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王立騎士団の花形職  作者: 眼鏡ぐま
本編

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54/107

54.我慢できないこともある

ブクマ&評価ありがとうございます。


 

「今、何と?」


 意識せずいつもより低い声が出る。


「ですから――」

「ああ、やはりもう結構です。私の親を馬鹿にした言葉など聞きたくない」


 私は視線を下に落とし、一つ深く息を吐くと再び目線をスイーズ伯爵令嬢に戻した。

 落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。

 感情のままに怒鳴るのは簡単だが、こんな人と同じ場所にまで落ちる必要は無い。

 冷静に。顔には笑顔を、それも最大限相手を馬鹿にするような笑みを張り付けて。


「本当にとても残念な人だ。黙っていればご自分でおっしゃるとおり可憐で洗練された淑女に見えることでしょう。ただし黙っていればです」

「何ですって?」

「他の方の前ではどうだか知りませんが、私に対しての発言は実に醜い。淑女というのは自分より身分の低い者を見下し、人を馬鹿にした発言を繰り返す下品な人を表す言葉とは知りませんでしたよ。私の中で淑女とは、品位のあるしとやかな女性と理解していたのですがね」

「な、なん・・」


 私の言葉に目を見開き、わなわなと震える手でスイーズ伯爵令嬢は手にした扇を握りしめる。

 先ほどまでの余裕のある笑みを浮かべた顔は今は怒りで赤くなっていた。私などに言い返されるなどとは思ってもみなかったのだろう。


「そんな人がラジアス様の隣に相応しい?ふふ、・・・笑わせないで頂きたい。大体、口を開けば自分に相応しいとおっしゃいますが、ラジアス様は自尊心を満たすための道具ではありません。ああ、淑女に程遠い人には難しい話でしたか」

「なんてっ、なんて失礼な方なの?!私は伯爵令嬢なのよ!」


 声を荒げて怒りをぶつけてくる彼女は淑女とは程遠い。

 他人には簡単に馬鹿にする言葉を向けるくせに、自分が言われる側になるのは我慢出来ないなどとはとんだ我儘娘だ。


「ええ、貴女が伯爵令嬢だということは存じ上げております。可憐な花だ、蝶だと言われてらっしゃるようですが・・・」


 私はさらに笑みを深めてスイーズ伯爵令嬢を見据える。


「・・・なによ、なんなのよ!」

「姿見で自らを確認した方が良いのはいったいどちらでしょうね。そのようなお顔をされていては皆さん驚かれますよ。では、失礼致します」


 そう声を掛けて怒りに肩を震わせるスイーズ伯爵令嬢の横を通り過ぎる。と、同時にバキッと音が聞こえた。


(あー、あれは扇折ったかな。ったく、どこがか弱い伯爵令嬢だよ)


 扇なんてそうそう折れるものじゃない。あれはかなりお怒りのようだ。

 けれどそんなこと知ったことではない。

 自分のことだけならまだ我慢できるが、両親のことまで貶められて黙ってなどいられなかった。

 それにラジアスに関しての発言も気に食わなかった。

 容姿が整っている?たしかに男前である。

 侯爵家の息子で爵位は継げないが、若くして王立騎士団第二部隊の副隊長という肩書を持つ?事実である。

 事実であるが、ラジアスの良さはそれだけじゃない。何も分かっていない癖に近づかないでほしい。

 そんなことをずっと思っていたからついつい言い過ぎたかもしれない。


『おぬしでもあんなにはっきり物を言うこともあるのだな』

「あんまり言いたくなかったけどあまりにも腹が立ったから。嫌な言い方したっていうのは自覚あるよ」

『人間味があって良いではないか。そもそもあの小娘は何度会っても我の友に悪意ある言葉と視線しか寄こさなかったのだ。あれくらいは言われて当然だ』

「ふふ、心強い友達だなあ」

『そうであろう、そうであろう』


 ふふん、という効果音が付きそうな天竜はやはり可愛い。

 天竜を撫でていると前からラジアスが歩いてくるのが見えた。向こうも私に気が付いたようで手を挙げながらやってきた。


「こんなところでどうした?今日の光珠作りは終わったのか?」

「はい、ラジアス様は?」

「俺ももう用は済んだ。一緒に戻るか」


 一緒にいられることは嬉しい。

 ただ、今は少し心が荒んでいていつも通り笑える気がしないから複雑だ。


『ハルカ戻ったら存分に我を撫でても良いぞ』

「ありがとー」

「どうした?・・・この間言っていた小娘か?もしかして何かあったか?」


 さすがラジアス。察しが良い。


「おそらく小娘というのはスイーズ伯爵令嬢のことだろう?」

「よくわかりましたね」

「いや、少し前に気になる物言いをしていたものだから。大丈夫か?」

『問題無いぞ。今日ハルカがしっかりと言い負かしたからな』

「言い負かした?ハルカが?」

『うむ。身分がどうのこうのと言っておったが、ハルカに言い返されて何も言えなくなっておったわ』

「ちょっと言い過ぎました」


 やはりラジアスは驚いた顔をしている。

 私が言い返すのがそんなに想像できないのか。そこまで良い子でいたつもりはないのだけれど。

 ラジアスは少し考えるような素振りをした後口を開いた。


「もし向こうが何かしてくるようならちゃんと言ってくれ。家格としては俺の方が上だから」

「大丈夫だと思いますよ。だって私スイーズ伯爵令嬢を前に小馬鹿にした発言はしましたけど、その会話の中で一言もそれが彼女のことであるとは言っていませんから」

『む、そうだったか?』

「うん。“スイーズ伯爵令嬢は~”とか“貴女は~”とか一言も言ってないよ。私が彼女を指して言ったのは姿見で自分を見てみたらってとこだけ」

「そこまで言い切るからにはわざとそうしたのか?」

「もちろん。これで何か言ってくるようなら、私の発言が自分のことを指していると認めたことになる。そんなのいくら心当たりがあるからと言ってあの気位の高い彼女が認めるとは思えません。まあ、あのお嬢さんにそこまで考える頭があるかどうか分かりませんけど」


 言いながら自分の口からははっと乾いた笑いが漏れた。




ハルカもイラッとくることはあります。

それを普段表に出すかどうかの話。



今日は午前中は雪が積もって驚きでした。

まさか本当に降るとは。

寒暖差が激しいので皆様お体にはお気を付けくださいねー(・∀・)

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挿絵(By みてみん)



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