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俺は魔王、アペルピシア。自称神の企みで異世界に飛ばされ、魔王と名乗る不埒者を目撃した。低俗な魔族と慢心していた俺は、正面からの攻撃を真っ向から受け止めた。俺はその攻撃で力を吸われ、瞬間移動したら、体が縮んでしまっていた。
「って、どこの名探偵の話だ!」
俺は魔王だぞ。威厳のある魔族の王。恐怖の象徴。それがこんなちっこいガキの見た目になってしまったなんて……。これでは威厳もなにもあったものではない。
「おい、人間! これはどういうことだ!」
「どうって言われても……。力を吸われたんじゃないかな。その見た目も、前に見せてもらったフレットの子供の頃の姿だし……でも、中身はフレットじゃないんでしょ?」
「そうか、吸われた、そういうことか……」
俺の魔力は消費してしまったのではなく、奪われてしまった。この非戦闘状態にあっても魔力が一向に回復しないのはそのせいだ。奪われた魔力を取り返さなければ、この人間のガキの姿のままだ。
「あの魔族め。必ず殺してやる。いいや、殺すだけでは生温い。考え得る全ての苦痛を与えて、殺してくれと懇願させてやる」
怒りで胸の内が燃えたぎるが、感情だけで動いてはいけない。今の奴には、俺の力が上乗せされている。完全に弱体化してしまった俺では、何の策もなしに立ち向かってもまず間違いなく負ける。それに、戦いに行くにしても、魔力を失った今の俺では、転移魔法も使えない。
つまり、今やるべきことは、奴を粛正するための力を蓄えること。力を蓄えることと言えば、まずは飯だ。腹が減っては何とやら、だ。
俺の意見に賛成するように、一緒に逃げてきた人間の腹も返事をした。
「なんだ、人間。貴様も腹が減ったのか。俺の眼前で腹を鳴らすとは、いい度胸だ。だが、食事をすることには、俺も賛成だ。よい店へと連れて行け。それを貴様への罰とする」
「貴様とか人間とか……私の名前はミラです。口調も悪いし、私に命令して、生意気な子供ですね。それに、罰って……何様のつもり何ですか?」
「魔王様だ。その不敬な態度も、眼前で立つことも、寛大な心と逃げれた恩があるから許していたものを……。つけあがりおって。死をもって償うがいい!」
天高く手を掲げ、力を集める。
この町ごと焦土に変えてやろう!
「極大魔……」
言い終わることもなく、体の力が一気に抜け、俺はそのまま倒れてしまった。
「おのれ……なんたる腑抜けた体……」
魔力がないと言っておきながら、怒りにまかせて極大魔法を使おうとしてしまった。
「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
俺を心配して手を差し伸べてきた。その心は買うが、俺に触れることはできない。
差し伸べられた手は、俺に触れる前に弾かれた。
「痛っ……何するんですか」
「憑依影装。この鎧は、貴様のような力が低い者からの接触を拒絶する」
魔力は奪われたが、憑依影装などの装備が奪われていなくてよかった。まあ、指輪はぶかぶかで今にも外れそうだが、憑依影装は自信の影を使っている分、たとえ四足歩行の動物になったとしても、体のサイズに合わせてくれる。この憑依影装が奪われなくてよかった。