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魔力がない以上、俺から力を奪った奴にも、この無礼な人間にも、罰を与えることはできない。それに、頼れる者どころか知り合いすらいないこの状況で、魔力は使えない、体も子供、こんな状態で一人ではできることもできない。なら、使える者は何でも使う。たとえば、この人間。こいつには、あの魔族から助けたという恩があるはず。
そして、まずは飯だ。飯を食えば、魔力が回復するかもしれない。そのための道案内だ。
「あの……魔王……なんですよね?」
「魔王様、だ。全く、何度も何度も、失礼な奴だな」
「ちょ、ちょっと、あんまり魔王って大声で言わないでよ」
「なぜだ? 俺は魔王だ。それを偽る必要などありはしない」
「ありますよ! 魔王は人間の敵。その名をこんな人通りが多い場所で叫ぶなんて、非常識ですよ」
「それもそうか……」
あちらでは魔族どころか人間にまで魔王様と褒め称えられていた。そうやって、魔族が人間を支配していたから、忘れていた。人間と魔族というものは元々そういう関係だった。
「それで、呼び方なんだけど、なければフレットと」
「アペルピシアだ」
「アペ……なんですか?」
「はぁ……」
これだから人間は……。一度聞いた名を即座に記憶できない。欠陥だらけの生物だ。だが、そんな人間と俺たち魔族は付き合っていかなければならない。
「アペルピシアだ。一字一句、間違うことなく記憶しろ」
「アペル……長いんで、アペル君でいいよね。その方がしっくりくるし。」
「せめて様をつけろ!」
「子供に様をつけるのはおかしいでしょ? 私はミラだからミラちゃんでもミラお姉ちゃんでも何でもいいよ」
俺の体は子供。王子や領主の息子でもない限り、様をつけるのはおかしいということか。
「おのれ……魔力だけでなく身体機能からも魔王の威厳がなくなってしまうとは……これもそれも、全てあの魔族のせいだ……」
「まあまあ。イライラしているときは、まずお腹いっぱいになるのが一番」
どうやら、飯屋についたようだ。
「案内、感謝するが、まずかったら承知しないぞ」
「その……アペル君の口にあうかは分からないけど……」
「構わん。さっさと入るぞ」
少々不本意ではあるが、人間の店へと入っていった。