表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/76

遅れた祝勝会

 エントラ駅に列車がゆっくりと侵入し、仰々しい音を立ててやがて止まった。バイネルに持って行った小さな鞄を抱え、地面を踏みしめるようにホームを踏んだ。


 サーシャとクエリとは駅のホームで別れることになっていた。両名ともにイスカと言う人から、城のへの呼び出しを受けているとのことだった。


「またあの人のお説教です。病み上がりには響きますよ、絶対」


 サーシャはうんざりした様子で首を振る。


「散々心配かけたんです。甘んじて受け入れなさい」


「しかし姉さん。少し休んでからでもいいのではありませんか? 急いでも人生ろくなことにはなりませんよ」


「思い立ったらすぐに行動、でしょう? さあ、さっさと歩きなさい!」


 クエリはサーシャの服の後ろ襟を引っ張って、城の方へと連れて行こうとする。


「引っ張らないでください姉さん。服が伸びてしまいます。……あ、レイルさん。近いうちにまた会いましょう。ではさらばです」


 サーシャはニコリと笑って手を振りながら、ツカツカと歩くクエリに引っ張られていった。クエリは駅の出口で一瞬だけ振り返って、何も言わずに一礼した。俺は力なく笑いかけながら、控えめに手を振って返答した。


 姉妹と別れた後は、俺はわき目も振らずに警備部の基地に戻り、自室のベッドの上に身を投げた。まだ数日しか使っていない簡易ベッドが、何故だか妙に心地よい。俺はシーツを乱暴に抱きしめて、猫のように丸まって昼寝をした。


 それから数日間は、平穏な日々を送ることが出来た。バイネルであったことの報告を受けてか、フェリもリースも特に何も言ってこず、俺は部屋の中でひたすら眠った。ただ安心して眠れるという状況が、何よりも俺の心を癒していった。


 寝て食べて寝る生活を送り始めてから五日ほど経過した頃、部屋備え付けの通信機が突然着信を告げた。ベッドに寝転がったまま受話器を取ると、聞き覚えのある声がした。


「もしもし、レイル君ですか?」


「……チリンさん?」


「そうですそうです。……バイネルでの件、聞きましたよ? 大丈夫でしたか? 随分激しい戦闘があったとか」


「心配ありがとうございます。でも大丈夫でしたよ。頭上から砲撃が来たわけでもありませんし」


 サーシャの猛毒を食らって死にかけた、と冗談めかして言ってみたい気もしたが、余計な心配を指せそうなのでグッと堪えた。


「無事ならよかったです。それでなんですけれど、東部戦線での勝利を祝してパーティーを開きたいと、警備部の人たちが言っているんですが……興味あります?」


 何かと思えば、パーティーのお誘いとは。特に断る理由もない。ひたすらに食べて飲んで、嫌な記憶をどこかに飛ばしてしまいたいという願望もあった。俺は二つ返事で、


「行きます!」


と叫ぶように返答した。


 パーティー会場は警備部本部基地の一室を間借りして開催された。予定の時刻になるとどこからともなく隊員たちが湧いてきて、そこそこの広さの部屋を埋め尽くしてしまった。


「やあ、元気そうじゃないか! 聞いたぜ、剣聖とやり合ったんだって?」


 会場にはモラートやマイネルも出席していた。モラートは俺を見つけると、土産話を期待するような眼で俺を見た。


「良く生きて戻ってこれたものだ。剣聖と戦って生き延びた奴なんてそうそうはいないんだぞ」


「我ながらそう思うよ。あんなのと真面に戦っていたら、命が幾つあっても足らないよ」


 実際のところ、俺はサーシャと戦って勝利したわけではない。たまたま彼女が呪いの力に侵されていて、黒の剣がその状況に上手く作用しただけなのだ。もし平時の彼女と戦いになったら、俺は成すすべもなく切り倒されていたに違いない。


「まあ、剣聖と戦えるなんてそうそうあることではあるまい。貴重な経験として大切にするといいさ。……と、噂をすれば、もう一人の剣聖様だ」


 部屋の入り口の方に目を向けると、シンプルなドレス姿のチリンが顔を出す。彼女が会場に現れた瞬間ワッと拍手が沸いて、俺も釣られて手を叩いた。


「あー、ゴホン。……警備部諸君! 少々遅くなったが、祝勝会の時間だ!」


 チリンはよく通る声で大声を出した。相変わらず兵士たちの前では、厳しい軍人風を装っているのらしい。


「今日の代金はフェリと私からのおごりだ。好きなだけ食べて飲むがいい。だが、動けなくなるまでには止めておけよ? 緊急警報があったときに動けなくなっていたら蹴り飛ばすからな! ……よし、各人、杯を持てい」


 チリンの号令で、全員がグラスを空中に掲げた。


「では、この度の勝利と、これからの勝利を祈願して、乾杯!」


「乾杯!!!」


 隊員たちの声が部屋の内外に響き渡り、やかましい宴の席が始まった。


 豪勢な料理が次々と運ばれてきて、俺はその全てを高速で盛り付けてひたすら食べた。味は一級品で、頬が落ちそうになるという形容がしっくりくる旨さだった。


 パーティーは終始賑やかに進行した。目の前で人が目まぐるしく入れ替わる。俺に話を聞きに来た人間は、モラートやマイネルを含めてみな一様に、バイネルで手に入れた新しい武勇伝の話を聞きに来た。


「クエリ様から、あんまり詳しいことは喋るなと口止めされているんだ。まだ色々と調査中だから……」


 警備部の隊員たちに伝わっている俺の話は、いくつか脚色が入っているように思われた。特に、別荘の内部で何が起こっていたのかについては──聞くところによれば、俺たちは三人でバイネルの怪しい施設に突入したが、途中で喧嘩になってサーシャと戦闘になったのだという。


 剣聖が呪いに操られて正気を失ったなんて、表には出せない事実なのかもしれない。しかしそれにしても話が杜撰ではないか? 俺は自分自身の噂を聞きながら、頻繁に首を傾げていた。




 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ