47.副隊長の変化
誤字脱字報告ありがとうございます。
今回はほぼ人の会話ばかりです。
「なあなあ、最近副隊長機嫌良くないか?」
「あ、俺もそれ思ってた」
「そうかー?いつも通りじゃないか?」
騎士団の食堂で第二部隊の数名が集まって食事をしながら話をしていた。
「いやー、普段が機嫌悪いってわけじゃないがいつもより良いだろ?」
「俺は副隊長がハルカと出掛けた後からだと思う」
「俺も」
「絶対あの後からだよな、ルバートもそう思うだろ?」
「そうですね」
「だよなー、しかもあの後からハルカのやつ副隊長のこと名前で呼んでるよな」
「そうそう。気になっているんだけどなんか聞けないんだよなー」
「なんだ、何の話?」
食事を摂りに来た他の隊員も話の中に加わっていく。
「ハルカが副隊長のこと名前で呼んでるって話」
「おー、俺も気になってた!」
「セリアン理由知らないのか?」
「いや・・・なんか聞き辛くないか?」
「私聞きましたよ、ハルカに」
「え、ルバートお前聞いたのか?直接?」
「はい。気になったもので」
「で?何だって?」
皆が一斉にルバートに群がる。
実は第二部隊の全員が気になっていたが何となく聞けないことだったのだから当然と言えば当然だろう。
「副隊長のご実家に行った際に、仕事場ではないのだから役職で呼ぶのは止めるようにとガンテルグ侯爵夫人に言われたらしいですよ」
「ん?だったら今も名前で呼ぶ必要なくないか?」
「だよなあ」
そうだ、そうだとみんなが頷いている中ルバートは話を続ける。
「なんでも副隊長が名前で呼ばれることを望んでいるそうですよ。副隊長と呼ぶとすぐに訂正されるか、名前で呼ぶまで聞こえないふりをするそうです。それでハルカも諦めて名前で呼んでいると言っていました」
「・・・なあ、それって」
「副隊長も案外子供じみたところがあるんですねぇ」
「違うだろ!」
「そうじゃなくて、今の話と最近の副隊長の機嫌の良さから考えると・・・まさか」
「いや、まさかだよな?」
「たしかにハルカは良いやつだし、見た目だってまあ悪くは無いが・・・今までの副隊長のお相手とは違わないか?」
皆が今までのラジアスのお相手を思い浮かべる。
どちらかというと、いかにも貴族のご令嬢といった感じの女性らしい印象のものばかりだった。
しかし、よくよく考えると害が無ければ来るもの拒まず(もちろん同時期に他のご令嬢と付き合ったりはしないが)、気が付けばいつの間にか終わっていると言った淡白な付き合いが多かったようにも思える。
基本的にラジアスの方から声を掛けることも無ければ、仕事を理由に誘いを断ることもしばしば。
いくら思い返してみても、ラジアスが女性に熱を上げていたところを見た記憶が無い。
対してハルカへの態度はどうだろうか。
初めは流民だからという理由で気にかけていただけだろうが、この国にも仕事にも慣れてきているはずの最近の方がより気にかけているのではないだろうか。
ハルカを見る視線も笑顔も柔らかい。
「・・・なんか俺、過去のラジアス様の恋人が可哀想になってきた」
「俺も」
「私も同感です」
「でも俺、前に副隊長にハルカのこと妹のように思ってるって聞いたことがあるんだけど」
「それいつのことだ?」
「ハルカが来て二月くらい経った頃だったと思う」
「なんだよ。そんな前か。それだったら気持ちが変わっていても不思議じゃない」
「そうかー、副隊長がハルカを・・・」
「お前ハルカのこと可愛いって言ってたよな?」
「っバッカ!止めろよ。今言わなくても良いだろ!」
「可哀想だが諦めな。副隊長が相手じゃ勝ち目はない」
「分かってるよ!大体ハルカだって副隊長に一番懐いてるんだ。・・・俺なんか相手にされないさ」
憐れんだ目でその隊員の肩をポン、ポンと叩く。
その隊員はハルカのことを気にしていたのは自分だけじゃないと思っているが、あえて口には出さない。
「大体俺なんかよりご令嬢の方が悲鳴を上げるんじゃないか?」
「ああ、副隊長人気あるからなあ」
「最近だとあのフィアラ嬢も副隊長に好意を寄せているって話だしな」
「そうなのか?」
「だから最近公開演習の日などによく見かけるのか」
「さすが副隊長だな」
「でもハルカとフィアラ嬢だったらどちらを選ぶんだろうな?」
「あのフィアラ嬢に来られたらさすがの副隊長だって落ちるんじゃないか?ルバートはどう思う?」
「そうですね、ハルカ一択で」
「ええ?!相手はあのフィアラ嬢だぞ?」
「こちらもあの副隊長ですからね。自分から好いた相手がいれば他にどんな麗しいご令嬢を連れてきたとしても関係ないと思いますが」
「・・・それもそうだな」
「なんかルバートが言うと妙に説得力があるよな」
うん、うんと皆が納得したように頷く。
「それにハルカだって今はあの格好ですが、何もしていなくてあれなのですから着飾れば相当だと思いますけど」
「たしかに。化粧してなくてあれだもんな」
「あと俺今思い出した。この前街に行った時に聞いたんだが、ハルカの仕事『王立騎士団の花形職』って言われてるらしいぞ」
「花形職?花形といえば今までは第一騎士団だっただろ?王族を一番近くで護衛するんだし」
「そうだったらしいんだが、元の世界では平民だった流民が魔力の供給、しかも人だけでなく聖獣様にまで与えることが出来るときた」
「分からなくもないが、そもそもハルカの特殊な魔力があっての話だろ?たまたまその特性があっただけでハルカ以外誰もなれない職業じゃないか」
「その辺りの細かいことはどうでも良いんだろう。すごい魔力があって陛下だけじゃなく聖獣様の覚えもめでたい。平民出身だが貴族に近い場所でハルカにしかできない仕事をする。謙虚で人の好い男装の麗人。これを全部ひっくるめて『花形職』て言われてるんじゃないかな」
「最後の男装の麗人ってところで理解した・・・この情報源は貴族のご令嬢方か」
「ご名答。ハルカはご令嬢方に人気あるからなー。それに正式なお披露目はまだだが、流民ってことも供給が出来る特殊な魔力を持っているってこともべつに隠していないしな」
「お喋り好きな女性たちの間で広まった話が商人を通して市民にまでじわじわ広まってるんだろうな」
「ハルカと副隊長が恋人同士になっても問題無さそうな気がしてきた」
「ああ、副隊長の相手がハルカだったらご令嬢方も何も言わなそうだな」
「副隊長も三男だし政略結婚とか無縁そうだもんな」
「お前結婚はさすがに飛躍しすぎだろ」
「でも副隊長が本気出したら・・・」
わいわいと話していると皆のよく知る声が後ろからかかった。
「なんだ、お前たち。ずいぶん楽しそうに盛り上がっているな」
「うわっ、副隊長」
仕事を終えたラジアスが食堂に入ってきたのだった。
隊員たちに驚かれたラジアスは怪訝な顔で皆の顔を見回した。
「何か後ろめたいことでもあるのか?」
「いえ!ありません!」
「では何をそんなに焦っている」
「いやー、それは今副隊長とハルカについてみんなで話していたから・・・」
「ばっ、セリアン!」
セリアンの口をみんなが慌てて抑えにいったが、すでに口から出た言葉はしっかりとラジアスの耳まで届いていた。
「俺と、ハルカについて?」
「いえ~・・・ははは」
「なんだ、怒られるような内容だったのか?」
皆違うとぶんぶんと頭を横に振った。
この中にはラジアスよりも年齢が上の者もいたのだが、副隊長ということと、笑顔なのに目が笑っていないラジアスが恐ろしくて皆全力で否定した。
ラジアスは名指しで一人を選び「言ってみろ」と命じた。
命じられたのはもちろんセリアンであった。
セリアンはどう纏めて聞こうかと迷った結果、こう切り出した。
「副隊長はハルカのこと今も妹のようだと思っているのかどうか、ということです」
それを聞いたラジアスは一瞬驚いた顔をしたが、その後すぐに呆れたような表情になった。
「お前らそんなことで、ここまで盛り上がっていたのか」
「いいじゃないですか!で、どうなんですか?聞かせたからには教えてくださいよ!」
ラジアスは少しばかり考えると「今度の夜会の警備は既婚の者、婚約者や恋人がいる者のみで行うからそのつもりで」とニヤッと笑って言った。
一瞬皆が「は?」となったがラジアスはその間にその場を離れて行ってしまった。
「いや、ごめん。俺全く意味が分からないんだけどどういうことだ?」
セリアンがルバートに助けを求めた。
「おそらくですが、今度の夜会はハルカのお披露目がメインとなりますよね。その際の衣装は陛下が用意するらしいのです。と、なるとハルカは女性の正装をする可能性が高い。つまりはドレスを着て、髪も女性らしく整え化粧も施すことでしょう。その姿を相手のいない男性に見せたくないということではないかと」
「それってつまり・・・」
「ええ、まあそういうことでしょうね」
「回りくどい・・・」
「はっきり言ってくれりゃあ良いのに」
「これも勝手な推測ですが、まだハルカには伝えていないから敢えて私たちに言わないんじゃないですかね」
「ってことはもし俺たちの口からハルカにバレたら・・・」
皆が顔を見合わせて震えあがった。
もしそんなことが起きれば間違いなく地獄の鍛錬が待っているだろう。
自分たちは今何も聞かなかったと皆が思うことにしたのだった。
会話ばかりだったので少し読み辛くてすみません。
やーっと出てきました『花形職』
若干無理矢理感も否めませんが、そこはいつものようにみなさんの海よりも広い心で受け止めていただければと思います(-_-;)




