43.いつもと違う
久し振りにスマホで見てみたら少し読み辛く感じたのでいつもより多めに改行してみました。
「そういえばその服は母上の物なのか?」
隣を歩くラジアスが私の格好をじっと見ながら聞いてきた。
私の今の格好は先ほど一緒にいたルシエラと同じような、ひらひらしたワンピースのようなものの上にこれまた白いふわふわのガウンを羽織っている。
「そうなんですかね?お風呂から出たらもうこの服しか用意されていなかったので・・・似合っていないのはわかっていますからそんなにじろじろ見ないでくださいよ」
私の言葉にラジアスは不思議そうな表情になった。
「?似合っていないなんて思っていないが。こういう格好をしているのは初めて見たから珍しさから見過ぎたのは申し訳ない」
器用にもラジアスは歩きながら私に頭を下げてきた。
そういえばこちらの世界に来てからスカートを着るのは初めてだったかもしれない。
いつも支給されたズボンをはいていたし、ダンスレッスンの際はズボンの上に大きな布を巻きつけてスカートのようにしていただけだった。
そのレッスンでさえラジアスには見られていないのだから珍しいのは間違いないだろう。
・・・考えたら日本にいた時も制服くらいしかスカートは持っていなかったな。
そう思うと、この格好をラジアスに見られていることに急に恥ずかしさを覚え顔に熱が集まってくるのを感じ慌てて視線を下に向けて立ち止まった。
「どうした?何か気に障ることを言ったか?」
私が怒ったと勘違いしたのか、覗き込むように頭を下げてくるラジアスの顔の前に私は慌てて手で待ったをかけた。
「違います!珍しいとか言われたから恥ずかしくなっただけです。ちょっと暫くこっち見ないでください」
おそらく顔が赤くなっているであろう私は、気持ちを落ち着かせようと視線を下に向けたままラジアスを見ないようにしていた。
ただ、直接見ていないので確信は持てないが、ラジアスはこちらを見ている気がする。頭にものすごい視線を感じる。
すると「ぶはっ」という笑い声が聞こえた。
その声に引っ張られるように顔を上げれば、その頭をラジアスの大きな手がわしゃわしゃと撫でた。
「え?ちょっと・・・」
「可愛いな、ハルカは」
くつくつと笑いながらラジアスはなおも私の頭をグリグリと撫でまわした。
「もー!止めて下さいよ!」
「ははっ」
「あー、もう!髪ぐちゃぐちゃじゃないですか!せっかく綺麗にしてもらったのに!」
私は乱れた髪を手でせっせと直しながらラジアスを睨んだ。
「わるい、わるい。・・・そんなに恥ずかしがることないだろ。良く似合ってる」
「お世辞は良いですよ。私はルシエラ様とは違いますもん」
「母上よりもハルカの方が似合ってるだろ」
「はあ?」
「なんだ、その声と顔は」
「いや、だって・・・本気で言ってるんですか?」
私は意味が分からないといった表情でラジアスを見た。
ラジアスはそれこそ意味が分からないといった様子だ。
「こんなことで嘘を言ってどうする」
「ルシエラ様より私のほうが似合ってるとかありえないでしょ。目を医者に診てもらったほうが良いですよ」
「なぜそうなる。絶対ハルカの方が似合っているし、大体母上はあれだ・・・若作りが過ぎる」
大真面目な顔をしてラジアスは言った。
「・・・怒られますよ」
「・・・ハルカが言わなければ大丈夫だろ」
そう言いながらもラジアスは周りに人がいないか確認していた。
ルシエラの耳に今の発言は入ればきっと怒られるのだろう。そして怒ったルシエラは相当怖いに違いない。
「ほらさっさと部屋へ行くぞ」
ラジアスはこの話は終わりだと言うように歩き始めた。
そもそもはラジアスがふってきた話が始まりだったのだが。まあ私も恥ずかしかったのでこの話がここで終わってくれるなら願ったり叶ったりだ。
「ハルカ?置いてくぞー」
「あ、待ってくださいよ」
私は慌ててラジアスの後を追った。
「明日は誰か起こしに来るだろうから、それまでゆっくり休んでいて良いからな」
しっかり部屋まで送ってくれたラジアスはそう言った後、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「それと、今日はこんなことになってすまなかった」
「結構気にしてたんですね」
「それは当たり前だろう。ただでさえ緊張していると言っていたのにこれだからな」
「もう気にしないでください。皆さん良い人たちばかりだから今はそれほど緊張してませんよ。私結構神経図太いみたいです」
「そう言ってもらえると助かる」
ラジアスはそう言うと少し眉を下げて笑った。
(あ、この笑い方も好きだなぁ)
今日はいつもよりいろんな表情のラジアスを見ることが出来る。
嬉しさを噛みしめながらラジアスを見ていると、そろそろ自分も部屋に戻るとラジアスが言った。
なんとなくまだ一緒にいたくて思わず私はラジアスの服を掴んでしまった。
「どうした?」
私ははっとして掴んだ服を離した。
「い、いえ。・・・あの、ラジアス様の部屋ってどこにあるんですか?」
「俺の部屋はこの上の階だな。ここは来客用の階なんだ」
「そうなんですか」
「・・・なんだ?もしかして俺が傍にいなくて寂しいのか?」
「え?」
ラジアスは私を見ると先ほどまでの殊勝な態度から一転、揶揄うような笑みを浮かべて聞いてきた。
図星を指された私は茹でだこのように顔を真っ赤にさせたに違いない。
揶揄ったはずのラジアスが私の反応に急にあたふたし始めた。
「いや、まあなんだ、その、ほんの冗談のつもりだったんだが・・・すまない」
「いえ・・・」
なんとも言えない空気のままラジアスは「お休み」と言って自分の部屋へと帰って行った。
私はガウンを脱ぎ、椅子の背もたれに掛けるとそのままベッドにダイブした。
「本当に勘弁してよ~・・・」
仕事場から離れ、副隊長という肩書を脱いでいるからだろうか。ラジアスが普段より確段に気安い。
普段も話しやすい雰囲気ではあるが、あんな冗談は言わないしあんな表情も見ることはない。
(あれがラジアス様の素なのかなー)
もっといろんな表情を見てみたい。
好きでいられればそれで良いと思っていた時から考えるとずいぶん欲張りになったものだ。
そんなことを考えながら私はベッドに潜り込んだのだった。
メイドA「てれているハルカ様も可愛いわね」
メイドB「あ、お二人とも止まったわよ」
メイドA「ああ、坊っちゃんったら!ハルカ様の御髪になってことを!」
メイドB「待って!今ハルカ様のこと可愛いって言ったわよ。サラッと言うあたりがさすがね」
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メイドB「若作り・・・」
メイドA「・・・これ報告したほうが良いのかしら」
メイドAB「「・・・止めましょう」」
侯爵家のメイドは気配を消すのがお上手( ´艸`)




