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まさか魔王が異世界で  作者: 小森 輝
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 攻撃が来ることは分かっていた。避けることもできた。

 だが、この程度の魔族など、この俺が恐れる必要はない。

 俺が身に纏っているもの。黒い靄で形がない流動体の衣。これは自身の影で作った装衣、その名も憑依影装。威力が低い魔法や魔力が低い者からの接触を完全に拒絶する。

 この俺、魔王に刃向かう下等な魔族の攻撃など、憑依影装が防いでくれる。

 その慢心が、この胸に腕が突き刺さっている事態を生んだ。

「そんな、一撃で……」

 後ろにいる人間は俺が死んだと思ったのだろう。人間であれば、構造上、死んでいた。だが、俺は人間ではない。魔王だ。胸に風穴があこうが、首と胴体が切り離されようが、死ぬことはない。

 不敬な発言をする人間だが、今は許してやろう。目の前に、最大の不敬を働くものがいるから。

「貴様、魔王であるこの俺に爪を立てるなど、いい度胸ではないか」

「なん、だと……? 貫通しているのに、全くダメージがないなんて……あり得ない」

「魔王と名乗りながらこの程度で驚くなど、底が知れるぞ」

 余裕の俺に対し、腕を突き刺した魔王を名乗る不届きものはかなり焦っていた。

「なんで……抜けない……」

 憑依影装、そして、急速に再生しようとしている俺の肉体によって、貫通した腕は捕まれいる。

「致命傷を与えようとしたのだろうが、失敗だったな。この俺に接近戦で挑んだ時点で、貴様は敗北しているのだ」

「ふざけるな!」

 必死に足掻くが、無駄なことだ。この腕を放すことはない。

「この貫通した腕だけは残してやろう。だが、それ以外は消し炭だ! 体も魔力も魂も、全てを跡形もなく消し去ってやろう!」

 天高く手を伸ばし、魔力を集める。

「極大魔法」

 この俺、魔王が持つ最大級の魔法。魔王と名乗る不届きものだけではなく、辺り一帯を焦土に変える極大魔法。

「絶望を知れ。オーダー。アペルピ……」

 極大魔法を放とうとした瞬間、猛烈な倦怠感に襲われた。

 天高く掲げた手に力が入らない。極大魔法を放つための魔力が集まらない。

 体に何かしらの異常があることはすぐに分かった。

「ふっ……ふははっ。愚かだ。愚かすぎる!」

 突然、発狂したのは目の前の魔王を名乗る不届きものだ。

「何が可笑しい」

「可笑しいさ。魔王を名乗り、膨大な魔力がありながら、こんなことにも気づかないなんてな」

 この俺に気づかないことなど……。だが、体の力はどんどん抜けていく。極大魔法どころか、立っているのさえ辛くなってくる。

「そう、お前の力はどんどん抜けている。でも、力はどこに抜けていっていると思う? そうだ。我の中だ。お前を貫いた腕から直接吸い取っているんだ。抜けずに焦っていると思ったか? 抜けなければ腕を切り落とすに決まっているだろ。この間抜け!」

 数々の暴言と共に腕を引き抜かれた。もちろん、この行為は断罪するべき不敬なのだが、今はその言葉を発する気力もない。

「だが、感謝はしてやるさ。お前の魔力で我は膨大な魔力を得た。これがあれば、我に刃向かうものなどいなくなる。だから、楽に殺してやるよ」

 俺を殺しに奴が近づいてくる。今の状態だと、そのまま殺されてしまう。だが、勇者との戦いに備えていたものは、こんなものではない。

「時間遡行。リロード」

 つけていた指輪が弾け、魔法が発動した。勇者との戦闘で俺の体力がある一定を下回ったときに発動する魔法。その効果は、体力や傷、魔力までも、保存した状態に戻すこと。

「しぶとい奴だ」

 体が巻き戻っていく。魔力が戻ってきて、体に空いた風穴も塞がっていく。

 万全の状態、なのだが、勝てる気はしない。

「だが、今の我は控えめに言って最強。負ける気など毛頭ない!」

 今の奴は、奴の力に加え、俺の力が上乗せされている。奴の言うとおり、控えめに言って最強だ。

 それに、俺が使った巻き戻しの魔法には欠点がある。それは、巻き戻した分の時間がなくなった訳ではないこと。これから、さきほどと同じことが俺の体に起こる。つまり、何もされなくても時間がたてば胸に穴が空き、魔力がなくなってしまうということ。正直に言って、勝ち目はない。完全に俺の満身が生んだ敗北だ。ならば、敗走するしかない。もちろん、全快している今なら転移魔法で遠くまで瞬間移動できるのだが……。

「転移魔法。テレポート」

 やはり、発動しない。

 俺の転移魔法は、一度行った場所、そして目に見える場所にしか行けない。

 あの自称神が言っていたとおり、ここは異世界なのだろう。つまり、俺はここにしか来ていない。一度行った場所がここしかないのだ。

「自称神め……面倒な場所に出しやがって……」

 せめて、どこかこの世界で他の場所に行った者がいれば、その記憶を頼りに瞬間移動できるのだが……。

 そんなものが都合よくいるではないか。俺の召喚に怯え、今も震えている人間が。

「貴様! 今すぐ別の場所を思い浮かべろ!」

「べ、別の場所って……」

「どこでもいい! 貴様が昨日飯を食った町でもいい! 早くしろ!」

「は、はい!」

 この人間が協力的でよかった。これでどうにかなりそうだ。

「なんだ? 人間に命乞いか? 魔王どころか魔族の恥さらしだな!」

「貴様、覚えていろよ。必ず、貴様を断罪しに来てやる」

「逃がす訳がないだろ。確か、そうこうだったか?」

 奴が天高く手を掲げる。

「極大魔法」

 あの膨大な魔力の流れ、間違いなく最大級の魔法がくる。おそらく、あれを受け止めることは可能だろう。だが、その後は何もできない。今すぐにこの場を離れなければ詰みだ。

「おい人間! イメージはできたか?」

「は、はい。大丈夫です」

 この人間の記憶を読み解く。

「記憶解読。ローディング」

 そこには古い町が思い浮かんでいた。

 これなら、瞬間移動できるはずだ。

「転移魔法。テレポート」

 奴の極大魔法の準備が終わる前に、体を浮遊感が襲った。

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