない」


 サーシャはグラスになみなみと入った葡萄ジュースを勢いよく飲み干し、フゥ、と息をついた。


「……お説教ですか。イスカさん、朝から機嫌悪そうでしたからね……」


 チリンはぞっとするような表情でサーシャを見ている。


「本当、近年稀に見る機嫌の悪さでした。私がやらかしたことに加えて、ケイスさんの件もありましてね」


「ケイス、というと、あの夜湖畔にやって来ていた……」


 俺が尋ねると、サーシャはうんうんと頷いた。


「その人です。……確かにあの時も、いくら何でも救出に来るのが早いな、と思ってはいたのですが。どうやらアメリア様達の命令を無視して行動していたらしいのです。要は独断ですね。それでもう、イスカさん大激怒。私は酷いとばっちりを受けました」


 そういえばあの時、ケイスとキエラが言い争いをしている場面を目撃したのだった。あの時も確か、命令に従っているのか否かという話題だったはずだ。


「そのケイスと言う人は、なんというか……割と自由を愛する性格なんですか?」


 俺は可能な限りの婉曲表現でサーシャに尋ねたが、


「いや、単純にあの人、アメリア様が大嫌いなんですね」


と身も蓋もない返答が帰ってきた。


「あの人は中々頑固です。自分の意思を絶対に曲げないので、アメリア様ともよく対立しています。私もあの人とはよくケンカします。この前なんか、生野菜に何を掛けて食べるのが至上なのかと十数分言い争って……」


「何の話だ」


「でも、独断で行動するなんて何事なのでしょう。おまけに、施設軍まで引き連れて……元はと言えば、サーシャさんにバイネルの調査を依頼したのもあの人ではありませんでしたか?」


 チリンが訝し気な表情で尋ねると、サーシャは小さく頷いた。


「どうでもいい噂話だから、面倒くさがって私に依頼を投げたんだと思っていたんですが。しかしどうやらあの人、本気で何かを探しているようですね……」


 賑やかなパーティー会場の陰で、ピリッとした緊張感が三人に走った。



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