4.イケメン登場
ヴァウォ―――ン グルルル ヴァウォ――――ン
お城に気をとられていると、横でユーリが急に遠吠えを始めた。
狼と虎を混ぜたようなお腹に響く不思議な声だ。
どうしたのかと尋ねると、人を呼んだと言われた。
しばらくすると奥から帯剣している2人の男の人たちが走ってくるのが見えた。
「月白の銀狼殿!」
「どうされましたか?!」
『急用だ。ラジアスは?』
「ラジアス様は今急ぎこちらに向かっているかと。」
「ところで、そちらの奇妙な服装の人物は……」
そう言うと二人のうち背の高い赤茶の髪の青年と目が合った。
上から下まで確認するように見られ、いや睨まれている。
気持ちはわかるぞ、お兄さん。
だって見たことのない服を着た人物がお城の敷地内にいるんだもんね。
たぶん格好から察するにお兄さんたちは騎士とかそういった立場なんだろう。
不審者を警戒するのは当たり前。ちゃんと仕事してますね、お兄さん。
とりあえずここは笑顔だ。
「こんにちは」
アルバイトで培った仕事用スマイルでにっこり微笑んで挨拶。
敵意は無いですよとアピールしておかねば。
『この者はおそらく流民だ。森の奥の泉にいたので連れてきた。流民の管轄はここだったはずだからな』
「へえ! 流民ですか?! 俺初めて見ましたよ!」
そう言ってこちらに目を向けたのはもう1人の金茶のくるんとした髪の青年だ。
まじまじと見られて居心地が悪い。
思わずユーリの後ろに下がってしまった。
「ユーリ、流民って……」
私を指している流民とは一体何なのかと聞こうとしたところで、奥から走ってくる人物が見えた。
「久しいな、ユーリ!」
そう手を挙げながら近づいてきたのはアッシュベージュの髪に琥珀色の瞳をした見目麗しい人だった。
うわぁ……格好良いー。
あまりの格好良さに目を瞠った。これは道を歩いていたら10人中10人が振り返るに違いない。
それくらいのイケメンである。
他の2人もそうだけどイケメン率高いなぁ。それともこの世界の人みんなこんな感じなのかな。
それにしてもここまで会った3人全員が“ザ・外国人”な見た目である。
時間が経てば経つほど自分がいるのは日本じゃないんだなと痛感させられる。
「で? 急に呼ばれた理由はそこのか?」
琥珀色の瞳がこちらに向けられた。
『そうだ。森の奥で拾ってきた。おそらく流民だろうから後は任せるぞ』
「おいおい、その感じだとまさか何も説明してないんじゃないだろうな?」
『そんなものは貴様らがやれば良いだろう。――では、私は帰る』
そう言って踵を返そうとしたユーリに思わず手が出た。
「待って! もう行っちゃうの?」
きっと今の私は何とも言えない顔をしていることだろう。
出会ってからわずかな時間しかたっていないのに私は無意識にユーリを信頼していたようだ。
『そんな情けない顔をするな。少なくともそこのラジアスは信頼できる男だ。悪いようにはならないだろうから案ずるな』
「――わかった。ここまで連れてきてくれてありがとうユーリ」
ぎゅっとユーリに抱きついても今回は嫌がられなかった。
なんだかんだ優しいんだ。
『どうしても困ったことがあれば呼べ。気が向いたら来てやろう、お前の匂いはもう覚えたからな。――ではな』
「うん、またね!」
手を振ってユーリが見えなくなるまで見送った。
読んでいただきありがとうございます。
これでもユーリは春歌のことを結構気に入っています。




