75.認めた罪
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やっと認めてくれました。
ああ、長かった。
「流民の拉致の手引きをしました・・・」
ようやく罪を認めたスイーズ伯爵であったが、その心の奥には未だ自分は悪くないという感情が残っていた。
「しかし!私が立てた計画ではないのです!私は脅されただけなのですっ!」
そうしてスイーズ伯爵は事に及んだ経緯を話し始めた。
手紙を受け取り、話だけ聞きに行ったこと。
手紙の中の高貴な方というのは中年の男で、名をネイサン・リンデンと言い、アルベルグの公爵と名乗ったこと。
そもそも流民はリンデン公爵が魔術師を使い異世界から呼んだらしいということ。
リンデン公爵はハルカを殺すつもりはなくただ囲うと言っていたこと。
今回の計画は全てリンデン公爵の指示で行ったこと。
最初はもちろん断るつもりだったが、流民が手に入らなければ娘のフィアラを拐かすと脅され仕方なく従ったこと。
スイーズ伯爵は頭を床にこすりつけるように平伏し、仕方がなかった、自分の意志ではなかったと何度も口にした。
そんなスイーズ伯爵を見下ろしながら、国王は傍にいたダントンに問う。
「・・・別の世界から人を連れてくるなど出来るものなのか?」
「古の魔術師が試みたということは聞いたことがありますが・・・実際に成功したという話は聞いたことが無いですし、それは禁術となっているはずです。少なくとも私は出来ないし、しようとも思いません。真っ当な魔術ではないでしょう」
ダントンはその問いに顔を顰めて答えた。
「そうか」
国王は短く答えるとスイーズ伯爵に顔を上げるように言った。
「陛下、どうかお許しを・・・!私はやりたくなかったのです!ですが、最愛の娘を盾にされ仕方なく・・・!」
「それはお前の本心か?」
「もちろんでございます!」
「本当にそうか?お前はハルカ嬢がいなくなれば好都合だと思ったのではないか?」
「そんな、そんなことはございませんっ!」
「ではお前は娘を盾に取られれば国王である私でも殺すのか?」
「違う、違います!少なくとも私は国を裏切るつもりなど毛頭ありません!脅されて、仕方なく!」
「ならばお前はそのリンデン公爵とやらから何も報酬は得ていないのだな?」
「いえっ、それは・・・もちろん!」
国王は視線をスイーズ伯爵家の執事であるディアスに向ける。
「どうだ、ディアス・ギス。知っていることがあれば話せ」
「はっ。宝石商の男と出掛けられた後、旦那様の私財は増えております」
「な、何を!嘘を吐くな!何故そんなことがお前に分かる!?」
「旦那様こそいい加減になさいませ。誰がスイーズ伯爵家の財を管理しているとお思いですか。それに奥様達の買い物を止めることも無くなったのも同じ頃からではないですか」
「う、うるさい!黙れ黙れっ!」
「黙るのはお前だ、スイーズ伯爵」
国王が一際鋭い声でスイーズ伯爵を黙らせる。
「違うと言うならば何故この手紙の主に会いに行った。何故受け取った時点で国に報告を上げなかった。その後もいくらでも引き返す時間はあったはずだ。それをしなかったのはスイーズ伯爵、お前がハルカ嬢の存在を邪魔に思っていたからだろうが!」
「私は・・私は・・・お許しを、お許しを!」
「もう良い。もうお前に聞くことは何もない。おい、これを牢に放り込んでおけ!」
スイーズ伯爵は引きずられるようにして謁見の間から連れて行かれた。
その間もずっと「お待ちください!私は脅されただけなのです!お許しを!」と叫んでいたがその声に耳を貸すものはここには誰もいなかった。
「ディアス・ギス。他に家の者が関わっている可能性はあるか?」
「いえ。・・・お嬢様がきっかけになったということはあるかもしれませんが、直接的に関わったということは無いと思います」
「そうか。この手紙はとても役に立った。お前はもう下がって良い」
ディアスは来た時と同様、深々と礼をとって部屋から出て行った。
そしてディアスが出て行くと国王は椅子に深く座り直し深い溜息をついた。
「しかしあれの言ったことが本当ならこれは大事だぞ。リンデン公爵と言えばアルベルグの現王の王弟だったはずだ」
「それは・・・・国絡みで流民であるハルカ嬢を誘拐したということですか?」
「わからん。ただ、アルベルグの国王とは何度か話をしたことがあるが、質実剛健な気質で無用な争いは好まない男で、互いに何かあれば協力し合おうと言うような男なんだ。王弟であるリンデン公爵はその国王の右腕と呼ばれる人間だ」
はたしてその様な人物が争いの種となるようなことをするだろうか。
国王は疑問に思いつつも話を続ける。
「しかし、彼の名を騙っただけかも知れないが今のところ手掛かりはリンデン公爵だけだ。アルベルグに赴き、リンデン公爵と話をさせてもらう他無いだろうな」
連れ去られたハルカのことを考えるなら、それはなるべく早い方が良い。
通常ならまず使者を送り約束を取り付けるところだが、今はその時間すら惜しい。
「ガンテルグ」
「はい」
「別室で待機している第二部隊長のフォードを呼んで来い。その間ダントンは念のためもう一度ハルカ嬢の魔力探索を行え」
「はい」
「その後皆を集めて今後の話をする」
「はっ!ではすぐに隊長を連れて戻ります」
ラジアスは一礼して急ぎ足で謁見の間から出て行った。
そしてダントンは再度ハルカの魔力探索を行ったがやはり結果は同じで見つけることは出来なかった。
「やはり・・・」
「そう落ち込むな。あくまでも念のためだ」
そして、少しの時間をおいてラジアスがアランを連れ立って戻ってきた。
「第二部隊副隊長ラジアス・ガンテルグ戻りました」
「第二部隊長アラン・フォード参りました」
「フォード準備はどうだ?」
「はっ!いつでも動けます」
アランは国王に命じられていつでも隊を動かせるように準備を進めていた。
「そうか。ではまずお前がまだ聞いていない情報から話す。やはりスイーズ伯爵はハルカ嬢の拉致に関わっていた。そしてハルカ嬢の拉致を指示したのはアルベルグのリンデン公爵であると吐いた。ハルカ嬢もすでにアルベルグにいる可能性が高い」
「それは・・・またなかなか厄介ですね」
「ああ。しかし私は国絡みでの犯行の可能性は低いと考えているが、他国で勝手に動き回るわけにはいかないからアルベルグに協力を仰ごうと思う。協力を仰ぐ内容を認めた書状を第二部隊に直接アルベルグの国王の元に届けてそのまま捜査に入ってほしい」
「アルベルグ側は応じるでしょうか?」
「おそらく応じるはずだ。国王の右腕の名が怪しい人物として挙がっているのだ。たとえ虚偽かもしれなくとも応じなければ逆に疑いを強くするからな。疑いの商人がアルベルグに向かったという事実もある。少なくとも話を聞く場くらいは用意してくれるだろう」
「かしこまりました。では全ての準備が整い次第アルベルグに向かいます」
「頼んだぞ」
「っは!」
ここで今まで黙って会話を聞いていたラジアスが声を発した。
「陛下」
「どうした、ガンテルグ」
「書状を届ける役目、第二部隊ではなく私に任せてはいただけませんか?」
「どういうことだ?」
「ハルカ嬢が攫われてからすでに丸一日が経とうとしています。少しでも早く居場所を見つけたい」
「わかっている。だからこそ通常使者を出すところをお前たちに直接行くよう言っているのだ」
「ですが馬ではアルベルグの王城に着くまで時間が掛かりますし、そこから話を始めてはさらに遅くなります。しかし私ならもっと早く行くことが出来る。聖獣であるユーリが協力してくれるならば」
ラジアスは国王の横にいるユーリに視線をやる。
それに釣られて謁見の間にいた全員がユーリに目を向けるとユーリは深く息を吐いた。
「行ってくれるか?」
国王の問いにユーリは答える。
『・・・まあ協力してやらんこともない。ハルカから魔力を貰えなくなるのは私としても惜しいからな』
「ユーリ・・・恩に着る」
すかさずラジアスが礼を口にするとユーリは少しばつが悪そうに顔をそむけた。
『ふん。ハルカの身を案じているのはラズ、お前だけではない』
つい今しがた渋々協力するような言い方をしたユーリだが、本心ではそれなりにハルカの身を案じていた。
長い時を生きる聖獣だが、その聖獣を畏れず気さくに接してくれる者にはなかなか会うことが無い。
今でもハルカ、ラジアス、国王くらいしかいないのだ。
しかもハルカは美味しい魔力まで分けてくれるし、時々森に会いに来ては話をして帰っていく。
くだらない話だと馬鹿にしながらも、日々の変化の無い生活の中では貴重な一時だった。
だからこそユーリも犯人を野放しにする気は無かった。
次回はまだラジアスたちの話。
主人公がなかなか出てきません。
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