95.幸せのかたち
ブクマ&評価&感想などありがとうございます。
最終話です。
結局あの後メイドが「そろそろお戻りください」と声を掛けに来るまでずっと隣に座ってお喋りをしていた。
きつい抱擁が解かれた後も、ラジアスは私の肩を抱き寄せて離さず、合間合間で頬を撫でたり髪を弄ったりと私でも分かるくらい愛情がだだ漏れだった。
私が思い切って頭をこてんとラジアスの肩に預けてみれば、一瞬驚いた後それはそれは嬉しそうに頬を緩めた。
ラジアス自身が輝いているのではと錯覚しそうなほどの極上スマイルに溶けそうになりながらも、この人にこんな顔をさせているのは自分なのだと思うと、より一層幸せな気分になった。
私達を呼びに来てくれたメイドにお礼を言って会場に戻ろうとして呼び止められた。
「ハルカ様、こちらへ」
訳も分からず促されるままにもう一度長椅子に座ると、メイドはとても良い笑顔で「少々お化粧を直しませんと」と唇を指して言われた。
私の顔から火が出たのは言うまでもない。
休憩しにこの部屋に来た時と戻る時とではラジアスのエスコートも少し変わっていた。
私に向かい差し出されたのは手ではなく腕。
「これも恋人の特権だ」
そう言って嬉しそうに笑うラジアスの腕に手を添わせ会場に戻った。
会場に戻るとまた何人かの男性に話しかけられたが、先ほどまでだったら少し後ろに控えていたラジアスが私の腰を引き寄せて「彼女も疲れているのでまたの機会に」と言って断りを入れた。
私に向けるのとは全く違う柔らかいのにどこか寒さを覚える笑みを浮かべていた。
「良いんですか?」
「さっきまでは我慢していたんだ。それに早めに知らしめておかないと厄介だからな」
「・・・またそういうこと言う。私よりもラジアス様ですよ」
「ん?」
「ん?じゃないです。さっきも女性に囲まれてたし・・・ちょっと。何ニヤニヤしてるんですか」
私はじとっとラジアスを睨む。
「いや、嫉妬されるのも嬉しいものだなと・・・っておい、静かに肘打ちするの止めろ」
「すみません。なんか無性に腹が立ったもので。私本気で心配してるんですけど」
「それこそいらぬ心配だろう」
「でも、やっぱり皆さん綺麗ですし、私なんか普段はあんなだし」
私が少し拗ねたように言えば、ラジアスは私の頬を撫でて困ったように笑った。
「・・・お前は自己評価が低すぎるな。それに俺はハルカの容姿だけで好きになったわけじゃない。今日のような格好も出来れば他の男に見せたくない。ハルカが可愛いことは俺が知っていればそれでいい」
そう言ってこめかみにキスを落とした。
「ひょっ!」
変な声が出た。
(ふ、不意打ち~~っ!)
「それとも俺の気持ちがまだ信じられないか?」
「信じます!疑ってませんからもう少しお手柔らかにお願いします!」
ラジアスはくくっと笑いを噛み殺した。
こうして本来の目的とは違った覚悟で臨んだ夜会は終わりを迎えたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――夜会から数日。
私は今日も忙しく働いている。
お披露目が済んだからと言ってやることは別段変わりはない。
「なあなあ。1回で良いんだって」
「セリアン様、しつこいですよ」
「だって気になるだろ。夜会の警備に当たったやつらがみんなしてお前が別人みたいだったって言うから気になるだろ?」
いつも通りの生活に戻ってからというもの、この手の話を良くふられるようになった。
特にセリアンは第二部隊の中でも一番私のことを男のようだと思っているらしく、私がどこから見ても女だったということが信じられないらしい。
まったくもって失礼な話である。
「馬鹿なこと言っていないでさっさと鍛錬に戻ってくださいよ」
「おい、逃げるなって」
相手にしていられないとセリアンを振り切って歩き出す。
諦め悪く追いかけて来ていたセリアンが急に「ギャッ」と呻き声をあげた。
何事かと振り返ればいつの間にかそこにいたラジアスがセリアンの頭を鷲掴みにしていた。
「セーリーアーンー。こんなところで何をしている?」
「ふ、副隊長・・・」
「ラジアス様からも言ってやってくださいよ。ドレス姿を一回見せろってしつこいんですよ」
そう訴えるとラジアスの眼が怪しく光った。
「・・・ほう?」
「いたたたっ、痛いっす!すみませんすみません!謝るから放してください!」
ラジアスが手を放すとセリアンは涙目になっていた。
「副隊長、酷いです」
「お前が悪い」
「ちょっと女装した姿見せてくれって言っただけじゃないですか。減るもんじゃないですし」
おい、ちょっと待て。
女装って何だ。私は元から女だぞ。
「いいや、減る」
私がセリアンの言葉にイラッとしているとラジアスが大真面目に言った。
「大体お前みたいな単純なやつが着飾ったハルカを見たら惚れかねん」
「いやいや、あり得ないですよ。ハルカですよ?」
「お前にハルカの可愛さが伝わらなくても全く構わないが、以前飯屋の娘におまけをしてもらっただけで「俺の運命」などと言い放ち惚れたやつを信用など出来るか」
「うわー・・・セリアン様、単純」
「う、うるせー!」
結局上手くいかなかったのだろうなと勝手に想像する。
セリアンはフィアラの見た目にも騙されていたようなので女を見る目が本当にないのだろう。
「ほら、分かったら馬鹿なこと言っていないでさっさと鍛錬に戻れ」
「うわ、ハルカと全く同じこと言ってる・・・」
「なんだ?そんなに暇ならメニュー増やすぞ」
「いえ!結構です!すぐ戻りますから!」
セリアンはバタバタと戻って行った。
「王城に行く途中だったのか?」
「いえ、私はユーリと天竜に光珠をあげに行くところです。ラジアス様は王城ですか?」
「ああ、途中まで一緒に行こう」
ラジアスと一緒に歩き出す。
いくら恋人同士になったからといって、勤務中に過度なスキンシップをするような人ではない。
それでも隣にいられることを嬉しく思う。
初めはラジアスとお付き合いをしてご令嬢方から疎まれないかと心配していたが、まったく問題無かった。
というのも、どこからどう見てもラジアスが私にベタ惚れなのが分かるかららしいというのはジェシーたちに聞いた話だ。
なんでも「あんな表情を見せられては邪魔する気にもなれませんわ」ということらしい。
私の気持ちを知っていた人たちからは祝福され、こうして当たり前のようにラジアスが隣にいてくれる。
「幸せだなあ」
「俺もだよ」
「・・・・私今口に出してました?」
「ああ」
心の中で思っていたことが思わず声に出ていたようだ。
しかも足まで止まっていた。
ラジアスがそんな私を見て笑った。
「どうした、急に」
「いえ、なんかそう思って」
私はこの世界に来てから今までのことを思い出す。
「この世界に来て、帰れないと知って、初めは絶望しかなかったんです。どうして自分がこんな目に合わなければいけないのかって、そればかり思っていました。・・・正直言うと、今でもたまにそう思います。この先も元いた世界を忘れることは出来ないと思います」
私は自分の胸の内をつらつらと話し出す。
「でも。それでも、来たのがこの世界で良かった。ラジアス様やみんながいるこの世界に来れたのは不幸中の幸いでした。何も持っていなかった私が与えられた魔力は厄介なものだし、これからも迷惑をかけてしまうかもしれません。それでも私はこれからもずっとラジアス様の隣にいたい。ここで笑って生きていきたいんです」
急に語りだした私をラジアスは何も言わずに見つめていた。
私が「いきなり変なこと言ってすみません」と言うと、ラジアスはきょろきょろと周りを見て誰もいないのを確認すると、私の腕を引き抱きしめた。
「俺の方こそお前が離れたいと言ってももう手放せそうにない。ハルカが月夜に元の世界を思い出して泣いているのを知っていても、ハルカではない他の誰かがここにいることを想像もできない。この世界に家族も友人もいる俺には本当の意味でハルカの気持ちを理解することは難しいだろう」
すまないと謝るラジアスに私は首を横に振る。
「だが、だからこそハルカには俺の前だけでも良いから本当の気持ちを言ってほしい。言っただろう?どんな時でもハルカの隣にいるのが俺でありたいと。なかなか弱音が吐けないことも知っているが、俺がお前の全てを受け止めるから。どんな時でも俺がお前の傍にいる」
ああ、まずい。
泣きそうだ。
私がラジアスの背に回した手にぎゅっと力を込めると、彼もまた同じように私を強く抱きしめ返した。
「今度お前の世界の話を聞かせてくれ。ハルカを育ててくれた家族の話も。大切な人たちを忘れる必要なんてない」
今度こそ私の涙腺は崩壊した。
ラジアスの言葉がこんなにも心に響くのは、きっと本気で私のことを想ってくれているからなのだと思う。
私の全てを受け止めてくれる人、一緒にいるだけで心を支えてくれる人。
こんな素敵な人はこの先現れることは無いだろう。
「ラジアス様、大好きです」
私がそう言えば「俺もだ」と返してくれるこの人を私の方こそ手放せないだろう。
「もっとこうしていたいが、残念ながら迎えが来たようだ」
心底残念そうに私を放したラジアスの視線の先にはダントンとユーリ、それに天竜がいた。
『ハルカー!遅いから迎えに来たぞ!』
「いやあ、邪魔するつもりはなかったんだが天竜様がハルカ嬢を迎えに行くと言ってね」
『遅い。ハルカのせいで私まで天竜に付き合わされるではないか。大体何故天竜は自分で歩かない』
「いや、私に言われても」
『ユーリに運んでもらう方が楽だからに決まっているではないか』
『・・・貴様』
「まあ、まあ。天竜こっちにおいで」
『うむ!』
ぴょんと肩に飛び乗る天竜。
天竜は毛玉の姿が楽らしく、アルベルグから戻ってきてからはずっとこの姿で生活している。
「では俺はこっちだから、また後でな」
「あ、はい」
「くれぐれも無理はするなよ。では魔導士長、私はこれで」
そう言ってラジアスは私の頭をくしゃっと撫でて行った。
「うーん、色気がだだ漏れだねえ」
「え?」
「いやいや、幸せそうで何よりだと思ってね」
「え?!」
『ハルカが幸せだと我も嬉しいぞ!』
『最近のラズは会ってもお前の話しかしない。どうにかしろ』
「ええ?!」
揶揄われながらみんなで歩いていく。
先ほどまでとまた違った幸せを感じる。
この半年間で本当にいろいろなことがあった。
今ある幸せが当たり前ではないと知った。
大切なものがたくさんできた。
初めは戸惑った自分の魔力も誰かの役に立てるなら嬉しく思える。
この魔力のおかげで特別な役目を与えられて花形職などと言われているらしいが、たとえそうでなかったとしてもみんなの私への態度はそこまで変わらなかっただろうと今なら思える。
みんな心優しい大切な人たちだ。
これから先も大切なものはどんどん増えていくだろう。
その一つ一つを大事にして、今ある幸せに感謝して。
私はこの世界で生きていく。
これにて完結とさせていただきます。
1年とちょっとお付き合いいただきありがとうございました。
こんなに長くなるとは私自身思ってもいませんでした。
初めて書いた作品だったので不安もありましたが、ブクマの数や感想をいただいたりと読んでくださる方がいるということがとても励みになりました。
今後は思いついたら番外編などを書ければと思っています。
最後まで読んでくださった皆様に少しでも「読んで良かった」「面白かった」と思っていただければ幸いです。
改めて、本作品を読んでいただき誠にありがとうございました!
気が向いたら感想などいただけると嬉しいです。
また別の作品でお会いできることを楽しみに、次も頑張りたいと思います。
めがねぐま




