55.もう少し ※ラジアス視点
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「そうか」
ハルカの言葉に若干の驚きを覚えつつも頷いて応え、歩きながら視線で天竜を呼んだ。
それに応えるように天竜はハルカから飛び移ってきた。
『何だ?』
「本当に大丈夫だったのか?いつもと様子が違うようだが」
『自分を通して親を侮辱されたことが許せなかったらしい。そこまでは大人しくしていたからな』
「・・・そうだったのか」
『おぬしもハルカを本気で怒らせぬよう気をつけるんだな。笑顔で怒るというのはなかなかどうして恐いものがあったぞ』
「ああ」
こそこそと話す俺たちに気付いたハルカが横目でこちらを見上げた。
「・・・あの、幻滅しました?」
「何がだ?」
「いや、人を馬鹿にした発言を敢えてするなんて失望されたかなと」
俺を見上げる瞳はどこか不安げに揺れていた。
「まあ、聞いていたわけではないからどこまで強く言い返したのかは知らないが、そんなことくらいで失望なんかしないさ。今回のことだって今までずっと我慢していたんだろう?それに負の感情が一切無い人間なんていやしない」
ハルカの頭をぽんぽんと叩く。
「まあハラハラするから何かするなら俺のいるところでしてほしいけどな」
「・・・・善処します」
本当に。
やはりどこか遠慮しているのかハルカはあまり人に頼ろうとしない。
普通の貴族令嬢と違って自身で出来ることが多いから余計にそうなのだろう。
感情だってそうだ。
揶揄いに拗ねるように怒ることはあってもなるべく負の感情は見せないようにしているのではないかと思う。
家族に会えなくて悲しいという感情でさえもこちらに来た当初以来、表には出さない。
ただ時折、夜の月を見てぼーっと遠くを見つめていることは知っている。
(あの時も一人で泣いていたのだったな。・・・俺はそんなに頼りないだろうか)
ハルカに嫌われていない自信はある。この世界の誰よりもハルカと接してきたのは自分だという自負もある。
もっと俺を頼ってほしい。
自分にだけは全てを隠さず、我慢などせず感情をぶつけてほしい。
自分の感情に気付いてから少し欲張りになったように思う。
気持ちを告げてもいないくせにその権利を願うなど我儘でしかないだろう。
ハルカから向けられている好意が自分と同じでなかった場合、今と同じように接することが出来るだろうか。
いつかハルカの横に自分ではない誰かが立った時心から祝福できるだろうか。
・・・正直自信が無い。
(は~、本当に情けない)
隣を歩くハルカを見る。
俺の気持ちを受け入れてもらえれば、この肩を抱き寄せることが許される。
腕の中に閉じ込めて、泣いても良いんだと言うことが出来る。
それが出来たらどんなに幸せなことだろう。
(でも、受け入れてもらえなかったら?)
こうして隣を歩くことも出来なくなるのだろうか。
(それは、嫌だ)
今のこの関係を壊したくないと思う自分がいる。
しかしそれ以上に今の関係に満足できない自分もいるのだ。
「ラジアス様?」
「ん?」
そんなことをぐるぐると考えているうちにハルカの部屋の前に到着していた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、少し考え事をしていた」
「さっきのことですか?あの・・・もし迷惑をかけるようなことがあったら、すみません」
ハルカは俺の考え事が先ほどの事だと勘違いしたようだ。
・・・すっかり忘れていたけどな。
「ああ、違う違う」
「違うんですか?」
ここでちょっとした悪戯心が働いた。
「まあ考えていたのはハルカのことだけどな」
「へ?」
そう告げればハルカの顔は僅かに赤く染まる。
俺がそれ以上何も言わず黙っていると、ハルカの頬の赤みが引き代わりに胡散臭いようなものを見る目で睨まれる。
「・・・また揶揄いましたね」
「本当のことだが」
「はいはい。またそういうこと言って面白がってるんですよね。はい、お疲れ様でしたー」
「嘘じゃないんだがなあ。お疲れ。ゆっくり休めよ」
ハルカの部屋の扉が閉まるのを確認して俺も自室に入った。
ハルカの頬が赤く染まるのは俺だからなのか、それとも単に初心だからなのか。
分からない。分からないが他の男に頬を染めているところなど見たくもない。
(気持ちが読めたら楽なのにな)
これほどまでに女性のことで頭を悩ませたことは今までにない。
どちらかと言えば、女性の方から「貴方の気持ちがわからないの」「恋人にと望んだのは私だけれど、貴方はいつまで経っても変わらないのですね」「貴方は相手が私でなくても構わないのだわ」などと言われてきた。
あの彼女たちも今の自分と同じような気持ちだったのだろうか。
想いを告げれば良くも悪くも状況は変わるだろう。
ただ今は、もう少しだけこのままで。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ラジアスは基本的に自分から好きになるということが無かったので若干ヘタレです。
こんな情けないやつですが皆さんに嫌われないといいなあと思いながら書いてます(笑)




