91.それからとこれから
なんだか最終回のようなサブタイトルになってしまいましたが、まだ終わりません。
「駄目だ・・・ゆっくり話す時間が全然無い」
レンバックに帰ってきてから数日。
事件に関わったスイーズ伯爵家の処遇が決まった。
スイーズ伯爵家は爵位を剥奪の上取り潰しとなり、当主であるヘンリー・スイーズはアルベルグ王国にその身柄を移され、開発中の鉱山送りにされたそうだ。
何故アルベルグかと言うと、そもそもこのレンバック王国には死刑というものが無く、私もそれを望まなかった。
さてどうするか、となった時タイミングよくアルベルグから追加の書状が届く。
そこにはネイサン・リンデンの正式な処分内容が書かれており、公爵位の剥奪、国が管理する中で最も過酷な労働を強いられる鉱山での強制労働へ送られることが書いてあった。
詳しく聞けば、そこは罪人が送られる収容所のようなところで、そこに行くくらいなら死んだほうがましだと言われるような場所らしい。
そのことを告げられたヘンリー・スイーズは青褪め、震えながら叫んだという。
「ふざけるな!ふざけるなぁ!私を誰だと思っている?!私は貴族だぞ?!そんな平民の罪人に混ざって働けというのか?!」
私はスイーズ伯爵、いやヘンリー・スイーズに会ったことは無いが、それを聞いた時「ああ、やっぱりあのお嬢さんの親だな」と思った。
まあ今となっては彼自身も平民の罪人であるから周りは皆お仲間である。
そのことをいつ受け入れるかは分からないが、ネイサン・リンデンとヘンリー・スイーズが再び顔を合わせる日もそう遠くはないだろう。
その時どうなるかは私の知ったことではない。
次にスイーズ伯爵家の奥方と、娘のフィアラだが、二人にはヘンリー・スイーズの罪の詳しい内容は伏せられているらしい。
奥方は夫の爵位剥奪を聞くと「私はもうあの方とは無関係です。ああ、恐ろしい。離縁いたしますわ」と言って生家に戻ったそうだ。
初めは娘のフィアラも連れて戻るつもりだったそうだが、フィアラは直接事件に関わってはいないものの、私に対しての悪意がある危険分子として辺境の修道院へ送られることが決まった。
それを知った奥方は「貴女はもう私の子ではないわ。一体誰に似たのかしら。もうお母様などと呼ばないでちょうだい」とあっさり娘を捨てて行ったらしい。
これを聞いた時はさすがにフィアラのことを不憫に思った。
ただ、位が下の者を見下し、人に褒め称えられることが日常の彼女が修道院で慈善活動や質素倹約な生活を強いられ耐えられるのか甚だ不安ではあるが、あの苛烈な本性をもってすれば案外しぶとく生きていけそうだとも思う。
最後にスイーズ伯爵家で働く使用人たちについて。
執事の働きが事件解決の糸口になったということを聞いたので、もし会う機会があるのならお礼を言いたいと思っている。
スイーズ伯爵領は領主がいなくなってしまったわけだが、ヘンリー・スイーズには良いのか悪いのかフィアラ以外に血縁の者がいなかった。
そのため領地はしばらく国が管理することになったらしいのだが、新たな管理者を国が派遣するよりも執事のディアス・ギスがそのまま運営する方が合理的だろうということになったらしい。
何故それが合理的なのか初めは疑問だったが、今までも領主の代わりにほとんどのことを執事が執り行っていたと聞かされればそれも納得である。
会ったことがない人に対していうのもなんだが、ヘンリー・スイーズ本当に碌でもないなというのが素直な感想だ。
執事以外の使用人たちも何人かは屋敷の維持や領の運営のために残り、他の者は希望する働き口を紹介したり、他の貴族から引き抜かれたりしたらしい。
なんでもスイーズ伯爵家の使用人は領主と違って優秀である、というのは知る人ぞ知る話らしい。
そして私はというと。
「駄目だ・・・ゆっくり話す時間が全然無い」
いまだラジアスに自分の気持ちを告げられずにいる。
怖気づいたわけではなく、単純にバタバタと忙しいのが理由だ。
食事時など一日の中で一緒になる時間が無いわけではないが、前のように一緒に出掛けるとまではいかなくともきちんと場を整えて告白したい。
そう思っているのだが、帰ってきてからというもの誘拐事件の事後処理や、夜会の最終準備などに追われていてなかなかそれが難しい状況にあるのだ。
そう、夜会である。
あんなことがあったからすっかり忘れていたが、もう明後日には夜会があるのである。
何もこんな時にと思わないでもないが、すでに多くの貴族に招待状が送られており、今回の事件もそのほとんどの人たちは知らされていないので、特別な理由なく変更することは難しかった。
「あ、ハルカ。ちょうど良いところに」
私がもやもや考えながら書類を届け終え宿舎に戻るとジェシーから声を掛けられた。
「ジェシーさん。何かありましたか?」
「ハルカの夜会用の衣装の最終調整をしたいそうなのよ。王城に呼ばれているから時間があるなら行きたいのだけれど」
「大丈夫ですよ。あ、少し待ってもらって良いですか?」
「ええ」
私は自室の引き出しからラジアスにもらった髪飾りが入った箱を取り出した。
「お待たせしました」
「あら、それって」
「ラジアス様から貰った髪飾りです」
「まあ!ではそれの似合う髪型も考えないといけないわね。当日は私とミリアが着付けをするから任せてちょうだい」
「よろしくお願いします」
王城の部屋に着きドレスを見て私は息を飲んだ。
「すごい・・・キレイ」
中で待っていたメイドが広げてみせてくれたのは濃紺のビスチェタイプのプリンセスラインドレスだった。
ウエストの切り替え部分は光沢のあるアッシュベージュの幅広なリボンがあり、スカートの部分は濃紺の生地の上に光沢のある糸で刺繍が施されたブルーグレーのオーガンジーが重ねられているものだった。
「衣装は陛下が用意してくださったんですよね?」
「そうでございます」
私はこそっとジェシーさんに耳打ちする。
「この色って・・・なんかいろいろバレてますかね?」
「ふふ!どうかしら?でも、素敵ね!」
「はい!」
こそこそ話す私たちにメイドは不思議そうにしながらも「上品なお色でございますね。ハルカ様にきっとよくお似合いになりますわ」と言ってくれた。
濃紺は騎士団第二部隊の正装の色、リボンはラジアスの髪の色。
そういえばエスコート役をラジアスに決めたのも陛下だった。
あの頃から陛下には全てお見通しだったのかと思うと、恥ずかしさもあるが今は感謝するべきだろう。
試着をしている間に遅れてきたミリアも加わり、髪型をああしようかこうしようかと楽しみながら考えた。
その最中に取り出した髪飾りを「まあ、素敵な髪飾りですね」とメイドが言うとジェシーが「第二部隊の副隊長様からの贈り物なんです」と答えた。
「ちょっと、ジェシーさん!」
「なあに?嘘は言っていないわよ?」
「もうジェシーったら」
「え?あら?・・・あらあら!まあまあ!そう言うことでしたのね。だからあの色!まあ陛下ったら気が利きますこと!」
急にメイドのテンションが上がった。
どこの世界でも恋バナは女性の大好物らしい。
「お二人がそんな関係だなんて私存じ上げませんでしたわ。ああ、でもハルカ様とご一緒にいられることが多いですものね。ここ最近ガンテルグ様の浮いたお話を耳にしなかったのも納得ですわ」
「いえ、あの・・」
「そう思いますでしょ?でも違いますのよ」
「お付き合いしているわけではありませんの」
「え?でもこの髪飾りの石の色・・・ええ?何も無いなんてことございますの?」
「貴女もそう思います?もうここはハルカの方から行くべきだと私たちは思っていますの!」
「ということはハルカ様は・・・。まあまあ!そうですわ!昨今女性の方から想いを告げても何の問題も無いですもの!」
「いや、だから・・・・」
「それならば夜会なんて丁度良いではありませんか。美しく着飾った姿で騎士様に思いを告げる・・・ロマンチックですわー」
「ですから私たちも気合が入っておりますの」
「そうですわね!私も協力を惜しみませんわ!」
「あのっ!!」
当事者の私を置き去りにして女性陣の盛り上がりが止まらない。
何という恥ずかしさ。
というか、ジェシーとミリアはなぜ勝手に私の気持ちをばらしているのか。
きっと私の顔は赤くなっていることだろう。
「あの、もうそこらへんで勘弁してください・・・」
「あら、ごめんなさい」
「主役はハルカだったわね」
「申し訳ありません。私この手の話が大好きでして、つい。でも絶対口外はしませんからご安心くださいませ」
「お願いします」
赤くなって俯く私の頬をミリアがむにっと持ち上げた。
「でもハルカ。本当に夜会は良いチャンスよ?貴女想いを伝えたいって言っていたでしょう?」
「それは、まあ、はい」
「いいこと?お化粧にドレスは女性の戦闘服よ。いつもよりも可愛らしくなって自分に自信を与えてくれるわ」
「そうそう。それに雰囲気も大事だもの」
「・・・夜会って途中で抜けられたりしますか?」
「そうですね。今度の夜会はハルカ様が主役のようなものですから完全に抜けるということは出来ませんけれど、途中で休憩のために会場の外に出ることは可能ですわ」
(そっか。抜け出すことも出来るんだ。これ着たらちゃんと女として見てもらえるかな)
立ち上がり姿見に映った自分を見る。
普段よりも格段に女性らしく見えるし、大人っぽくも見える。
ラジアスの隣に並んでも笑われることは無い、と思う。
こんな格好を出来る機会ももう無いかもしれない。
(よしっ!)
「私、頑張ります!」
ジェシーたちを見て私は言った。
ブクマ&評価&感想などありがとうございます。
なかなか恋愛タグの回収が進みませんが、ここから頑張りますよー!




