83.ユーリの思いとリンデンの隠した狂気
本日二つ目です。
82話を読んでいない方はそちらからどうぞ。
リンデン公爵との話し合いの後、国王はラジアスに滞在の為の部屋を用意した。
そこは使用していなかった兵舎の一角で、ラジアスと、この後到着するアランたち全員の滞在場所として整えてくれた。
「本来なら客室を用意するのだが、聖獣様も近くにいられた方が良いだろう」という国王の気遣いだった。
とは言っても、アルベルグの他の兵舎に囲まれているこの場所は、ラジアスたちレンバックの者を見張るという意味合いもあるのだろう。
兵舎に案内される前にユーリを迎えに行き、一緒に向かった。
ユーリは兵舎の外、ラジアスは部屋の中の窓際のベッドに腰を掛け、窓枠を挟んで話し始める。
『何か分かったか?』
「・・・さっそくネイサン・リンデン公爵とやらと話をさせてもらった」
正直ここまで早く疑惑の人物に会わせてもらえるとは思っていなかったので、国王のニコラスが話の分かる人物で良かったと思う。
「ただ、よく分からないんだ」
『分からない?』
「ああ。自分が疑われているというのに焦りもしなければ怒りもしない。妙な余裕がある」
『それはその者がハルカを攫った人物ではないということか?』
ラジアスはユーリの問いに少し考えて返す。
「・・・どうだろうか。関わっていないということからくる余裕なのか、想定の範囲内だから落ち着いているのか。さすがに屋敷を調べても構わないと言われた時は驚いた」
昨日レンバックを出た宝石商が屋敷を訪れたことまで認めたリンデン公爵。
例の宝石商がハルカを連れていたとすれば、通常寄り道などせずに目的地まで急ぐだろう。
「リンデン公爵は無実を主張しているが、俺はどうにも怪しく思えてならない。いつ自分の元に捜索の手が伸びても良いように準備を終えていたようにも思える」
協力的と言えばその通りだが、何かが引っ掛かるのだ。
「まあ俺がそう思うというだけだがな。この後隊長たちとも相談するが、おそらく明日以降でリンデン公爵の屋敷を調べさせてもらうことになると思う。ユーリも一緒に来てくれ」
『ふん、当たり前だろう。そのために態々こんな所まで来てやったのだ。私は手ぶらで帰る気は無いぞ』
「よろしく頼む。そうだ。国王たちとの話の中でユーリがハルカのことを友のように思っていると言っておいた。この国でハルカに何かあったら聖獣も黙っていないと」
『・・・何を勝手なことを。誰が友か。せいぜい子分が良いとこだろう。ただ、私は庇護下にあるものを傷つけられたら黙ってはいないのは間違いではないがな』
フン、と鼻を鳴らすユーリを見て素直じゃないなとラジアスは思う。
ユーリはあっさりハルカのことを自分の庇護下にある存在だと認めたのだ。それがどれほどすごいことなのか、もともとそこまで人間に興味を抱かないユーリにはどうでも良いことなのだろう。
ハルカにしても、子分よりは友人が良いなどと言いそうだと想像し思わず笑みが漏れた。
『何がおかしい』
「いや、ハルカなら子分ではなく友人が良いと言いそうだと思ってな」
『ふん。ラズといい、ハルカといい人間の分際で馴れ馴れしい』
「そりゃあ、俺はユーリのことを友だと思っているからな」
(待っていろ、ハルカ。俺たちが必ず見つけてみせる)
窓枠越しにユーリの頭をわしゃわしゃと撫でると嫌そうに『止めろ』というが、ユーリの尻尾はゆらゆらと揺れていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ハルカ、誰か来る』
天竜が光珠を作る私に声を掛けた。
急いで作成を止めて本を読むふりをする。
さすがにずっと寝ているというのも無理があるかと思い部屋を物色したところ、本棚にレンバックで読んだことのある本があった。
これなら万が一内容を聞かれたとしても答えることが出来るのでカモフラージュにはもってこいだ。
「わかった。いつもみたいに隠れててね。絶対出てきちゃダメだよ」
天竜にそう言って視線を本に移した。
そうして準備を終えたところに入ってきたのはリンデン卿だった。
「こんばんは。朝ぶりですね・・・どこかお出掛けだったんですか?」
なるべく友好的に話しつつ探りを入れることも忘れない。
「ああ、ちょっとね」
そう答えるリンデン卿の顔色はどこか優れないように思えた。
「何かありましたか?」
「・・・何故そう思うんだい?」
「顔色が優れないようにお見受けしたので。違っていたならすみません」
「いや、君は出会って少ししか経っていないのに私のことをよく見ているんだね」
それはまあ。
脱出の糸口を掴めないかと必死ですからね、とは言えない。
「君は今朝、聖獣にとって自分の存在など取るに足らない小娘だと言ったね?」
「え?ええ、まあそのようなことを言ったかと思います」
「本当に?間違いなくそうだと言えるかい?」
リンデン卿はじっと私の目を見て私に問う。
「本当は違うのではないか?主従契約など結ばなくとも聖獣は君を大切に思っているのではないか?」
「え?あの、リンデン卿?なぜ急にそんなことを?」
なぜ急にこんなことを言い出したのだろう。
今朝までユーリの存在すら確信を持っていなかった人が何故。
そこで私の頭にある考えが浮かんでハッとした。
もしかして―――。
「もしかして、来てるんですか?!ユーリがこの国に・・・来てる?」
私は目の前にリンデン卿がいることも忘れてそう叫んだ。
ユーリが来ている。
私を探してくれている、おそらくラジアスも。
その考えに思わず涙ぐみ、手を握りしめた。
天竜も一緒にいてくれて、助けが来なくても自分で何とか逃げようと思っていたけれど、やはり不安は消えなかった。
自分を探してくれているというだけで、見捨てられていないと思えるだけで、こんなにも心強い。
けれど、この私の言葉はリンデン卿の何かに触れてしまった。
「・・・聖獣の名はユーリというのか。やはり、やはりそうなのか!君は私を騙したのだな?!」
「っ!」
リンデン卿は私の肩をグッと掴んだ。
「君の想像通りさ。今この国に聖獣と若い騎士が一人来ている。ガンテルグと言ったかな」
(ラジアス様!やっぱり、やっぱり来てくれたんだ!)
乱暴に掴まれた肩の痛みと、ラジアスが来てくれたという嬉しさから涙が出そうになる。
私のその表情を見たリンデン卿は歪んだ笑みを浮かべた。
「そんなにあの騎士が来てくれたのが嬉しいかい?・・・でも残念だねえ。せっかく来たのに君に会えずに帰るのだから」
「そんなことない!ラジアス様とユーリはきっと助けに来てくれる!あんたの思い通りになんかならない!」
私はここに来て初めて大声で叫んだ。
しかしリンデン卿は全く引く様子はない。
それどころか私の頬に向かって手を伸ばしてきてこう言った。
「おお、怖い怖い。それならば万が一助けに来ても帰りたくないと思えるようにしてあげなければいけないね」
―――ゾワッ
頬を撫で上げられ全身に寒気が走った。
あまりの気持ち悪さに身体が動かせない。
「な、なにを」
「悪い子にはお仕置きが必要だろう?」
何とか動かした手でリンデン卿から離れようとしたその瞬間、頬に痛みが走った。
リンデン卿が私を平手で殴ったのだ。
それに気が付いたのは殴られた勢いでベッドに転がった時だった。
読んでいただきありがとうございます。
そしてブクマ&評価&感想などありがとうございます!
おかげ様で久々の1日で2話投稿がかないました(^▽^)
リンデン卿何しとんじゃーいヽ(`□´#)ノってところで終わってしまったので、次も出来るだけ早く上げたいと思います。




