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夢の家

「不審者をやっつけたというのはいいことですが……」


 キエラはぼんやりとした表情で、土にめり込んだクマの顔を眺めている。


「サーシャさんの居場所の手掛かりにはなりそうにないですね。一応警備部の捜査班に鑑定を依頼してみますか?」


「そんな悠長に構えているわけにはいかないわ。直ぐに別の所を……」


 そうは言っているものの、クエリにも当てがあるわけではなさそうだった。壊れた人形は沈黙を保ったまま黙っている。サーシャの居場所など喋る気配はない──もっとも、彼が元気に動いていた時でさえ、そんな情報を吐いてくれるようには到底思えなかったけれども。


『お困りのようだな』


と、唐突に声を掛けられる。俺は人形の残骸を見下ろしている二人に気取られないよう、


「何の用だ」


と小声でミーンに問いかける。


『助けてやろうかって言っているのさ。サーシャの手掛かりが欲しいんじゃないか?』


「お前、そんなことが……?」


 俺ははっとして、地面に転がっている人形の残骸を改めて見た。ミーンが反応しているということは、つまり……。


『勘がよくなってきたんじゃないか? その通りさ。……あの人形、呪いの力を感じるぜ』


 ──考えてみれば驚くべきことでもないのかもしれない。人形が一人でに徘徊して、あろうことか人間に襲い掛かるなんて、呪いとしか形容できないような現象ではないか。


「まさかあれも、リーベルンの連中が?」


『出所については知らんがね。しかしまあ傾向としては、お前がこの前ぶっ壊した機械のそれと近い雰囲気だ』


「……それで、手掛かりとはなんだ。どうしたらいい」


 俺がそう尋ねると、クククと押し殺すような笑い声が鞘から漏れる。


『……その残骸を拾ってくればいい。この前みたいに呪いの力を吸い取るんだ。もし呪いの残渣の中に手掛かりがあれば、お前にくれてやるよ。感謝するんだな!』


 相変わらず俺はミーンの意図を読みかねていた。しかしこの状況で、他に縋るものもない──俺は一度仕舞い込んだ剣を再び抜いて、近くに転がっていた足の破片に突き刺した。


 謎の兵器に突き刺した時ほどの、驚くほどの変化はなかった。しかし剣を握っている手に鈍い痺れが走り、腕を通じて体の方まで登ってくる。何かを取り込んでいる──そんな気分がする。


『ほうほう、なるほど』


 こちらの興味を煽るように、ミーンが感嘆の声を上げる。


「なんだ、何か分かったのか?」


『……分かった。面白いことが分かったよ。でもまあ、全てをネタ晴らししても面白くないな。……とりあえず、サーシャの居場所だけは教えてやるよ』


「本当か?!」


 思わず大声を上げたので、キエラが訝しそうにこちらを見た。


『ああ。あの少女は、案外と近いところにいるよ。ここから西に行ったところの別荘地帯だ。青色の屋根のある小屋の中に彼女はいるよ』


「どうしたんですか、レイルさん?」


 ゆっくりと歩み寄ってくるキエラの目をまっすぐ見ながら、俺は答える。


「……サーシャさんの居場所について、思い当たるところがあるのです」




 それから俺たちは湖の西側、お金持ちの別荘が立ち並んでいる地帯へと歩いて行った。俺の提案に対し、キエラは若干疑っているような気配があったけれども、クエリの方はかなりすんなりと受け入れた。可能性が少しでもあるのであれば、直観だろうとなんだろうと関係ないということなのだろう。


 ミーンが言ったような、青い屋根の木造建築は確かにそこにあった。俺が想像したよりもずっと大きく、如何にもお金持ちの住みかという雰囲気を醸している。部屋や玄関には明かりがついておらず、夜の暗闇の中でひっそりと佇んでいる。


「こんなところに、あの子が?」


 クエリは中の様子を伺うように周囲を歩き回っているが、窓越しに見える室内は暗く、人の気配はない。素直に考えるなら、持ち主不在の状態にあるのだろう。


「誰が所有する建物なのでしょうか? 家主が分かれば何かと楽なのですが」


 玄関をちらと見てみるが、家主を表すような記載は一切存在しなかった。その代わり、扉の前に添えられた看板に、奇妙な文章が綴られていた。




 ここは、夢の家。


 それは夢のような家なのか。


 それとも家のような夢なのか。


 いずれにせよ、目覚めてみれば分かることだ。




「なんだこりゃ」


 意味不明な文章の掲示に、俺もキエラも思わず首を傾げてしまう。


「詩人さんの家なんですかね?」


「少なくとも変わった人間ではあるみたいですが」


「……でも困りました。これでは誰に連絡すればいいのか分かりませんね。警備部の人に連絡して、すぐに持ち主を探してもらうことにしましょうか」


「フン、そんな面倒なことしなくていいです」


と、離れて様子を伺っていたクエリがツカツカと玄関の前まで歩いてきて、固く閉ざされた扉に手を掛ける。


「間違っていたら、後で謝りましょう」


 クエリはそういうと、木製のドアノブを思い切り引っ張った。ガキョリ、という鈍い音を立てて、両開きの扉が変形し、遂には外れる。


「ちょっと、クエリさん! いくら妹さんのためとはいえ、勝手に人の家に……」


 キエラは窘めるように言うが、既にクエリは話も聞かずに小屋の中への侵入を開始していた。長々しい溜息を吐いてから、キエラはクエリの後に付いて行く。俺も慌てて二人の後を追い、真っ暗な別荘の中へと足を踏み入れたのである。


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