79.いざアルベルグへ
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やっとヒーローが動き出しました。
ラジアスとユーリは森の中を駆け抜けていた。
本来ならスイーズ伯爵領にある街道を使用するのが隣国アルベルグへ向かう唯一にして最短のルートなのだが、そんなことはこの森の主と言っても過言ではない聖獣ユーリティウスベルティには関係が無い。
勝手知ったる自分の庭だ。
生い茂る木々の間を縫うようにして道無き道をハイスピードで進んでいく。
ラジアスはそんなユーリの背中に跨り、振り落とされぬよう身を低く屈めていた。
「おいユーリ!お前アルベルグの王城がどこにあるのか分かっているのか?」
風を切る音にかき消されないよう、ラジアスが大声でユーリに確認する。
『知っているに決まっているだろうが。あっちの方だ』
ユーリが鼻先で示した方角で間違いはない。間違いは無いのだが。
「方角は合っているが細かい場所は!?」
『知るか。お前が分かっていればそれで良いだろうが』
「お前・・・」
つまりは知らないらしい。
森を抜ければそこはもうアルベルグだ。
いくら王城よりも高い建物などそうそう無いとは言っても、森から王城まではほどほどの距離がある。
ラジアスは心の中で「まさかとは思ったが一応確認しておいて良かった」と思いながらユーリに言った。
「なら森を抜けたらそこからは俺が言う方向に進んでくれ!」
『わかっている』
ユーリは短く答えるとさらにスピードを上げた。
そうして馬では7~8時間かかるような距離を僅か2時間弱でアルベルグの王都までやってきた。
アルベルグに入ってからは普通の道を行けば驚かれ、騒ぎになることは必至なうえ、そもそもスピードが出せない。
その為ラジアスとユーリは建物の屋根伝いにスピードを落とさないまま進んで行った。
アルベルグの王城に近づくにつれ、街は賑わい人も多くなったが、おそらく人々が屋根の上にいる彼らを見たところで目撃した次の瞬間にはそこから消えているのだから見間違いかと思うだろう。
そして二人はその勢いのままアルベルグの城門前に降り立った。
文字通り空から降ってきたような二人にアルベルグの門番はさぞかし驚いたことだろう。
しかし彼らとて素人ではない。
直ぐに警笛を鳴らし、その音で集まった兵がラジアスたちと対峙していた。
見知らぬ男と見たことのない大きな狼。警戒して然るべきだろう。
先に口を開いたのは相手方の兵だった。
「止まれ!貴殿らはいったい何者か?用件は何だ?」
その問いにラジアスが答える。
「騒がせて申し訳ない。私はレンバック王国王立騎士団第二部隊所属のラジアス・ガンテルグ。隣は聖獣である。レンバック国王より命を受け参った。急を要する案件により事前に知らせをしない無礼を承知で至急アルベルグ王国国王陛下に御目通り願いたい」
ラジアスの言葉に周りが一気にざわついた。
「聖獣?!」「あれが聖獣なのか?!」「本当に存在していたのか・・・」「たしかに、あのような巨大な狼など見たことがない」「なぜ聖獣が」
初めて聖獣を目にした彼らは、まずその存在に驚き、次にその大きさに驚いた。
そして圧倒的な強者の風格に慄き、恐怖した。
「き、貴殿らの身分を証明する物、もしくは貴国の王からの正式な用件だと示す物はお持ちか?」
「これを」
ラジアスは国王から預かった書状入りの木筒を取り出し、門番に手渡した。
「これは・・・たしかにレンバック王国の」
「その中には我が王からアルベルグ国王への書状が入っている。中を検めてもらって構わない」
「わかった。至急確認をとる。貴殿らはしばしここで待たれよ」
兵の一人が木筒を手に城の中へと慌てた様子で走って行った。
30分くらい経っただろうか。
やっと先ほど確認に向かった兵がもう一人連れだって戻ってきた。
やっと、と言っても先触れも無い急な訪問にも拘らず、一国の王へと謁見を願った者への対応としては異例の速さと言っても良いだろう。
ラジアスにもそれは十分理解出来ているが、少しでも早くハルカの救出をと思う心情がそう思わせていた。
「お待たせしました!私はこの国の宰相を務めておりますマルクス・ジルベットと申します。国王がお会いになるそうです。ご案内します」
「こちらは我が国の聖獣、私はラジアス・ガンテルグと申します。国王陛下のご厚情に深く御礼申し上げます」
「こちらが、あの・・・!」
ジルベットはユーリの姿をまじまじと見ると急にはっとしたように姿勢を正した。
「失礼いたしました。まさか本物の聖獣様を目にする日が来るとは・・・いえ、そんな場合ではないですね。ではこちらへ・・・あっ」
ジルベットは再び視線をユーリへ向け、それからラジアスを見る。
「ガンテルグ様をお連れするのは問題無いのですが、聖獣様はいかがいたしましょう?城内に入れないこともないのですが」
「どうする、ユーリ?」
『狭いところは好きではないから私は外で良い。門の内側にだけ入れさせろ』
「それはもちろん、はい」
しかし何か気になることがあるのかジルベットはまだユーリを気にしていた。
『なんだ?』
「いえ、その」
ジルベットのどこか聞きづらそうな様子にユーリはああと、何かに気付いた。
『心配しなくとも私は人を襲ったりはしない。そこらの獣と一緒にするな』
「も、申し訳ございません」
『ふん、まあいい。さっさと行け』
「ユーリ・・・。申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ失礼いたしました。では参りましょう」
「行ってくる」と言うラジアスにユーリがラジアスにしか聞こえない小さな声で『おかしな動きをしないかどうか外で見張っておいてやる』と声を掛けた。
ラジアスはそれに頷いて返すと、ジルベットと共に王城へと入って行った。
アルベルグの兵たちの会話
「あれが聖獣か・・・すごかったな」
「ああ、俺腰が引けちゃったよ。お前よく平気だったな」
「・・・恐ろしくて動けなかっただけだ」
「私もだ。魔力云々の前に大きさだけでも恐ろしい」
「昔の人はよくあのようなものと戦争などしたものだな」
「今が平和で良かったな」
「「まったくだ」」
ユーリの印象が強すぎてラジアスに対する感想は無し(笑)
一応ヒーローなんですよ!




