65.黒幕は誰か
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『――ルカ、ハルカ。しっかりしろ。目を覚ますのだ』
「んん・・」
誰かの呼ぶ声で私は目を覚ました。
『おおっ!目覚めたか!』
「・・・天、竜?私は・・・っ痛」
途端ガンガンとした頭痛に襲われ、思わず頭を押さえた。
そして自分の身に起きたことを思い出す。この頭痛は殴られたせいか、はたまた無理やり吸わされた薬のせいなのか。
『大丈夫か?!』
「大丈夫だよ。ちょっと頭が痛いだけ。それよりここは・・・」
きょろきょろと周りを見渡す。
私は天蓋付きの豪華なベッドに寝ていた。周りにある鏡台や、テーブル、ランプなどの小物に至るまで素人目に見ても高価そうな物で溢れた広い部屋にいる。
一番都合良く考えれば、すでに誰かに救出してもらっているということもあるかもしれないが、窓も無いこの部屋を見る限りその可能性は薄い気がした。
ただ、自分は何者かに攫われたはずなのだが拘束されたりもしておらず、腰袋もそのままの状態を見る限り少なくともすぐに殺されたりはしなさそうだ。
そう考えると強張っていた身体の力が少し抜けた。
『ここは一体何なのだ?一体何があったのだ?』
「どうやら攫われちゃったみたいなんだよね」
『は?』
私もそうだが天竜も事態が把握しきれていないようだ。
考えてみれば攫われた時天竜は寝ていたのだから、私以上に謎だらけなのだろう。
「実はさ――」
私は起こったことを掻い摘んで天竜に話した。
その結果、天竜はものすごく落ち込んだ。
『我が、我が眠っている間にその様なことが・・・!なんという失態!すまぬ。すまぬ、ハルカ!』
「いやいや、天竜のせいじゃないから」
『それでもっ!我はつい先ほどまで暢気に眠りこけておったのだ。・・・情けなくて自分が許せぬ』
「でも天竜が眠っていたおかげで相手にも気づかれなくて、今こうして一緒にいられるから結果オーライだよ」
私は天竜に笑ってみせた。
実際眠っている天竜はただのもふもふの毛玉のように見えるからそのままにされていたんじゃないかと思う。
こんな状況で一人ぼっちではないというのは本当に心強い。
一人きりだったらもっと気が動転していただろうし、こんなに冷静に考えることも出来なかっただろう。
「身体も普通に動くし、まずは状況を把握しないと」
『ハルカ・・・うむ!そうだな!』
私はベッドから降りると伸びと屈伸などをして簡単に体を解す。
どれだけ寝ていたかは分からないが、この体の凝り固まった感じからして思っているよりも長く眠ってしまっていたのかもしれない。
そうして部屋に三つある扉の一つに向かう。
念のため扉を開ける前に覚えたばかりの魔法の“盾”を張ったが、ドアノブを持つ手が震えていることに気付く。
『ハルカ』
「・・・大丈夫。大丈夫だよ」
どのみちもう捕まっているのだ。
意識を失っていた者が状況把握のためにドアを開けようとする行為は特に可笑しなことではない。
見つかったところで今とさほど状況は変わらないだろう。
それにその行為すら禁じられるのであれば、はなから見張りの一人や二人いても良いはずだ。
そう自分に言い聞かせて思い切って扉を開けば、そこは何の変哲もないバスルームだった。若干拍子抜けはしたが、その流れで二つ目の扉も開けるとそこは衣裳部屋になっており、ワンピースからドレスまで何着もの服が掛けられていた。
(どこもかしこも豪華。服だってあんなにあるし、どこかのご令嬢の部屋?)
残る扉は一つ。
「他が違うとなると、この扉が外に繋がっているはず」
私が三つ目の扉のドアノブを回すと、ガチャガチャという硬質な音が鳴った。どうやら鍵が掛けられているようだ。
(はー、・・・これはまだ助けられていない可能性が濃厚)
そうなると、私を誘拐したのは誰なのか。
今のところ誰かに恨まれるようなことは無い―――いや、一人フィリアがいるか。
しかしフィリアには恨まれていそうだが、彼女一人にこのようなことをする力はあるだろうか。
(いや、うん。無さそう。となると親のスイーズ伯爵?)
スイーズ伯爵とは面識は無いはずだが、娘のフィリアから何か聞かされているかもしれない。
それ以前に私のせいで商売が上手くいかなくなった逆恨みのことも考えられる、とこちらに来てから習った座学の内容を思い出していると天竜から声が掛けられた。
『ハルカ、何者かが近づいてくるぞ』
「え?どうしよう、どうする?・・・とりあえず天竜は隠れてて。私が良いって言うまで絶対に出てこないで」
天竜の存在はまだ気付かれていない。
最悪隙を見て天竜だけでも逃がすことが出来れば助けを呼んでもらえるかもしれない。
私は天竜に腰袋に隠れてもらうと、慌てて初めに寝ていたベッドに潜り込んだ。
寝たふりでも決め込もうかと思ったが、状況を早く知るには起きていたほうが良いのではと思い上半身を起こして待つことにした。
(来るのはスイーズ伯爵か、はたまた別の人物か・・)
緊張で早まる鼓動を落ち着かせるように胸に手を置き深呼吸をする。
気持ちを落ち着かせてこの部屋の入り口と思しき扉を見据えて待っていると、ノックも無しにガチャッと扉が開いた。
ダントンより少し年上くらいだろうか。
部屋に入ってきた男性は私と目が合ったことに一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに笑顔になった。
「おや。もう目覚めていたのだね」
一見穏やかそうに見えるその男の笑みが、私にはどこか気持ち悪く感じられた。
座学で習ったのはスイーズ伯爵領が主に武器の販売、修理を行っているということです。
特に「貴女が来たから伯爵領は大変だ」ということは言われていませんが、それくらいのことは言われなくとも気付くのがハルカです。
本来、流民であるハルカに政治経済に至るまで教えなくても良かったのですが、意外と頭が良いハルカがどんどん知識を吸収してくのが面白かった教師陣が教えまくった結果、いろんな領の特産品とかまで覚えちゃってます。




