7.決意
お待たせしました!
用意された部屋の中、ベッドの上に置かれたジャージを見る。
(私の世界のもの、これだけしかないんだな……)
大事なものだしちゃんと仕舞っておこう。
私はジャージを手に取り部屋の中にあったクローゼットを開いた。
クローゼットを開けるとその中にはすでに数着の洋服とブーツが入っていた。
もちろん全て男物。
きっとラジアス様たちが頼んで用意してくれたものなのだろう。
まあ普段からスカートなんてめったに着ないし動きやすそうだから良しとしよう。
でもなー。
「下着とかどうすりゃいいんだろう……」
聞き辛い。ラジアス様たちには非常に聞き辛い。
でも最低でももう1セットないと洗えないので明日なんとか聞くしかなさそうだ。
クローゼットを閉めた後は部屋の確認をすることにした。
部屋の中にはさらに扉が二つ。
まず一つ目は洗面所とお風呂だった。そしてもう一つはトイレ。
ありがたかったのは両方とも日本の物と大差無いということ。使い方も一緒。
それ以外の部屋にある時計なんかも見る限り同じ感じがした。
(似てるところもあるんだな。……なのに違う世界なんだ)
ダメだ。
すぐに思考が暗い方にいってしまう。
もう休もう。身体が疲れると心も弱くなる。
ベッドに入り目を閉じる。
思っていた以上に疲れていたのか瞼が張り付いたかのようにもう開けられそうにない。
(次に目が覚めたら全部夢だったら良いのに……)
そんなことを思いながら私はあっという間に眠りに落ちていった。
――待って、待ってよ!
――――お父さん! お母さん! 悠にぃ、孝にぃ、夏にぃ!
家族の姿が見えるのにどれだけ走っても追いつけない。
お父さんもお母さんも、お兄ちゃんたちも私に全く気が付かない。
嫌だ! 気付いて、戻ってきて!
そう願って叫んでも、みんなはどんどん遠くに行ってしまう。
ああ、そっか。これは夢だ。
ここにみんなは居ないんだ。私だけしかいない。
夢なら早く起きなくちゃ。こんな悲しい夢見たくない。
――ふっと目を覚ますとまだ夜のようで部屋は暗い。
そしてここは、隊長室のまま。
(やっぱりこれは現実なんだ)
時計を見るとまだ寝てから2時間程しか経っていなかった。
あんな夢を見たせいか眠る前よりむしろ疲れた気さえする。
「どうせ夢ならみんなの顔見せろっての」
私はベッドの上で体育座りの状態で膝に顏を埋めてボソッと呟いた。
夢の中と言えど、知った存在を見て緊張の糸が切れてしまったようで、じわじわと涙が込み上げてきた。
「……つ……っふ……うう……うぁ……」
今まで堪えてきた涙が堰を切ったように流れ出した。
一度零れ始めた涙はもう止めようがなかった。
もう良いのかもしれない。今なら誰も見ていない。強がる必要もない。
私はいつ振りかわからないくらい、まるで子供のように大泣きしたのだった。
「はぁ、すっごい泣いた」
正直まだまだ全然泣ける。
でも泣くのはこれで最後にするんだ! 泣くな、堪えろ自分!
私は両手の平で自分の頬をパンッと叩いた。
この世界が現実なら、私は知り合いもいないこの場所でこれからずっと生きて行かなきゃいけない。
今の私は家族も、友達も、自分のお金も、服すらも持っていない。
生きていくために、これからしなくちゃいけなことを考えろ!
私は顔を上げて窓の外を見た。
外には月が輝いている。
あの月も日本で見ていたのと似ている。
月を見た時だけは元の世界のこと、家族のこと、友達のこと、思い出しても良いよね。
お父さん、お母さん、お兄ちゃんズ。有馬家の末っ子はちゃんとこっちの世界で生きています。
元の世界で私のことがどうなっているかはわからないけどやるしかない。
「私こっちで頑張るからね! ――よし、寝る!」
身体が資本! 健康第一!
決意も新たに私は再びベッドに寝転んだのだった。
有馬家は父、母、少し年の離れた兄×3(悠希、孝太、夏樹)そして春歌の6人家族です。
ブクマありがとうございます!
評価してくださった方も感謝です。
これからもお付き合い下さねー。




