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列車の中の反省会

「……いや、正直殺ってしまったと思いましたよね」


 乱暴に揺れる列車の中で、サーシャはあっけらかんとした表情で俺に言った。


「私の聖剣に貫かれて、まさか生きている人間がいるなんて思いませんでしょう。よく無事でしたね。実に幸運なことで」


「幸運だったよ、本当に……」


 エントラ行の列車の中には、俺とサーシャ、そして憮然とした表情のクエリが乗り込んでいた。仮面の連中に連れられて、バイネルの病院で簡単な手当てを受けた俺は、同じ病院で治療を受けた姉妹とともにエントラへの帰路についていた。


 一緒に戦ったキエラ、そして突然現れた剣聖・ケイスは、バイネルでの後始末があると言ってその場に残り、俺たちだけ先に帰還することになった。正直なところ、その場に残って何かを手伝えと言われたら、全力で拒否していただろう。俺は肉体以上に、精神的に疲れ果てていた。


「私の剣聖には、毒を操る力があります。迂闊に触ると麻痺したり、狂ったり、目が回ったり、死んだりします。後遺症はほとんどありません。まず間違いなく死にますから」


「物騒なことを言わないでくれよ」


 なかなか笑えない冗談だ。全身の機能が狂っていくあの感覚は、今思い返してもぞっとする。流石聖剣の力である。


「でも、どうやって助かったの?」


 クエリは訝し気に俺の顔を見ながら尋ねてくる。しかし俺自身、どうして命が助かったのか分からないのだ。


「サーシャが意識を失う寸前に指さした部屋に、変な箱が置いてあったんだ。紫色に光る変な箱で、そいつを叩き切ったら……助かった」


 クエリは何を言ってんだお前とでも言いたげな表情だが、サーシャの瞳は至って真剣である。


「その箱のことなら覚えています。私もその箱に触りましたから」


「そうなのか?」


「そうです。元はと言えばあれを触ってから、呪いの力に侵されてしまったので」


 サーシャはゴホンと咳払いをしてから、彼女が失踪した晩のことを語り始めた。


「……あの日の晩、私は湖畔で例の人形を見かけて、追跡を開始しました。そいつはあの別荘へと逃げ込んでいき、私はそれを追いました。そして、家の中で見つけたんですね。あの紫色の箱の存在を」


「一体何なんだ、そいつは」


「私にも分かりません。しかしあの時、私はただキレイだなと思って手に触れてしまったのですね。するとあら不思議、頭の中にいろいろなものが流れ込んできて……後のことはご存じの通り。私は正気を失って、地下室に引き籠っていたのです」


「まったく、迷惑をかけて! 変なものには近づいてはいけないってあれほど言っているのに!」


 クエリはガミガミと声を荒げ、サーシャは嵐に耐えているように渋い表情を浮かべる。


「触ってみた私が想像するにですが、あれは多分"呪い"の力がたっぷり詰まった箱詰めのようなものです。触れると呪われて、もう一つの意思が宿る。多分ですが、あの徘徊する人形たちの出所もあの箱なのではと」


「じゃあレイル君があれを壊したから、この事件はもう解決ってこと?」


 クエリがそう尋ね、サーシャが小さく頷いた。


「恐らくは。まあ後のことはケイスさんが検証してくれるでしょう。……ですが、私の中には疑問がもう一つ」


 サーシャは俺の目をジトリと見つめ、それから手元の黒い刀に視線を落とした。


「攻撃を食らって分かりました。その剣、どうやら呪いの力を吸収して己の糧にする力があるようですね。おまけに体に付いた傷でさえ、あっという間に修復してしまう。……そんな変わった代物、一体どこで手に入れたんです?」


 サーシャの発言に、クエリは目を丸くして俺を見る。


「拾ったんだ。レイビスから逃げた日に、偶然……」


「……聖剣ではありませんね。聖剣はエントリアに十二振りだけと、古い伝承が伝えていますから。ですが、何かそれに準じるような、奇妙な一品であることは間違いないでしょう」


 サーシャは膝の上の黒い鞘を指でなぞり、目を光らせながら観察している。


「あなたの峰打ちを食らって、即座に理解しました。あの箱を壊すのに相性がいいのはあなたの剣だと。私はあなたに箱を壊してもらおうと咄嗟に指示を出したんですが……」


「……結果、あの箱から呪いの力を吸収して、毒に耐えられるだけの生命力を手に入れた、ということか。一歩間違えば完全に死んでたわけだ」


 全てを振り返ってみると、あまりにも危険な仕事だったわけだ。誰一人死ななかったのが奇跡と思えるほどに。何かが一つでもかみ合っていなかったら──全身がぞっとして身震いが走る。


「けれど、なんでそんな物騒なものがバイネルにあったのかしら。リーベルンの連中がこっそりと持ち込んでいたっていうこと?」


「……そこなんですよね」


 サーシャは再び渋い表情で腕を組み、ウーン、と唸り声を上げた。


「リーベルンが運び込んだものだとしたら、一大事です。私たちはいつの間にか、彼らの侵入を許してしまっていたということですから」


「……だがしかし?」


「だがしかし、リーベルンの仕業ではないとすれば、それはそれで大問題です。エントリアの中に、呪いに関連する代物を動かしている人間がいるということですから。いずれにせよ、早急に出所を探る必要がありますね」


 車窓から差し込む明るい陽光の中で、俺と姉妹は険しい表情を浮かべながら一斉に唸った。


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