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飢えた獣のように

「クエリをどうしたんだ! ここは一体なんなんだ!」


 様々な疑問が泉のように湧き出てくる。俺の絶叫に、サーシャは不可思議な笑みで返答する。


「小難しいことを考える必要はありません。夢の中のような穏やかな気分でいればいいのです。そうすれば、その内に……」


「レイルさん!」


 キエラが声を荒げると同時に、頭上から黒い物体が音を立てて落下してくる。十か二十か、とにかく大量の黒い影──石の地面にガシャン、という音を立てて降り立ったそれは、頭にあたる部分を緩慢な動作で俺とキエラの方に向けた。


「こいつら……」


 闇の中に浮かび上がる不気味な風体。俺にはそいつらの姿に見覚えがある。イヌやネコ、アヒルやキツネといった様々な動物の顔。そしてやはり枯れ枝のようにやせ細った身体。そう、クエリが先ほど粉々にした、あの不気味な人形とそっくりなのである。


「正直デザインセンスは正気とは思えませんけれど……」


 サーシャは不気味な人形たちを見回して、呆れたように苦笑をうかべている。


「……でもまあ、遊び相手としては上等でしょ?」


「待て、どこに行く!」


 サーシャはクルリと踵を返し、カツカツと足音を立てて部屋の奥へを去ろうとする。俺はすかさず追いかけようとする──が、人形たちが目を光らせながら、ジワジワと俺たちを包囲するように動いている。


「私についてくれば、もっと面白いものを見せてあげますよ。まあ、生きて追い付ければの話ですが」


「……っ! 構えてください!」


 キエラが再び叫んだ。そして、彼女の声を号令にしたように、悪趣味なデザインの人形たちが一斉に飛び掛かってくる。


「うおおおっ!?」


 真っ先に俺の頭上に来襲したトラ顔の人形に、俺はもう破れかぶれに剣を振りかざした。俺と敵の獲物が触れ合い、ギィンッ、という衝突音が響き渡る。


「っ!……馬鹿みたいな力しやがって!」


 暴風雨のように飛び交うかぎ爪の連撃を、俺の意思を超越して動く黒い剣が辛うじて防いでいる。一発一発が鋼鉄の棒で殴られているように重く、攻撃を受けるたびに手が感電したようにビリビリと震える。俺に襲い掛かる動物顔たちは皆、顔に生気がなく、何を考えているのかさっぱり分からない。


『ククク……こいつらも"呪い"の力で動かされているようだな』


「まさかサーシャが? 彼女が何かやっているのか?」


『いいや、あの女も操られてるだけだ。呪いの力に踊らされて我を忘れている。……そう、ちょうどお前さんのように』


「ふざけたことをっ!」


 荒ぶる感情に任せて剣を振り回す。とうてい剣術とは思えない無茶苦茶な軌道を描きながら。


 全力で切り払ってトラ顔を押し返すと、今度はキツネ顔が襲い掛かってくる。キツネが引いたかと思えばタカだかワシだか分からない鳥の顔……次から次へとキリがない。


 人形たちと俺たちとの攻防を尻目に、サーシャはクエリを部屋の真ん中に置き去りにしたまま、部屋奥の扉からどこかへと消えて行ってしまう。逃げる気なのか、それとも何か仕掛けてくるつもりなのか……。


「ええい、埒があきませんね!」


 キエラも俺と同じく──いや、俺よりも機敏な動きで人形たちの猛襲を捌いている。素人目に見ても美しく洗練された剣運びだが、如何せん相手にしている数が多すぎる。


「レイルさん! 隙を見てサーシャさんを追ってください。こいつらは私が引き受けます」


「なんだって? この数を!」


 今でこそ手を焼いている数なのに、正気の提案とは思えない。しかしキエラは苦笑気味に、


「面倒なので私も"聖剣"を使います。この位置取りではあなたも攻撃に巻き込まれかねません。隙を見て離脱を!」


「無茶苦茶言ってくれるっ!」


 はっきり言えば、涼しい顔で敵をいなし続けているキエラと違い、俺はどんどんと押されていた。刀に力を借りた状態でなお押される、凄まじい腕力。て不愉快と威圧感に満ちた顔。一瞬のすきもなく攻撃を続けるその凶暴性。


 俺はどんどんと壁際に追い込まれていった。数体の人形に逃げ道を塞がれて、まさしく窮地である。そして俺の正面に立っていたのは、いつぞやお目にかかったウサギ顔である。


 袋のネズミだとでも言いたげな、どことなく満足げな顔つきのウサギがにじり寄ってくる。ウサギらしからぬ鋭く尖ったかぎ爪を見せびらかし、今にも喉笛を切り裂こうと機会を伺っている。


 俺は中段に構えた剣を強く握り直して、深呼吸をした。──ちょっとでもミスをすれば一気に崩れる。キエラも目の前の敵にかかりきりで援護は望めない。……俺が何とかするしかないのだ。


 そして、ウサギ顔は満を持して襲い掛かってきた。爪を天高く振りかざし、全体重をかけて俺を切り裂こうという意図なのだろう。俺もカッと目を開いて、迎撃の体勢を整える。


 ──が、予想外のことが起こった。


 奴の後方から、何かが飛んできた。俺に分かったのはそれだけだった。


 突然飛来した何かが、ウサギ顔の顔面を後ろからぶち抜いたのである。ウサギ顔はど真ん中に巨大な穴が開き、真っ白な綿を空中にまき散らした。


 奴の動きが一瞬固まった。待ってましたとばかりに、ミーンが声を響かせる。


「今だ! ぶった切れ!」


 言われるまでもない。俺はもはや本能的に、人形の首元を目掛けて突きの要領で剣を振っていた。猛攻を前に一度も相手に触れられなかった剣先が、ようやく届いた。


「よし、いいぞいいぞ! 新鮮な呪いだ!」


 剣先から伝わるエネルギーの流れが、俺の体を燃えるように熱くした。視界がわずかに明滅し、心の仲が晴れあがるような気分に染まっていく。


 次に何をすべきなのか──考えるまでもなく体が動く! 俺は全力で石の地面を蹴って飛び上がった。取り囲んでいた人形たちの頭上を軽々と超え、倒れているクエリの体をも超えて、はるか後方へと着地する。


「よし、任せましたよ! 私も直ぐに後から行きますから!」


 キエラは勇敢な声でそう叫ぶと、俺に向かってニヤッと笑った。俺は何も言わずに親指を立てて返答する。それから──サーシャが中に消えていった鉄の扉の前に立ち、勢いに任せて蹴破った。

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