51.今日からお友達
ブクマ&評価ありがとうございます。
天竜曰く、天竜は普通の動物が何らかの突然変異で魔力持ちとして生まれるのとはわけが違う。
天竜という存在はこの世に自分しか存在しない。
長い長い時を生き、身体が衰えたらば生まれ直しの時期なのだと感覚的に分かるそうだ。
そうなると住処であるザザ山の山頂にある泉に身を沈める。
深い泉に飲み込まれていく過程で眠りにつくように意識が薄れ、気が付いた時には泉の底で薄い繭に覆われた状態でいるというのだ。
目が覚めた時には幼体に戻っており、そこからまた長い年月をかけ魔素を取り込み成体になっていくのだという。
『新しい身体になっても我は我であるから、もちろん前の身体であった時の記憶も残っておる。以前おぬしに会ったのは先代が生きておった時だったか?』
小さな毛玉という身体と可愛い声に似合わない古風な話し方はこれが理由だったようだ。
私たちには想像もできない年月を生きているのだろう。
『紅鳥に山から離された時はどうしたものかと焦ったが・・・こうも早く昔馴染みに会えるとはあの紅鳥に感謝せねばならんな。しかもそこの娘、ハルカといったか。かの人間と同じ力を持った者に会えるとは・・・今世の我もなかなかについておる』
『ならばお前は本当にあの天竜なのか?』
『まだ信じられんか?そうさな、以前おぬしと会った時危うく潰しかけたと言えば信じてもらえるか?』
その答えを聞いてユーリはとても嫌そうな顔をした後『これは間違いなく天竜だ』と言った。
どういうことかと話を聞けば、以前会った時に天竜がユーリを撫でようとして力加減を誤り危うく踏み潰しかけたということだった。
『私はあの時死にかけた』
『あの時も久しく他のものに会っていなかったのでなあ。加減を間違えたのだ、すまなかった』
ユーリを潰せる力、恐ろしい。
今はこんなに小さくて可愛いのにやはりドラゴンは伊達じゃない。
天竜たちが話しているのを黙って聞いていたダントンがすっと手を挙げた。
『なんだ、人間』
「お話し中失礼いたします。この国の魔導師のダントン・ルースと申します。少しお話を伺ってもよろしいですか?」
『なんだ?言ってみろ』
「天竜さまはこの後どうなさるのでしょうか?住処であるザザ山にお戻りになるのですか?」
そうか。先ほど住処はザザ山だと言っていた。
本来ならこんなところで出会うはずもなかった超レア生物だった。
『戻るのなら私が連れて行くことも出来るが』
ユーリの提案に天竜は跳ねながら『戻るわけがなかろう』と言った。
『せっかくハルカに出会えたのだ。先ほどはただ美味そうだからとあの珠を口にしたが、あれは良い。一粒で数年、いや数十年分の魔素といったところか。我はしばらくハルカと共におることにする』
「え?」
「は?」
「なっ?!」
『お、人間が揃いも揃って同じ顔をしておるぞ。面白い』
ケタケタと可愛らしい声で笑う天竜に頭を抱えたのはダントンだった。
「と、とにかく!早く陛下にこの事をお伝えしなくては。皆様方、しばしここでお待ちいただいてもよろしいですか?いえ、お待ちください!」
そう言うとダントンは急いで城へと駆けて行った。
「行っちゃいましたね・・・」
「そうだな・・・。まあ大人しく待っていようか」
『私は帰るぞ』
「おい、今ここで待つように言われただろうが」
『私はそれに対して待つとは言っていない』
「ユーリ~、天竜様だっているんだよ?」
『私がいたところで何も変わらん。天竜がハルカといるというのならそれはもう決定事項だ。だろう?天竜』
『そうだ。我はハルカと共におる。おぬしが森に帰るのは止めんが我は山には帰らんぞ?』
『そういうことだ。ではな』
「「あ!」」
残された私たちがユーリの走り去った方を見ているといつの間にか肩に乗っていた天竜が『ハルカ、ハルカ』と私を呼んだ。
「どうされました?」
私は先ほどまでの友達口調を改めた。
ダントンですら会ったことのない、ユーリを踏み潰せるほどの力を持った存在の天竜。
話を聞く限り気安く話してよい相手ではないと思ったからだった。
『・・・なんだその話し方は』
「え?」
『先ほどまでの話し方とかなり違うではないか』
毛玉の状態では表情はよく分からないが、明らかにむすっとしている。
「それは、まあ。お話を伺う限り友人のような話し方をするのはどうかと思いましたので」
『我は先ほどのような話し方のほうが良い。皆堅苦しいのだ。ユーリばかりずるいではないか』
「そう言われましても・・・」
『ではおぬしと友になれば良いのだな。うむ。たった今から美味なる珠を我にくれたハルカと我は友である。さあ、話し方を元に戻せ』
「ええっ?」
いやいやいや。
こんな超レア生物と友達とか。ないないない。
助けを求めるようにラジアスを見れば、引き攣った笑みを浮かべながら「すごいなハルカ、天竜と友になるなど信じられない」と言われた。
駄目だ。役に立たない。
このままでは天竜の友人ポジション確定だ。というより天竜の中では私はすでに友となっている。
ならば、あと出来ることはただ一つ。
私はラジアスの腕をガシッと掴み言った。
「天竜様!私一人が天竜さまの友人を名乗るというのは些か荷が重いというか!それでですね、もう一人くらい同じ友がいれば私も天竜さまの友と名乗りやすいと思うのです!そのもうひとりにこちらのラジアス様を推薦いたします!」
「なっ!」
私はラジアスを巻き込むことにした。
天竜はラジアスを上から下までみると尊大な態度で話しかけた。
『うむ。ラジアスと言ったか。おぬし人間にしてはなかなか強そうだな』
「いえ、私など天竜さまに比べればまだまだです」
ラジアスが天竜を前に緊張でおかしくなった。
天竜と自分を比べるということ自体がおかしいのだが、言った本人でさえ自分が発した言葉に驚いているようだった。
言われた天竜も若干驚いているように見える。
『ふふふ・・・はっはっは!』
「て、天竜様?」
『くく・・人間が我と己を比べるか。面白い』
「も、申し訳ありません!」
ラジアスが慌てて頭を下げた。
『よい。へりくだって媚びを売ってくる者よりよほど気持ちが良いわ。そもそも友というのは対等な存在であろう。なあ、ラジアス、ハルカ』
頭を上げたラジアスと顔を見合わせる。
天竜は『今日は実に良い日だ。友が二人も出来た』と言って嬉しそうに笑った。
それを見て私とラジアスも諦めたように笑ったのだった。
天竜は急に他人行儀になったことがショックでした。
記憶はあってもまだ生まれたての子供なので基本はまだ子供っぽさが残っています。