73.筆頭執事の隠しもの
ブクマ&評価&感想などありがとうございます。
前回あまりにも話が進まなかったので早く上げられるように頑張りました。
でもやはりあまり進みません・・・。
そして現在、その優秀な使用人をまとめ上げるスイーズ伯爵家筆頭執事のディアスが謁見の間に通されていた。
なぜ彼がここにいるのかと言うと、時は数時間前に遡る。
スイーズ伯爵邸から伯爵が連行される様子をじっと見ていたのは他でもない、このディアスだった。
伯爵の後ろ姿を見送りながら彼はこう思った。
(ああ、馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが・・・ついに取り返しのつかない何かをしたのか。嫌な予感が当たってしまった)
ここのところ伯爵はどこか様子がおかしかった。
今日も見覚えの無い者を引き連れて王城へと出掛けて行き、顔色を悪くして屋敷に戻ってきた。
この時いつになく嫌な予感がしたのは間違いではなかったらしい。
屋敷の者全員が集められた部屋で思考を巡らせていると、この屋敷の主たちがきいきいと文句を口にしていた。
「なぜ私たちが使用人と一緒にこんなところに押し込められなくてはいけないの?」
「夜更かしは美容に悪いというのに・・・あの野蛮な方たちはいつまでここにいるおつもりかしら」
(旦那様だけでなく、奥様もお嬢様も・・・本当にどうしようもない人たちだ。貴族の通う学校というのは一体何を学ぶところなのか。王立騎士団の方々に協力するのは国民の義務だろうに。そうでなくとも先ほど“王命”という言葉が出た時点でこれはただ事ではないはずだ)
「お母様、私もう疲れましたわ。先ほどラジアス様に言われたこと・・・まだ信じられませんの。私たちは婚約したのではなかったの?」
「そうよね。お母様もそう思っていたのよ。お父様が帰られたらお話を伺いましょうね」
本当に状況が分かっていない、というより理解しようともしない。
そんな二人に部屋に入ってきた第三部隊長のオーランドが声を掛けた。
「なあ、お嬢さん」
「・・・」
無視である。
さすがにこれはいけないとディアスは割って入った。
「申し訳ございません、隊長様。・・・お嬢様?お疲れだとは思いますが」
「・・・あの様な下品な呼ばれ方には答えたくないわ」
下品、どこが。
「お嬢さんだなんて、私は平民ではないわ!伯爵家の娘なのよ?!」
オーランドは一番近くにいたディアスでさえ聞こえるか聞こえないかの声で「・・・チッ、めんどくせえなぁ」と呟いたがすぐに気持ちを切り替えた。
「申し訳なかった。フィアラ嬢、少し話を伺っても?」
「・・・何かしら?」
機嫌は悪そうだが今度はきちんと返ってきた。
「フィアラ嬢は流民と面識があるのですか?」
「あるもなにも!あの娘はいつも私に心無い言葉を投げつけてくるのです!この間だって・・・」
フィアラは大きい目を潤ませて訴えかけるように話す。
「ラジアス様もきっと流民に騙されておいでなのだわ。そうよ、そうに決まっているわ!そうでなければ私のことをあんなふうに言われるはずないものっ!あの娘はどこまで卑怯なの・・・」
ついにはぼろぼろと涙を零した。
一見すると庇護欲をそそる姿だが、オーランドはまたしても「・・・めんどくせぇ」と呟いた。
するとディアスはすかさず「お嬢様と奥様を別室にお連れしても宜しいでしょうか?」と尋ね、少し考える仕草を見せたオーランドに「このままお二方とお話をしても疲れるだけで実りはありませんよ」と耳打ちした。
オーランドがそれに頷いて応えると、ディアスは少し離れたところにいたメイド長の方を見て「アリア」と声を掛けた。
アリアと呼ばれたメイド長はすぐに状況を察した。
「アリア、お嬢様と奥様をお部屋までお連れして」
「かしこまりました。さあ、お嬢様。お辛い思いをしてお疲れでしょう。お部屋に戻って奥様とご一緒に心を休ませましょう。こんな大勢が周りにいては休まるものも休まりませんもの。お気に入りのハーブティーをご用意いたします。奥様はブランデー入りの紅茶をご用意いたしますね」
「まあ、メイド長は本当に気が利くわね。行きましょうフィアラ」
「そうね、こんなところにいるから心が乱れるのだわ」
「では参りましょう」
最後にこちらにお辞儀をする際にメイド長とディアスの目が合いお互い僅かに頷きあった。
そうして流れるように夫人とフィアラを部屋から連れ出していった。
「さあ、隊長様。これでしばらくお二人は部屋から出てきません。アリアが上手く部屋に留めておいてくれるはずです。これでやっとお話しすることが出来ます」
そう言ってディアスはオーランドに向き直った。
「隊長様。不躾な質問で恐縮ですが、旦那様に掛けられた疑いというのは流民様に関してのことではございませんか?」
「何故そう思う?」
「少々心当たりがございまして。私に付いてきていただいても宜しいですか?お見せしたいものがございます」
ディアスがオーランドを連れてきたのは筆頭執事として与えられた自室だった。
部屋に入り、壁際に置かれた本棚の前に立った。
奥行きのある本棚の後列から丈夫そうなカバーの付いた一冊の本を取り出すと、その隙間から何かを取り出してオーランドに差し出した。
「これは?」
それは何かが書かれた紙だった。
「そちらは以前から懇意にしている宝石商から旦那様が受け取った手紙です。問題はその内容。目を通していただければ分かるかと」
言われるがままにオーランドがそれに目を通すとその内容に眉間に皺をよせた。
「何ともまあ、ずいぶんと良いものを残しておいてくれたようだ。他には何かあるか?」
「いえ、物としては何も。ただその手紙を受け取って少ししてから旦那様は迎えに来た宝石商の馬車に乗ってどこかへお出かけになられました。供をつけることを許さずお一人で行かれましたので・・・・まあ、そう言うことかと」
「そうか。これは預からせてもらっても良いか?」
「ええ。初めからそのつもりですので」
オーランドは隊服の内側にそれをしまう。
そして最も気になっていたことをディアスに聞いた。
「確認だが、これを俺に預けるということは自分の主人を裏切ることになるが良いのか?」
「ええ。そもそもこの国の貴族という立場にありながら国を裏切ったのは旦那様ですので。何が正しいかということくらい私にもわかります」
忠誠心など元から無かったが、さらにこの国の害となるならば差し出すのに何の躊躇も無い。
「なら良い。もう少し詳しく聞きたいこともあるが時間が勿体ないな。あんた、馬には乗れるか?」
「多少は」
「そうか。そりゃ良かった。ちょっと城まで一緒に来てくれ」
オーランドは皆が集まる部屋に戻ると第三部隊の副隊長に「一旦城へ戻る。ここはお前に任せた」と告げた。
ディアスも自分が今からオーランドと共に城へ向かうことを伝える。
「馬を一頭連れて行く。奥様達はアリアに任せておけば大丈夫だとは思うが、皆も協力してやってくれ。あとは・・・騎士団の皆様の指示に従うように」
「はい」「わかりました!」「お任せを」と答える声が聞こえる。
その様子を見ていたオーランドは「はは。まったく、これじゃ誰が領主かわからんな」と呟いた。
そして夜が明け日も昇った頃、二人は王城へ向けて出発したのだった。
進まーん!
ハルカが攫われて17、8、9時間と言ったところでしょうか。
ちょっとみんなノロノロし過ぎじゃない?と思われるかもしれませんが、この世界はこれでも頑張っている方です!たぶん。
一番やきもきしているのはラジアスです。




