終わりとプロローグ
絶対に帰るんだ!
立ちはだかるのは巨大な木。
左右上下から繰り出される巨大な枝を避ける。
俺がクソったれなこの世界に飛ばされたのもコイツのせいだ
高層ビルのような馬鹿でかい、それこそ山のような大樹
星のリソースを食い潰す異物を除去するために俺はこの世界に飛ばされたらしい。
太い枝を駆け上がる。
らしいってのはこの世界に俺を召喚した王族から話を聞いたってだけだから。
何でも世界樹を切除しないと星が枯れてしまう。
その大樹を切るために異世界召喚されたらしい。
本当にクソったれな話だ。
ふいに枝を蹴る感触が軽くなる。
ちっ!枝を切り離しやがった。
異世界召喚なんてラノベみたいな事を体験できるかとも思ったがそんなものはなかった。
あったのはカサカサの大地に人と魔物だけ
美しい物や美味しいものなんてなかった。
魔物っていうのは本当に魔物で魔力で編まれた生物もどき
駆除すると泡のように消えてしまう。
タチが悪いのは魔物っては生き物の邪魔をするために生まれたような存在だ
どこぞのエロ同人みたいな事をして生物の遺伝子に傷をつけやがる。
くっ、痛ぇ!
無造作に刺さった葉っぱを肩からはがす。
この世界じゃ真っ当な人型が少ない
王族でさえけむくじゃらの獣人だった。
これでもマシな方さ
一般庶民はパーツが多かったり位置がおかしかったりした。
無数のトゲを斬りはらう。
斬る
はらう
ちぎる
潰す
斬る斬る斬る斬る
思考分割のスキルは便利だが余計な事も考えちまう。
完全な人型である俺はそりゃモテたけど
相手はクトゥルフ神話に出てきそうな見た目だったり
スカートの中は地獄のような見た目だったり
どこで喋っているか分からない奴
顔面がピカソの絵画ならまだマシで
首の位置がおかしかったり
指が100本あるようなやつ
まともな人間はいなかった。
たまたま持ってた漫画雑誌のグラビアが唯一の癒しになっていた。
帰りたい!ここは地獄だ。
必死に魔物を駆除して食いたくもない物体を口に血反吐を吐いた。
蠢く枝葉が俺を搦め捕ろうと襲いかかる。
右
左
上に乗る
かわしながら、時には傷つきながら前に進む。
遠目からだと魔物と人間の区別がほとんどつかない
区別するポイントは圧倒的な悪意、それと無駄のない体だ
汚染された人間の体についた異物は基本的に動かない。
魔物は全てのパーツを自分の意思で操れる。
だから人間と魔物じゃ魔物の方が圧倒的に強い
汚染された部分は切ろうが叩こうが痛みを感じない。
だから切り離すこともできる。
このクソ異世界で人類がギリギリ生き残ってるのはそのせい。
俺は最小限の食事しかしていない。
栄養補給という意味でしか食事が取れない。
病気になるのが怖かったし、何よりもそれを当たり前だと思いたくなかった
・・・後、もう少し
もうすぐ帰れる。
世界樹の幹まで500m
枝葉と魔物が俺の前に立ち塞がる。
「失せろ!ザコが!」
有象無象をオノで切り払う。
もうすぐだ、家に帰るんだ!
真っ当な食べ物を食べて暖かい風呂に入ってお気に入りの布団で寝たい。
朝は悪態をつきながら学校に行ってダチとくだらないテレビの話をして盛り上がったり
クラスメイトの女子で誰が好み?
なんて話をしたい
後、300m!
巨大なアリが牙を打ち鳴らし
葉っぱの裏に隠れたゴブリンが矢をつがえている。
枝を伝う蛇は毒液を滴らせている。
アリをウォーターカッターで真っ二つ
ゴブリンはファイヤーボールで丸焦げに
蛇は魔力の腕で枝に結んでおく。
異世界に来て唯一の収穫は魔法が使えるようになった事だけだ
魔法のおかげで魔物に殺されずケガもすぐに治せるから旅ができた。
必要があったから覚えただけ
機械のように心を凍らせて
100m
気合いを入れろ!
足に魔力をこめて強く地面を蹴る
凄まじい冷気、氷のつぶてが肩や腕を削る。
50m!
木の幹から巨大なゴーレムが生えている
枝が集まり不格好な腕を横に振るう。
「しゃらくさい!」
魔力をこめたオノが震えている。
今にも手から飛び出そうとするこいつを無理矢理振り下ろす
ゴーレムの後ろにある世界樹諸共、ぶった斬る。
「がああああ」
力をこめる!帰れるなら腕の1〜2本くれてやる。
力をこめる、帰れないのならここで死んでしまえ!
枝がしなり悶えている。
背中を打ち据える枝や鋭い葉っぱが体に食い込む。
かまうものか!
突然、手応えがなくなりオノが光となって消えた。
王様から賜ったオノは世界樹を切除したら消えてなくなる。
そうか上手くいったのか
大質量の物体が切り倒されたのに音も衝撃もない
ただ、世界樹は静かに空を引き裂きながら倒れた。
王様が言うには木の幹を歩いていけば元の世界に帰れるらしい
俺は魔法で傷を治しながら木の幹を歩く。
どうやら、異世界を抜けたようだ。
空気に含まれていた魔力が無くなった。
自然と帰り道が分かる。
帰巣本能とかあったかな?
ともかく迷子になる事はなさそうだ。
こんなに楽しい気持ちになったのは久しぶりだ。
「アイテムボックス」
俺はボロボロの鎧をしまい日本で着ていた服を着る。
ちょっと筋肉がついたから服がきつい。
というか着れない。
日本でも通用する地味だけど縫製はしっかりしている服を着た。
この前、オーダーメイドしたやつだからピッタリだ。
これで大丈夫。
ああっ!帰ったら何をしよう!
真っ先に家に帰って母さんや姉さんの顔をみる?
それとも香織に会いに行こうか!
でもな〜コンビニを見つけたらコーラと唐揚げを買わないと
まともな食い物、ステーキ、ハンバーグ、そうだ!たまに学校帰りに寄り道してたマ◯クにでもいこうか。
ラーメンも捨てがたい、ラーメンに半チャーハンと餃子をセットにした町中華を堪能したい。
ウキウキとスキップしてしまいそうだ
暗い一本道に光が差す
出口だ!
やっと帰れる。
あの優しい世界に
学校に行ってつまらない授業を受けて友達とだべりながら弁当を食べる。
テレビドラマとか深夜アニメの話がしたい
見知ったアスファルトの地面が見えた。
こらえきれず走って出口をくぐり抜け
地面に着地した。
「ここは」
知ってる!いつも通ってる近所の大通り
あそこ曲がればコンビニがあってその先は我が家だ!
ギュルルル
腹がものすごい勢いでなく
食い物を食わせろ!
本能が叫ぶ
俺はゆっくりとコンビニに向かう。
コンビニのトビラにはから揚げ新味登場!
と威勢の良いチラシが貼ってある。
いつものコンビニ
ただ、先に確かめる事がある。
おれは体曲げて自動ドアを通る。
新聞を見た、日付は20✖︎×年8月2日
ちょうど俺が転移した日付だ。
時計を見ても大体、同じ時間。
帰ってこれたんだ!
さて、腹減ったし何か買うか。
異世界でも無くさなかった財布には2000円が入っている。
コーラとポテチ、ホットスナックでも買うか
いつも買ってる定番メニューを掴みレジへ
「から揚げ一つ」
からあげを指差して注文する。
店員さんの顔色が真っ青
風邪でも引いてるのか?
金を払い品物を受け取る。
我慢できない。
コーラのフタを開け一気に半分を飲み込む。
いつも飲んでた甘さと炭酸が喉を通る快感。
から揚げにかぶりついて肉と脂の旨味に脳が溶けそうな程の達成感。
美味すぎる!
塩胡椒、ニンニクが効いてるから揚げ
泣きそうなくらい美味い。
あっという間に完食した。
手が汚れたしトイレを借りよう。
「トイレを借ります」
ドスドスと歩きながらトイレの洗面所で手を洗おうと・・・・した。
鏡がある、そこには怪物が写っていた。
デカい、2mはありそうな長身で筋肉が服の上からでも分かる。
腕にはビッシリと剛毛が生えている。
指先は鋭い爪。
目は一つの眼窩には目が二つずつ入ってる。
4つの目がある。
口は犬のよう尖り、鼻はブタようだ。
耳が鋭く尖り、頭からは捩くれたつのがはえている。
「ああああ」
口の中はびっしりと牙が生えている。
店員さんが真っ青になっていたのが分かった。
おれに怯えていたんだ。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
叫ぶ、気が狂いそうだ、帰れない。
もう人間じゃない
目から涙が溢れている鼻水でまともに呼吸できない。
走る、早くここから去らなきゃいけない。
恥ずかしい、怖い、なんでおれがこんな目に!
何も悪い事はしてないのに!
もうとっくに人間をやめていたんじゃないか!
走る!人目のつかないところへ
駆ける!もう何も考えたくない。
気がつけば幼い頃から遊んでいる神社へ来ていた。
人も来ない、夏でも涼しい
神社の隅っこ、人目のない暗がりに身を潜める。
もう何も考えたくない
「ちょっと止めてよ!」
「いいじゃねぇか!俺たちと遊ぼうぜぇ!」
「気持ちよくさせてやるからよぅ」
「俺たちじゃなきゃ満足できない体になるかもしんねぇけどな」
「ギャハハは」
耳障りな音だ、影からのぞけば3人の男子学生と一人の女子
「あれはトラブルか?」
どうでもいいと投げやりの心が八つ当たりの相手を見つけて歓喜に震える。
俺が何をしたって言うんだ。
突然、拉致られて無我夢中で旅をしてようやく辿り着いた故郷
気がつけば化け物みたいになってしまった体
楽しそうな顔で女の子にイタズラしようとするクソ野郎
ドロドロとした感情が腹の下辺りに溜まっている。
吼える。
「があああああああ」
異変に気づいた男たちが俺を見てあぜんとしている。
当然だ、化け物に出会ったんだから
「ひっ!」
ゆっくりと近く、男たちは一目散に逃げていった。
めちゃくちゃにしてやりたかったが
逃げられてしまった。
八つ当たりの相手もいなくなったからまた、人気のない場所にでも身を隠そう。
そう言えばあの女の子は?
周囲を見渡すと女の子はキョトンした表情をしていた。
「大丈夫か?」
「あっはい、大丈夫です」
「ケガはしていないか?」
「どこも痛いところはないですよ」
普通に会話していて気がついたがこの子はどうやら盲目らしい
目は開いているけど、焦点はあってない。
白杖を持っているから間違いない。
「背が高いんですね」
「分かるのか?」
「はい、普通の人よりも上の方から声が聞こえるから」
「コンビニに入る時は屈んで入るくらいには身長はたかいよ」
「すごい!でもそんなに高いと大変じゃない?」
何と滑稽なんだろう、化け物である俺と女の子の会話が奇跡的に続いている。
学校の話、友達のこと、いつもイジワルしてくる幼なじみ
楽しくてホッと当たり前
待ち望んだ日常がここにあった。
神社が夕日に照らされるころ、
「なあ、いつから目が見えないんだ?」
「産まれた時から見えなかったんです。」
「そっか、何か見たいものってあるの?」
「何それ、変な質問・・・お母さんの顔とか?」
「ふむふむ」
「もし叶うなら、家族の顔が見たい」
「そっか、じゃあ瞼を閉じて」
「うん」
少女は素直に目を閉じた。
不思議と落ち着いた心がお節介をしろと思っている。
話しているうちにトゲトゲした気持ちも落ち着いてきた。
世界樹をぶった切った後だけど、魔力も少し残ってる。
盲目を治すくらいならできる。
俺は手のひらを少女の瞼に当てる。
気まぐれではあったけど、回復魔法をかける。
まずはスキャン、体の隅々までおかしな部分がないか調べる。
脳と眼球の神経がうまく繋がってないし眼筋も衰えている。
他にも体のバランスが悪いところを修正するように魔法をかける。
慎重に優しく
「瞼をゆっくり開けて」
夕日の光を遮りながら俺は少女に促す。
「えっ!」
「どうだ?」
「見える・・・なんで!?」
「俺は魔法使いなんだ」
そうなんだ〜と呆然としてる
「俺が怖くないか?」
「なんで?」
「だって聞いたことない見た目をしてるだろ?」
「ちょっと顔を触らせて」
「いいけどなんで?」
「顔とかは触って判別してたから」
「ああそうか」
俺は少女に近づいて顔を触らせる。
「う〜ん、髪の毛はサラサラだし、眉毛があって、目がある」
「目を触られるのは怖いな」
「仲のいい子にしか触らせてほしいなんて言えない」
「そりゃそうだ」
「鼻があって鼻の穴も二つ、ほっぺがワサワサしてる」
「ヒゲ剃ってないや」
「でも、髪の毛と同じだ〜」
少女が楽しそうに顔を触る。
「唇もお父さんと一緒だね」
楽しそうに俺の顔を触る少女
久しぶりに見た美少女に心臓が爆発しそうだ
「ほっぺの色が変わったね」
「そうか?女の子に顔を触られるのは初めてなんだ」
そっかー
楽しそうな少女である。
「他の人と違わないよ」
自分の体なのに変化に気がつかなかったというのは相当、消耗してるんだろうな
俺は化け物からまともな人体に戻れたようだ。
冷静に考えれば魔力が体に溜まりすぎて体に影響が出たのだろう。
「ああ〜勇太が女の子とキスしようとしてる!」
「香織!」
神社の階段にいる幼馴染の香織が真っ赤な顔で叫んでいる
「あたしとの待ち合わせをすっぽかして他の子をナンパしてたの?」
「そういうのじゃないんだけど」
「この人に助けてもらったの」
どういう事なの?首を傾げながら俺を見る香織
じっくり、俺を見て顔が真っ青だ
「どうしたの!その髪の毛!真っ白じゃない!腕だってあたしより細くなってるし!よく見たら顔が真っ青よ!」
ああ、やっぱり消耗してたんだ〜安心したせいで意識が途切れる
2人の少女に心配されながらゆっくり意識を手放した。
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???視点
上手くいったわ〜
勇太くんをバカ王に召喚してもらって計画通り、異常成長させた世界樹を斬り倒させた。
これで新たな狩り場にいけるわ。
世界の壁に大穴を開けたから
これから新鮮な魂が食えるわ
楽しみ
邪悪な加害者が得体の知れない空間でほくそ笑む。
新しい食材がたっぷり手に入るのだから。
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