53.面倒な人2
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天竜と一緒に生活するようになってから数日、何事も無く平和に時が過ぎている。
変わったことと言えば、私が常に腰袋を着けるようになったことと、今までの光珠作りとは別に天竜のために光珠を作っていることくらいだろう。
『うむ、これは本当に美味だのう。いくらでも食べられる』
「それは私が無理だなー」
『分かっておる。頻繁によこせとは言わんから安心しろ。その代わり、我はクッキーを所望する!』
「はいはい、言うと思ってたよ」
天竜の前にクッキーを一枚置いた。
このクッキーは先ほどラジアスから貰ったものなのだが、枚数の多さから見ても天竜に渡ることも考えられているのだろう。
「天竜は本当にクッキーが好きだな」
優雅に紅茶を口にしながらソファに腰かけたラジアスが言う。
光珠作りは陛下かダントン、もしくはラジアスが一緒の時のみと言われているので自室で行う際にはこうしてラジアスに付き合ってもらっている。
『食べなくても問題無いが、こんなに美味しい物を知ってしまってはな。これを生み出すとは人間はすごいな』
むぐむぐとクッキーを頬張る天竜。可愛すぎる。
この可愛く癒される姿に、つい人差し指で天竜を撫でてしまうというのが日常化していた。
本当は天竜相手にこんなことをしてはいけないのだろうが嫌がるわけでもなく、むしろ喜ばれているので問題ないだろう。
『ハルカは本当に我を撫でるのが好きだな』
「好きだよー。癒される。荒んだ心が浄化される」
「ハルカでも心が荒れることがあるのか?」
「そりゃありますよ」
ラジアスが少し意外そうにこちらを見た。
ラジアスの中の私はいったいどれだけ善人なのか。少し聞くのが恐ろしい。
「私そこまで出来た人間ではないですし、腹が立つことだってありますよ?」
『原因はあの小娘であろう?あの者と邂逅した後はよく撫でまわされるからな』
「小娘?」
「大したことじゃないですから」
『なぜ隠すのだ?あの者はよくこやつの名を――』
「はーい、はいはい!そこまで。天竜、余計なこと言わないの」
「俺の名前がどうしたって?おい、ハルカ」
「何でもないですから。大丈夫です」
「そうは言っても俺が関わる話なんじゃないのか?だったら俺が出るべきだろう」
「これはラジアス様が絡むと余計にややこしくなるので気にしないでください」
「だが――」
納得いかないという顔をしているが、本当にラジアスに出てきてもらっては困る。
理由は天竜の言う小娘とはフィアラ・スイーズ伯爵令嬢のことだからだ。
近頃騎士団の周りをうろちょろしているのは知っていたが、わざわざ私を待ち伏せるかのように突然目の前に現れるのだ。そして口を開けば嫌味の嵐である。
ご自分の容姿を姿見で確認してみたらいかが?
ラジアス様の部下だというならそれ相応の距離感というものがあるでしょうに。
ラジアス様は侯爵家の方、私は伯爵令嬢、貴女は・・・出自が分からないということは平民と同等。ああ、それ以下かしら。この意味が分かりまして?
あの方の隣には私のような者こそ相応しいと思いませんこと?
遭遇する度にこのようなことばかり言われてうんざりしている。
最初こそ綺麗な人だと思ったが、最近は内面の酷さが表面の美しさを超えてきたせいか全く綺麗に見えない。
ラジアス様に相手にされないのは私のせいでも家のせいでもなく本人の性格が悪すぎるからだろうと言ってやりたい。
言わないけど。
というか、彼女は私の口からラジアスに自分の所業が伝わってしまう危険性を考えたりしないのだろうか。
いや、うん。しないのだろう。
あれは自分が正しいと信じて疑っていないのだから。
仮にここでラジアスが出てきて私を庇ってくれたとしよう。
きっと彼女は私のご機嫌を取るように陛下に言われているのねとか、ラジアス様可哀想とか、いい加減解放して差し上げてとかキャンキャン言ってきそうだ。
うん、想像出来る。自分の都合の良いように脳内変換されてしまうに違いない。
やはりラジアスには黙っていてもらおう。
「どうにもならなくなったらちゃんと言いますから」
疑う顔をしているラジアスだったが、天竜の『我がハルカとおるから大丈夫だ』という言葉で何とか納得してくれたのだった。
それにしても、そろそろ本気でどうにかしたいと思っている。
あんな人のせいで苛立つのも時間の無駄というものだし、私の精神安定のために天竜を撫ですぎてハゲでもしたら困る。
城で光珠作りを終え、そんなことを考えながら廊下を歩いていたのだが――
今日も今日とてフィアラ・スイーズ伯爵令嬢のお出ましである。
『ハルカ、また出たぞ』
「大丈夫」
私の行きたい方向にいる彼女。行きたくないがわざわざ道を変えて逃げたと言われるのも癪である。よって私はこのまま進む。
何も言われなければそれで良いと思いながら、なるべく廊下の端に寄り軽く会釈をして通り過ぎようとしたが、やはりただでは通してもらえないようだ。
「ごきげんよう烏さん。私を無視なさるなど良いご身分ですこと」
「・・・最近よくお会いしますね、スイーズ伯爵令嬢」
「本当に。いつになったら私の言葉をご理解いただけるのかしら。男装の麗人などと言われて何か勘違いなさっているのではなくて?」
「とんでもない」
「淑女には程遠く、紳士にもなれない半端者の分際でよくもみっともなくラジアス様に纏わりつけること・・・汚らわしい」
(うるさいな~、ほんとよく回る口だよ。返事するのも面倒になってきた)
私は虫けらでも見るような視線を向けてくる彼女を前にし、心の中で盛大に溜息をつく。
「ちょっと貴女!聞いていますの?」
「ええ、まあ」
「身分が上の者に対する態度を知らないようですわね。ああ・・・どうせ貴女のご両親も卑しい者なのでしょうね。だから貴女のような無教養な人が生まれるのだわ」
「・・・は?」
私の中の何かが切れる音がした。
自分が正しいと信じて疑わない人ってのは本当に厄介です。
次回、ハルカのターン!




