63.二つの轍
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『こっちだな』
ダントンの執務室から出発し、ハルカの匂いを辿ってきたラジアスたちは庭園の側を通る通路へとやって来ていた。
「前にハルカから聞いた通りだ。ハルカは庭園の横を抜けて城へ行っていると言っていた」
「では、ここまではいつも通りということか」
『この辺りに他より強い匂いを感じるのだが・・・』
すっかり暗くなっている庭園へと灯りを照らしながら進むと、灯りに反射して光る何かがあった。
『む、これだな。これからハルカの匂いがする』
それをダントンが拾い上げる。
「これは、髪留めでしょうか?」
「すみません。ちょっと見せてください」
ラジアスがダントンから受け取ったそれは太陽をかたどったチャームが付いた歪んだヘアピンだった。
ラジアスはそれに見覚えがあった。
「これは・・・これはハルカのものです」
地面に落ちていたのはハルカがラジアスと街へ行った際に購入したものだった。
「間違いないのか?」
「間違いありません。ハルカはこれを気に入っていて毎日使用していましたから。ただ、こんなに歪んではいませんでした」
「髪に着けていたものが歪んで落ちるような何かがあったということか・・・。ユーリ。この先はどこに続いている?」
ユーリは緩く首を横に振った。
『わからんな。ハルカの匂いも無ければ足跡も無い。午前中に降った雨で消えたか。向こうの方から僅かに匂うのはハルカの部屋があるからだろう』
ユーリはハルカの自室の方角を鼻で指して言った。
たしかにこの場にはいくつかの足跡があるものの、女性と思しきサイズの足跡は無かった。
「お待ちください」
「どうした、ダントン」
「ハルカ嬢が光珠作りを終えた頃にはとうに雨は上がっておりました。となるとハルカ嬢の足跡が無いとなると」
「あの髪留めのことも考えればこの場で何者かに攫われた、と仮定して動くべきだろうな」
しんと空気が静まる。
もし何者かがハルカを連れ去ったとしたら一体どのように行ったのか。
いくら人通りの少ない場所とは言えど、ここは城壁内の庭園である。
人一人を担いでいくには目立ちすぎるし、出て行くには必ず城門を抜けなければならないはずだ。
他にも何か手掛かりはないかと皆灯りを片手に探していると、ラジアスが地面を照らし動きを止めた。
「どうした?何か見つけたか?」
「陛下。この轍、妙ではありませんか?」
皆が集まりラジアスが示した場所を照らす。
そこには車輪の跡がいくつか残されていた。
「この轍とあちらの轍はおそらく同じ車輪のものだと思います。大きさからみておそらく荷車か何かのものだと思うのですが」
「そのようだが、何が妙だというのだ?」
「轍の深さが異なるのです。通路脇から城門方向へ延びる轍の方が深いのです」
皆がはっとして今見ていた地面から通路脇の地面へと移ると、そこにはラジアスの言ったように先ほどのものよりもくっきりとした車輪の跡が残されていた。
通路脇に落ちていたハルカの髪留め。
そこから消えたハルカの痕跡。
雨が降った後のぬかるんだ地面に残る二つの深さの違う車輪の跡。
考えられることは一つしかない。
「何らかの方法でハルカ嬢を拘束し、荷車に乗せて外へ出たか」
国王が呟く。
いくつかの情報から導き出される答えはこの一つだ。
「見つからずに連れ去られたとなると何かに隠されていたのだろう。運んだのが荷車だとすれば荷物が乗っていても何も疑問に思われないだろうからな」
「しかもここ数日は夜会の準備で商人や貴族らが出入りしております」
「ああ、その荷の中に隠されたのだろうな」
状況から考えてハルカは連れ去られた可能性が高い。
まさか城内でこのようなことが起きるとは思ってもみなかった。
皆が自分たちの平和慣れした甘さと不甲斐なさに苦虫を噛み潰したような表情になった。
しかし反省するのは今ではない。今やるべきことは一刻も早くハルカの所在を明らかにし、犯人を捕らえることなのだから。
「状況を整理し、ハルカ嬢の発見に全力を注ぐ。関係者を会議室に集めろ」
「陛下。情けないことですが、城門の警備は我が第二部隊の者が担当しております。本日の担当者二名を連れてまいります」
「そうしてくれ。詳細はまだ伝えなくて良い。ダントン、お前は今日城壁内に入った者のリストと、仕入れた品、献上品の目録を用意しろ」
「はい」
ラジアスは警備を担当していた者を連れに騎士団の宿舎へと向かい、国王はてきぱきと指示を出していく。
そんな国王に『私はどうする』とユーリが尋ねた。
「ユーリにはこれを」
国王がユーリに差し出したのはハルカが作った光珠だった。
「まだどのように動くかはわからんが、いざという時は力を貸してほしい。それまでは力を蓄えて待っていてくれ」
ユーリなりの了解の意なのだろう。ユーリは何も答えず差し出された光珠を飲み込んだ。
ユーリの身体はいつものように光り輝き、それが治まる頃には一回り大きくなった姿がそこにはあった。
これに驚いたのは第一部隊の騎士たちだった。
「聖獣様のお姿が・・・っ!」
「大きくなった?!」
第一部隊の騎士たちはハルカが魔力を供給できることは知っていた。
だがそれは、自分たちが体験したように魔力を分け与えて回復させるというものだという認識だった。
しかし目の前の聖獣はどうだろうか。
魔力が回復というよりは明らかに成長したように感じられた。
「ああ、お前たちは見たことが無かったのだったな。これもハルカ嬢の力だ。あの珠はハルカ嬢にしか作ることが出来ん。だからこそ誰かに奪われるということがあってはならんのだ」
第二部隊に身を置き、真面目で謙虚で偉ぶることのないハルカだから忘れていたが、彼女は流民だから重要視されているわけではないのだ。
流民という存在以上にその特殊な魔力がこの国にとって重要だからこそ放置出来ない問題なのだ。
騎士たちは改めて事の重大さを実感した。
今のところユーリは警察犬のような働きしか出来ず・・・。
まだまだ解決までには時間がかかります!
ものすごく私事ですが、先日ひとつ歳を重ねました。
昨年の6月にこの話を書き始めて誕生日までに書き終えたいと思っていたのですが、全然無理だったよー――!!
何の準備も無しに書き始めたから当たり前ですが、無計画って駄目ですな( ̄▽ ̄;)




