41.嗚呼、勘違い
大変お待たせいたしました!
「あの子の母親である私が言うのだから本当よ」
・・・
・・・・
・・・・・え?
「え?・・あの」
「なあに?・・・あらやだ」
しまったとばかりにルシエラが顔を背ける。
「なぜラジアス様の名が・・・」
「・・・だって、ハルカちゃんの好きな人ってラジアスでしょう?違う?」
「違くは、ないですけど」
「やっぱりそうよね!良かったわ!母親に「うちの子のどこが好きなの?」なんて聞いても答えてくれないと思ったから、ごめんなさいね」
ふふふ、なんて可愛らしく笑うルシエラに対して、私は両手で顔を覆い天を仰いだ。
「悪かったとは思っているわ。でもそれ以上にハルカちゃんのラジアスに対する気持ちを聞けて良かったと思っているの。先ほども言ったけれど、私貴女のこと気に入ったわ。あんな風にラジアスのことを思ってくれているならお嫁さんに来てもらっても良いくらい」
「よ、嫁?!」
「あら、私結構本気で言っているのよ?」
「私なんて恋愛対象として認識もされていないんですよ?」
「妹みたい、だったかしら。けれど、兄妹だろうが男女間だろうが相手を大切に思う気持ちに存在するのは紛れもない愛情だもの。何かの拍子にころっと変わる可能性だってあるわ」
そうだろうか。
たしかに大切にされている感覚はある。しかし頭を撫でられたり頬をつねられたり、兄妹というよりも兄弟のような関係な気もする。
隊のみんなからも、ラジアスが女性にそんなに気軽に触れたりするという話などは聞いたことがない。
「でも、私なんかじゃ・・・」
すっと私の唇にルシエラの細い人差し指が当てられた。
「私なんて、私なんか」
「え?」
「さっきから貴女が口にしている言葉よ」
「あ・・・」
「自分を卑下する言葉は嫌いだわ。自分で自分の価値を下げてしまうもの」
「・・・」
「・・あのね、ハルカちゃん。ラジアスの手紙には貴女のことがこう書かれてあったわ。
―― 慣れない世界で辛いはずなのに弱音を吐かず、大変な努力家。よく気が利き、朗らかで、皆から好かれている。貴方を見ていると自分も頑張ろうと思える。流民が貴女のような子で良かった―― ですって」
「ラジアス様が、そんなふうに・・」
ルシエラが私の両肩をそっと包む。
「ねえ、ハルカちゃん。今すぐ自信を持てとは言わないわ。そういうものはいろいろな物事を積み重ねて手に入れるものですもの。でもね、貴女の好きな人がこんなにも評価している貴女を貴女自身が否定しないであげて」
握りしめていた手の甲にぽたっと水滴が垂れた。
真っすぐこちらを見ながら言われた言葉に、私は自分でも気づかないうち涙を流していたのだ。
突然来てしまったこの世界で、帰ることのできないこの世界で、ここにいて良いのだと思える理由が欲しかった。光珠を完成させたことで、その理由を手にすることが出来たと思っていた。
でも本当は、本当は――― 特別な魔力がどうとか、魔力量がどうとかではなく、ただ私という人間の存在を認めてもらいたかったのだと気付く。
ラジアスは魔力のことに触れず、私自身を見て流民が私で良かったと言ってくれているのだ。
ぽたぽたと溢れ落ちる涙を止めることが出来ない私をルシエラはそっと抱きしめた。
「ああ、もうそんなに泣かないで。とにかく!私がハルカちゃんを気に入ったのも、嫁いできても良いと言ったのも本当よ。なんならハルカちゃんが自信を持てるまでラジアスに余計な虫が付かないように手を貸したって良いんですからね」
急にいたずらっぽく言われた言葉に思わずきょとんとしてしまう。
「・・・ありがとうございます。ルシエラ様が味方になってくださるなら心強いですね」
「あら、味方になるのはガンテルグ家よ?」
「へ?それは、また、ずいぶんと強力な・・・これは頑張らなきゃですね」
「ふふ、外堀はしっかりと埋めておいてあげるわよ?」
どこまで本気かはわからないがルシエラの励ましに自然と笑うことが出来た。目尻に残った涙をやや雑に手で拭っているとガチャリと部屋の扉が開く音が聞こえ、目をやると入ってきたのはラジアスだった。
ラジアスは部屋に入ってくるなりルシエラに詰め寄った。
「母上!一体何だっていうんですか。なぜ自分の家で部屋に閉じ込められなければいけないんですか?!」
「だって、貴方がいるとハルカちゃんとじっくり話せないじゃない」
「だってじゃありませんよ。大体ハルカと何をそんなに・・・」
この時部屋に入ってきて初めて私を見たラジアスは目を見開いて動きを止めた。
「ラジアス様?え?・・・うわっ!」
ラジアスは私の腕を引いて立たせると、自分の後ろにルシエラから隠すように私を移動させた。そしていつになく強い言葉と視線をルシエラに向けた。
「・・・母上、ハルカに何を言ったんですか?」
「何って・・・ラジアスがいたら話せない女同士の話よ?あなたに言えるわけがないでしょう。あ、ハルカちゃんのこと気に入ったわって話もしたわよ」
「ふざけないでください。だったらなんでハルカは泣いているんですか!」
ラジアスは座るルシエラを睨むように見ている。
(これは、もしかしなくても私がルシエラ様に泣かされたと思ってる…!)
呆けている場合ではない。私は慌ててラジアスの背中のシャツを掴んだ。服を掴まれたラジアスは私を背に隠したまま顔だけをこちらに向けた。
「ちが、違います!」
「ハルカ・・・母上に何を言われた?」
「誤解です!これは、あの嬉し涙というかなんというか・・・と、とにかく!ルシエラ様に何か言われたとかじゃないんです!」
「本当か?」
私は思い切り頷いた。その瞬間張りつめていたラジアスの空気が和らいだ気がした。
ラジアスはルシエラの方に向き直ると頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「母親を疑うなんて失礼しちゃうわ。お腹を痛めて産んだ息子に疑われるなんて、私とても傷ついたわ~」
ルシエラは頬に手を当てて首を傾けひとつ溜息を吐いた。
傷ついたと言う割にどこか楽しそうである。
「・・・母上が疑わしいことをするからですよ」
「あら、私のせいだっていうの?」
「俺を部屋から出さないようにしたりしたでしょう」
「だから女同士の話に貴方がいたら邪魔だって話をしたでしょう」
「だからってねえ・・・」
「あのー」
「どうしたハルカ?」
「さっきも言ってましたけど部屋に閉じ込められたって何ですか?」
「ああ、それはな――」
ここに至るまでの経緯を話し始めたラジアスは何処か疲れた様子だった。
一体何があったのか。
ギリギリですが今年中に一話更新出来て良かった・・・(ノД`)・゜・。
活動報告にも書きましたが、今年の更新はこれで最後です。
また来年お会いしましょう。
良いお年を~!




