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太陽と影

「君の実家もこの近くにあるのか? 両親もそこに?」


「そうですね。ちょっと山沿いの方に。ですが……」


 サーシャの顔が一瞬曇ったので、俺は何か不味いことでも言ったのかと不安になった。なんだろう……両親のことか? 姉妹そろってエントラに住んでいると言っていたが、もしや……。


「ああ、両親ともに元気ですよ」


 彼女はしかし、あっさりと否定した。


「もしかして亡くなったとでも思いましたか? いいえ、そんなことはありません。むしろ無駄に元気でしす。肉親が二人も"剣聖"に選ばれているなんて前例のないことだそうです。両親の元にも中央から報奨金がガッポガッポですよ」


「ああ、そうかい」


 予想が外れてがくりとしたが──俺は少しだけホッとした。


「……そもそもよく分からないんだが、"剣聖"っていうのはどうやって選ばれるんだ? 誰でもなれるわけじゃないんだろう?」


「いい質問です。ですが、私にもよく分かりませんね。……あなたは、チリンさんやオスローさんの聖剣をご覧になっているのでしたか?」


「ああ」忘れるわけもない。全てを焼き払う赤い炎。俺たちを乗せて飛ぶ夜の風……。


「……既に知っての通り、"聖剣"に選ばれた人間は、聖剣に封じ込められた不思議な力を自在に操ることが出来るようになります。ですが……体質のようなものがあるのでしょう。聖剣の力を引き出すことのできる人間と、そうでない人間がいます」


 サーシャが前髪を触りながら滔々と喋っていると、ウェイターが巨大な皿を二枚、俺たちのテーブルまで運んできた。


「おお、これですこれです!」


 驚くほど巨大なステーキが鉄板の上に乗って、ジュウジュウと音を立てている。


「これが……いつもの?」


 かなり意外な料理の出現に、俺は思わずサーシャの方を二度見した。


「ええそうです。美味しいですよ?」


 サーシャは慣れた手つきで肉を切って、口に運ぶ。そして満足そうに表情を緩ませた。


「……で、何の話でしたっけ? ああ、そうか、剣聖の話でしたね。……エントラには、その人が聖剣を使いこなせるかどうか判定できる人がいるんです。もう三年ほど前になりますか、その判定人がこの土地を訪れて、無邪気に遊びまわっていた私たちを『才能アリ』と断言したんですね」


「ふむ……」俺も肉を頬張りながら彼女の話を聞く。確かにその肉は旨かった。


「剣聖として選ばれた人間に、この国では拒否権はありません。大変名誉なことですし、お金だって大量に手に入りますが、正直当時の私にとっては迷惑なだけでしたね。まあ、今はそこそこ楽しんでいますけれど」


「大変なんだな、色々と」


 聖剣の能力を手に入れ、夢のような能力を身に着ける──それは楽しそうにも聞こえるが、その代償として戦場へと向かわされ、あるいは訳の分からない調査に駆り出されるのである。少なくとも俺にとってはあまり羨ましい職業のようには思えなかった。


「大変ですよ。それはとてもとても」


 気が付けば既に彼女の皿の上の肉は殆どなくなっていた。喋りながらいつの間に食ったのか──少なくとも俺の数倍のペースで食事が進行している。


「前に言いましたかね? 十二剣聖というのは階級があって、上の人は下の人に自由に命令を下せます。よほどのことでない限り拒否権はありません。この調査依頼も、ケイスさんから降ってきたものです。ケイスさんは第九剣、私は第十一剣ですから、私に拒否権はないんですね」


「聖剣なんて神秘的な響きのくせに、随分と面倒くさい制度だな」


 思い出してみれば、確かチリンもそんなことを言っていたような気がする。俺は水で喉を潤しながら、サーシャの語りをぼんやりと聞いていた。


「……まあ、世の中そんなものですよ。だからこそ、第一剣のアメリア様には誰一人として逆らえないのですが」


「だけど、もし上の方の人が変な人だったらどうするんだ?」


 上の階級の人の命令に逆らえないというのであれば、上の人間が危険な思想の持主だったらどうするのだろうか。例えば──戦争を仕掛けるのが趣味の人間だったりした場合は。


「変な命令にも逆らえません。ですが、"階級替え"という制度はあるんですね。上の階級の人へと挑戦状を叩きつけて、一対一で勝利すれば階級が入れ替わるんですね。私は出世に興味がありませんからやりませんけれど、なぜだか積極的な人はいますね」


「ということは」俺は思わず身を乗り出して、サーシャの目をじっと見た。「例えば……アメリア様を誰かが倒して階級が入れ替われば、十二聖剣の権力はその人に移る?」


「原理的にはそうですね。でもまあ、無理でしょう」


 サーシャはそういうと、呆れたような表情で首を振る。


「あの人は……少し別格過ぎます。あなたのようなことを考えている人は、十二聖剣の中にもいます。ケイスさんなんか最たるものですね。あの人は随分前からアメリア様のことが嫌いで、何度も決闘を挑んでいます。けれど毎回歯が立たずにボロボロにされてますね」


「そんなに強いのか」


 ミーンも事あるごとに強調するアメリアの強さ。一体どれ程のものなのだろうか。少なくとも、エントラ城の部屋で見た姿からはその強さを想像すらできなかった。


「強いですよ。なにしろ、"太陽の子供"ですからね」


「……なんだそりゃ」


「アメリア様の異名です。余りに強さの次元が違うので、きっと神の類なのだと方々から呼ばれているんです」


 サーシャは肉の最後の一切れをフォークで突き刺して、ぼんやりと眺めてから口へと運んだ。


「……まあ、本当に正体が神の子供でした、というほうがまだ現実的に聞こえますね。彼女が同じ人間だとは、正直全く思えませんので」

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