84.脱出
やっとこさここまで来ましたよー!
※相変わらず変態さんが気持ち悪いので苦手な方はご注意ください。
すぐさま体勢を整えるが左頬はじんじんと傷み、じわじわと熱を帯びてくる。
口の中にはかすかに血の味が広がった。
私は打たれた左頬を押さえリンデン卿を睨みつけた。
「ああ、思ったよりも力が入ってしまったようだ。女性にする仕打ちではなかったね。すまない」
リンデン卿は私を殴ったのが嘘のように優し気な笑みを浮かべていた。
その笑みが今は何よりも恐ろしく感じる。
「でも君が悪いんだよ?私に嘘をついたりするから。聖獣とはずいぶん仲が良さそうじゃないか。しかもまだ帰れるだなんて期待したりするなんてね」
リンデン卿はゆっくりとベッドに近づいてくる。
私は堪らず魔法で盾を張った。
しかしその盾はリンデン卿が私に触れようとした瞬間あっけなく消え去った。
「言っただろう?私に魔法は効かないって。・・・主人に楯突くとは、やはり君は悪い子だ」
リンデン卿は私の上に馬乗りになると自分の首からタイを解き、私の両手を頭上で縛り上げた。
抜け出そうともがいても予想以上に強い力に押さえつけられる。
「そんなに無理に暴れたら手に傷がついてしまうから止めなさい。女性なのだから傷が残るのは嫌だろう?」
「うる、っさい!そう思うならこれ取ってよ!」
ジタバタと暴れて悪態をつく私の頬をリンデン卿はゆっくりと撫で上げる。
「情緒が無いねえ。これから何をされるのか分かっている?」
「何って・・・まさか、止めてよ!」
「ベッドの上で男女が二人きり・・・この状況でやることなんて決まっているだろう?」
リンデン卿はうっそりと笑いながら私の着ているワンピースの胸下まであるボタンをひとつずつ外していく。
「いや、やだ!止めて!どいてよ、この変態!!」
「だって仕方が無いだろう?君はまだ帰れるなんて思っているんだから。でも純潔を奪えばもうそんな気にはならないはずさ。穢れた身体で君はあの騎士の元へ戻れるのかな?騎士は君をどんな目で見るのだろうね。同情、憐み、軽蔑、拒絶。異世界から来た君は周りの者たちのこの視線に耐えられるだろうか?無理だろう?そんな君を受け入れることが出来るのは私だけだ。君はここに、私の元にずっと居れば良いんだよ」
リンデン卿は最後のボタンを外し終え、はだけた胸元に手を滑り込ませた。
「やだ、やだーっ!!お願い、止めて!止めてよっ・・・」
私はもう限界だった。
恐怖と気持ち悪さでぎゅっと閉じた目から涙が零れる。
(嫌だ、怖い!助けて・・・ラジアス様、ラジアス様っ!!)
「ラジアス様、助けてっ・・・」
その瞬間、枕元から飛び出した何かが、私を押さえつけ胸元に唇を寄せていたリンデン卿の顔面をドンッと弾いた。
そしてそのままリンデン卿は後ろに倒れた。
リンデン卿にぶつかっていったのは隠れていた天竜だった。
『悪いがハルカよ、我はもう我慢の限界だ』
天竜は私の手を拘束していたタイを喰い千切ると毛玉から手乗りサイズに変化し、弾かれて床に転がったリンデン卿を見下ろした。
『控えろ。この外道が。貴様のような奴が我の友に触るなど許さぬ』
話しながらも天竜はその姿を徐々に大きく変化させていく。その姿は私が今まで見た天竜の中でも一番大きなものになっていた。
「・・・何だ?何なのだ!?どこから入ってきた!いや、それよりもその姿は・・・っ!」
呆然としていたリンデン卿が天竜を見て叫ぶ。
その顔からは先ほどまでの歪んだ笑みが消え去っていた。
『たわけが。我はずっとハルカと共にいた。貴様の悍ましい言動も全て知っておるわ』
成長した天竜の声は低く、内臓に響くように空気を震わせる。
天竜は背後に隠した私に向き直ると腕で抱きしめるように私を囲んで私にしか聞こえないように言った。
『大丈夫だ。ここを破壊するくらいなら問題無いだろう。たとえレンバックへ戻れなくともあの者たちがこの国に来ているならきっと気付くはずだ』
リンデン卿から解放されて安堵し、天竜の腕の中でボロボロと泣いた。
「うん、うんっ」
『もう泣くな。我の腕にしっかり掴まっていろ。今からさらに成体に近づける』
天竜は言葉通りさらに身体を大きくさせていく。
ついには天井に頭が届くようになりミシミシと天井を押し上げ始めた。
「止めろ!止めないか!何をしている!?まさか逃げる気か?!ならん!ならんぞ!それは私のものだ!!」
『・・・・うるさい奴だ。ハルカ、少し耳を塞いでおれ』
天竜に言われ直ぐに耳を塞ぐ。すると押さえた手の向こうから『グゥアッ!!!』という音と全身をビリビリと刺す衝撃、そしてドンッという大きな音が聞こえた。
「うぐっ!」
大きな音はリンデン卿が壁に叩きつけられた音だったようだ。
リンデン卿に魔法は通用しないはず。ということは今のは天竜の咆哮の衝撃波なのか。
ズルズルと壁を背に滑り落ちるリンデン卿は胸を押さえてゴホゴホと咳き込んでいた。
「何事ですかっ!」
その時部屋の扉が勢いよく開けられた。
入ってきたのは今朝見た茶色いローブを被った男、が二人。
男たちはすぐにリンデン卿と天竜に気付いた。
「大丈夫ですか?!」
「あれは一体。まさか竜・・・?」
「あれが何者かなど今はどうでも良い!彼女を連れて逃げる気だ。多少傷が付いても構わん!絶対に逃がすな!」
「「御意!」」
男たちはこちらに向けて攻撃魔法を放つ。
身体が大きくなってもまだ成体でない天竜はその攻撃に痛みを感じ顔を顰める。
『っ!煩わしい者共が。我の邪魔をするな』
「――ッガ!」
一振り。
天竜が尾を一振りするとローブの男たちは軽々と吹っ飛ばされた。
その攻撃の反動でついに壁にも亀裂が入る。天井も崩れ始めた。
『む、ここは地下であったか。ハルカよ、欠片が飛ぶだろうが少しの辛抱だ』
「止めろ!止めてくれ!行かないでくれ!」
『お前はハルカが止めろと言っても止めなかった』
(駄目だ、止めてくれ。このまま外に出られたら―――)
外には国王ニコラスがつけた見張りの兵がどこかに潜んでいるはずだ。
こんな巨大な生き物を見られたらリンデン公爵は終わりだろう。
どうにかして止めなければと思うが落ちてきた天井と身体の痛みで動くことが出来ない。
頼みのお抱え魔術師たちも先ほどの天竜の攻撃を受けまともに動けずにいる。
その間にも天竜は部屋を破壊し―――ついに外への道が開けた。
『ああ、やっと外に出たな』
天竜の言葉に閉じていた瞼を開ければ、目に飛び込んできたのは星空と優しい月明かり、そして月夜に白く輝く天竜だった。
「でら、れた―――外に出られた!」
サラサラと頬を撫でる夜の涼やかな風が外に出られたということを実感させた。
ブクマ&評価&感想、誤字報告などありがとうございます。
聖獣はアルベルグ王国ではそりゃあもう恐ろしい存在として語り継がれているので、リンデン卿の心境としては以下の通り。
聖獣本当にいるのか?!
↓
そんなに関わりないのか、あー良かった。
↓
え?聖獣が来てる?!流民が友??
↓
聞いてないぞ!嘘だよね?嘘だと言って!
・・・騙しやがってこんにゃろー!
みたいな精神状態です。
「ハルカは自分が喚んだのだから、最後は自分に従順になってくれるはず」という謎の信頼がありました。
本当に謎。




