40.女同士の話
遅くなりました!
今回は少し長めですがお付き合いください。
「ま~、お肌すべすべですね!」
「ハルカ様、本当にお化粧していなかったのですね」
「スタイルも良くて羨ましいですわ」
「アリガトウゴザイマス・・・」
なぜ。
なぜなのか。
今は夜。
しかし私がいるのは騎士団の自室ではない。
私が今いるのはガンテルグ侯爵家の、ラジアスの実家の客間に付いている浴室なのである。
ラジアスの母であるルシエラは、ラジアスの言っていた通り怖い人などではなかった。常に笑顔でとても感じの良い美しい人だった。
話も弾み、豪勢な夕食まで用意してくれて、私はその美味しい料理に舌鼓を打った。
夕食も終わり外はすっかり暗くなり、そろそろお暇する時間なのではとラジアスを見ても全く動く気配が無い。
そろそろ帰らなければ明日の仕事に支障をきたすと思いラジアスに声を掛ければ、驚きの答えが返ってきた。
「え?今日はこのまま泊まって明日帰る?」
「ああ、念のため二日間休暇を申請してきたから大丈夫だ」
「は?え?何ですか?副隊長は元からそのつもりだったんですか?」
「・・・副隊長じゃなくてラジアスな」
今はそんなことどうでも良いと思う。そこじゃない。
「~~ラジアス様!これで良いですか?!でも今はそこじゃないんですけど!」
「そんなに怒ることないだろう。大体あの母上がそう簡単に帰してくれるはずがない」
「私は今日初めてルシエラ様にお会いしたんですよ?」
彼女がどういう人かなんて私が知るはずもないのにこんな展開わかるわけないじゃないか。
「はっ!それに私泊まりだなんて思ってもみなかったので着替えも何もありません」
「それは俺も思った・・・から一応帰る旨は伝えたのだが」
「では、なぜ」
「着替えも何もかも全てこちらで用意するから問題ないと押し切られた・・・」
ああ、なぜか笑顔で押し切るルシエラが容易に想像できてしまった。
「諦めろ。この家で俺に権限など無いに等しい」
「・・・ラジアス坊っちゃんは一番の下っ端ですもんね・・・」
「・・・ああ」
私とラジアスは二人揃って溜息をついた。
私が回想している間にも作業はどんどん進んでいく。
タオル一枚でベッドに寝かされ全身マッサージを施される。終わる頃には体も髪もすべすべのツヤツヤである。ああ、なんだか前にもこんなことあったな。そして今回も以前と同じように、私の一人で入れるという意見は綺麗に無視され今に至る。
「甘いものよりもすっきりとした香りを好むとラジアス様からお聞きしましたのですが、いかがです?」
たしかにいつものものとは違うが爽やかな良い香りがする。
「良い香りですね。ありがとうございます」
「ようございました。では御召し物はこちらを」
胸元で切り替えのある白いワンピースのようなものを渡される。なんだかひらひらしていてとても可愛らしい。これはネグリジェというものだろうか。可愛らしすぎて着るのを躊躇うが、用意してもらって文句を言える立場でもないので大人しく着ることにした。
「まあ、可愛らしいですわ。ささ、上にこちらを羽織ってくださいませ」
次に渡されたのはふわふわの白いガウン。羽織ってみるととても軽く、肌触りもとても良い。さすが侯爵家。これも絶対高いものだろう。
ガウンを羽織ると与えられた客間から最初に通された応接間に連れてこられた。
「中で奥様がお待ちでございます」
コンコン―――
「奥様、ハルカ様をお連れいたしました」
「どうぞ、入ってちょうだい」
中に入ると、ルシエラがワイングラスを片手にソファに座っていた。彼女もお風呂に入った後なのだろう。私と同じような格好をしているが私と違いよく似合っている。
「どうしたの?こっちいらっしゃいな」
「あ、すみません。ルシエラ様がお綺麗だったので・・・」
そう言うとルシエラは一瞬きょとんとした顔をした後思いきり私の背をバシバシと叩いた。
「いやだ、もうハルカちゃんったら!もう男装は解いたのだからそんなこと言わなくても良いのよ!」
どうやら完全なお世辞だと思っているようだ。
「嘘じゃないですよ?とてもラジアス様をお産みになった方とは思えません。最初にお会いした時はラジアス様のお姉様かと思いました」
「まあ!まあまあ!嬉しいことを言ってくれるじゃない。あ、そちらに座って?ハルカちゃんも一緒に飲みましょうよ」
ルシエラは自身の隣に座るように言って手に持っていたワイングラスを傾けた。
私は一人分の空間を開けてソファに腰を掛けた。
「すみません。私未成年なのでお酒はちょっと・・・」
「あら、そうなの?そういえば貴女おいくつなの?そこまで幼いようには見えないのだけれど」
「18歳です」
「そうなのね。良かったわ~。あ、この国ではもうお酒も飲める歳よ。ラジアスも16の頃には飲んでいたもの」
「そうなんですか。・・・ところでラジアス様は?」
「ああ、あの子も今頃湯浴みでもしているんじゃないかしら。ハルカちゃんと女同士の話をするのに邪魔だったから部屋に戻らせたの」
「女同士の話・・・?」
思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
相変わらずにこにことしているルシエラだが、何か私に言いたいことがあるのだろうか。それもラジアス様がいては言えないようなことが。
私の不安な気持ちを感じ取ったのか、ルシエラは慌てて話を続けた。
「違うのよ?!そんな怖いことじゃないから安心して。恋のお話よ!」
「え?こ、恋?」
「そう。そんな話に男なんて邪魔なだけじゃない?」
「は、はあ」
「聞きたいことがたくさんあるのよ。さっそくだけれど、今お付き合いしている方はいるの?」
「い、いませんよ!」
「じゃあどういう方が好み?」
「好みって・・・」
この時私の頭に浮かんできたのはもちろんラジアスの姿だ。この私の一瞬の間をルシエラは見逃さなかったらしい。
「今思い浮かんだ人がいるのね?どういう方?」
なんだろう。笑顔なのに押しが強い。グイグイ来る。そしてこの笑顔には逆らえる気がしない。しかし今ここで思い浮かんだ人を話すということは、すなわちラジアスの母親にラジアスのことを語るということだ。これは一体何の罰ゲームかと思うが、この流れでは言わざるを得ないのだろうなと諦めて仕方なく話し始めた。
「そうですね・・・面倒見が良くて、みんなから信頼されていて、いつも気にかけていてくれて・・・それで、無意識だと思うんですけど、かけてくれる言葉が温かくて、私はその言葉にいつも救われているんです」
「そう、そうなのね」
ルシエラが温かい目で私を見ている。
「お顔は?どのような感じの方?」
「とても格好良いと思います。女性にも人気があるようですし。・・・でも、あんな笑顔を向けられたら多くの女性が憧れてしまっても仕方がないと思います」
「あんな笑顔?」
「・・・とても柔らかく笑うんです。その笑顔を見るとまるで太陽の日差しに包まれているように心が温かくなるんです」
「ハルカちゃんはその人のことが好き?」
「・・・はい。気づいたのは最近なんですけど。でも私なんて妹のようにしか思われていないんですけどね」
「想いを・・・その彼に想いを告げたりはしないの?」
「いずれは言えたら良いですけど、今はまだそんな勇気ありませんよ。いろいろな意味で自分に自信がありません」
私が想いを伝えられない一番の原因はここにある。以前よりも美容に気を使ってはいるものの、やはり他のご令嬢方と比べて自分は女として全然足りていない気がするのだ。
それに加えて、告白して振られた場合に今の関係性が壊れてしまうのではないかという不安もあった。きっとラジアスは気を使って今まで通りに接してくれるだろうが、それに自分が耐えられる気がしない。
消極的なことを言う私の手をルシエラが両手でぎゅっと握って真剣な表情で私を見つめて言った。
「ハルカちゃん、貴女は素敵な子よ。まだ会って少ししか経っていないけれど、私は貴女のことが好きだわ。ラジアスのことをそんなふうに表現してくれる貴女のような子がラジアスの隣にいてくれたらとても嬉しい。勇気も自信も無いなんて言わないでちょうだい。少なくともラジアスを思う気持ちには自信をもって良いのよ」
ルシエラはラジアスと同じような柔らかい笑みを浮かべて言った。
「あの子の母親である私が言うのだから本当よ」
いつも読んでいただきありがとうござます。
ブクマ&誤字報告もありがとうございます。
投稿前には何度もチェックしているのになぜ誤字に気付かないのか・・・情けない。




